グレイソン・アレン

「ブーイングは聞こえていた。それでいいんだ」

第4クォーター残り8分22秒、ドマンタス・サボニスからのキックアウトを受けたディアロン・フォックスが、ポンプフェイクでディフェンスを飛ばして右コーナーからの3ポイントシュートを沈める。キングスが109-87と22点リード。サンズはもう主力を下げてあきらめてもおかしくない場面だったが、実際にはその反対のことが起きた。ここから32-8のランで試合をひっくり返したのだ。

キングスには油断があった。セーフティリードを得たことでペースを落としたが、それは彼ら本来のスピードを生かしたバスケとは対極で、自らリズムを乱すことになった。相手の攻撃を止めて速攻に転じることでサンズは点差を16まで縮め、残り5分でジョシュ・オコーギーに代えてエリック・ゴードンを投入する。ケビン・デュラント、デビン・ブッカー、ブラッドリー・ビールの『ビッグ3』に、グレイソン・アレンとゴードンというラインナップは、これまで5分しか起用したことのないものだが、これが反撃を加速させた。

デュラントが臨時のセンターになり、残る4人は190cm台という極端なスモールラインナップ。それでも全員が小さければディフェンスでミスマッチは生まれない。オールスイッチでキングスにズレを作らせず、四方八方から腕を伸ばして守り切ると、速い攻めからは狙うのはひたすら3ポイントシュート、そして速攻からのダンク。4本の3ポイントシュートと2本のダンクで猛追し、残り45秒で115-115の同点に追い付いた。

残り30秒ではキングスが攻める場面でサボニスのルーズボールファウルがあり、それで得たフリースローをデュラントが決めてサンズがついに逆転に成功。フォックスがドライブでゴードンをかわして同点シュートを決めて意地を見せたが、続くポゼッションでデュラントのプルアップを放つ腕を手で叩いてしまい、このフリースローで勝負アリ。フェニックスの観客が総立ちで見守る中、デュラントはこのフリースローを危なげなく2本成功させ、試合を決めた。

サンズはここまでケガ人が多くてベストメンバーを組むことができず、選手の組み合わせに四苦八苦してきたが、意外なスモールラインナップが効果を発揮した。「何と言ったらいいのか分からないよ。クレイジーな試合だった」とデュラントは言う。「いつも勝つ時には試合の流れが理解できるものだけど、今日は分からなかった。すべてがあっという間に起きた」

この逆転劇の主役は、デュラントよりもむしろゴードンであり、アレンだった。キャリア6年目のグレイソン・アレンはタフで抜け目のない『3&D』で、この試合では14本中9本の3ポイントシュートを決めている。「良いオフェンス、良いボールムーブメントのおかげだよ」とアレンは言う。

「僕らには爆発力がある。10点や15点なら一気に挽回できる。だから大事なのは、劣勢でも集中を切らさないこと。粘り強く戦って、その時を待つんだ」

大学時代からアレンはチームが勝つためなら汚れ仕事を厭わない『悪役』を演じてきた。見るからにダーティーなプレーはもうやらなくなったが、そのメンタリティは今も持ち合わせている。この試合でも、途中までの不甲斐なさにファンからブーイングも飛び出したが、アレンは「ブーイングは聞こえていた。それでいいんだ」と語る。

「良いプレーができていなかったから、チケット代を払っているファンが不満を感じるのは分かるよ。でも、そこから第4クォーターに僕らの反撃が始まった時の反応はすごかった。ああいう観客のエネルギーは僕らの力になる。相手の攻撃を止め、スピードに乗った反撃に転じて3ポイントシュートを打つ勢いを与えてくれる。あれだけの反撃ができたのは、観客が作り出した会場のエネルギーのおかげだ。もう少しブーイングは控えめにして、一緒に協力できるとベストだけどね(笑)」