「一つのポゼッションに集中するんだ」
現地3月3日に行われた敵地でのサンズ戦、サンダーは第3クォーター序盤に82-58と最大24点のリードを奪ったが、そこからサンズの猛追を浴びて逆転を許した。デビン・ブッカーは欠場していたが、ケビン・デュラントとブラッドリー・ビール、さらにユスフ・ヌルキッチが14得点31リバウンド、オフェンスリバウンド13と大活躍して、サンズは『ビッグ3』と呼ぶべき力強いパフォーマンスを見せていた。
どんなチームでも一度崩れてしまった後は立て直すのは難しいものだが、ここでサンダーが見せたのは勢いはあっても経験の足りない若いチームの脆さではなく、西カンファレンスのトップチームとしての堂々たる姿だった。
チームを牽引したのはエースのシェイ・ギルジャス・アレクサンダーだ。第4クォーター最初の3分半をベンチで休んだ彼は、4点ビハインドの残り8分半でコートに戻る。ここから11得点2リバウンド1アシスト1スティール1ブロックと攻守に目覚ましいパフォーマンスを見せ、試合の流れをサンダーへと引き戻し、そのまま一気に押し切った。
第4クォーターに活躍したのはシェイだけでなく、ジェイレン・ウィリアムズはシェイに相手のマークが集中した時に迷わずシュートを放って8得点、チェット・ホルムグレンはヌルキッチの勢いを止める踏ん張りを見せた。結果として118-110でサンダーが勝利。この日、ライバルのティンバーウルブズが敗れたことで順位が入れ替わり、サンダーは西カンファレンス首位へと浮上した。
チームに勢いがある時に良いプレーをするのは簡単だが、その逆は難しい。サンズに圧倒される展開から押し返す原動力になったシェイは、その理由を「平常心でプレーすることだろうね」と語る。「常にそのワンポゼッションに集中し、そこで上回ることを考える。バスケは駆け引きが大事なゲームで、試合を通じて流れが行ったり来たりするものだけど、流れを変えるには自分が良いプレーをするしかない。だから一つのポゼッションに集中するんだ」
サンダーはここまで42勝18敗、開幕から60試合を終えて大混戦の西カンファレンスで首位に立っている。これまでサンダーを「若さに任せた勢いだけのチーム」と懐疑的に見ていた人たちも、その考えをあらためる時期だ。それと同時に、シェイにはシーズンMVPの呼び声が高まっている。MVPの最有力候補と見られたジョエル・エンビードは膝のケガで長期離脱となり、受賞資格を失った。そのタイミングで活躍を続け、チームが好調を維持することで、シェイのMVP受賞の可能性は高まっている。
ただ、シーズンMVPは『65試合以上に出場する』以外に基準があるわけではない。チーム成績がどれほど考慮されるのか、どのスタッツが最も重要なのか、そこに明確な指針はなく、言わば『全体の雰囲気』で決まる。シェイはここまで31.2得点(リーグ2位)のスタッツ、西の首位というチーム成績ともに申し分がない。不安要素はネームバリューだろうか。昨シーズンにオールNBA受賞を果たした今も、スタートしての知名度ではルカ・ドンチッチが上。そのドンチッチは得点ランキングトップの34.5得点を記録している。
全体的なバランスでは、ニコラ・ヨキッチが25.9得点(リーグ14位)、12.2リバウンド(同4位)、9.2アシスト(同4位)で上回る。しかし不思議なことに、MVPレースでは連続受賞は避けられる傾向が明らかに存在する。すでに2021年、2022年にシーズンMVPを受賞し、昨シーズンにはファイナルMVPを受賞しているヨキッチが3度目のシーズンMVPになるには、『印象度』でライバルをぶっちぎる必要がある。
もっとも、現時点でMVP争いに興味を持つのはファンとメディアだけ。「一つのポゼッションに集中する」シェイも例外ではない。彼は「MVPは小さな子供の頃から目指していた目標の一つだけど、その頃に夢見ていたのと同じように遠いものでもある」と語る。
自身がシーズンMVPに選ばれる可能性について問われると、彼は「分からない」と答えた。「僕はこれまで、自分の目標を意識するあまり、目の前の踏むべきステップを飛ばしてしまうことがあった。それから、目の前のプレーに集中し、楽しめるようになった。ここ数年で僕が何らかの成功を収めることができたのは、その経験から学べたからだと思う」