恩塚亨

2023年、日本バスケットボール界は男子代表がワールドカップでアジア1位となり、48年ぶりとなる自力でのオリンピック出場を決めた。そして2024年の2月、男子に続いてパリへの切符をつかむべく、女子代表はオリンピック最終予選(OQT)の大一番に臨む。東京オリンピック後の就任から着実にチーム力を向上させてきた恩塚亨ヘッドコーチに、OQTへの意気込みを聞いた。

難敵の中国を相手に2試合続けて接戦「世界との差は近づいたという認識です」

――ワールドカップ2022はグループリーグ敗退と厳しい結果でした。そこから2023年はアジアカップ、アジア競技大会で、ともに中国相手の惜敗で2位でした。今の中国は世界トップ3に入る強豪です。その相手と接戦を演じたこともあり、この1年をどのように総括しますか。

優勝という目標が達成できなかったのは残念で、悔しいです。一方、チームの成長という目で見た時には、大きな手応えを得た1年でした。具体的に言うと、自分たちの戦い方を確立させることができました。アジアカップ、アジア競技大会と、選手たちから『これができたら戦える』という言葉を聞けました。そこは大きな成果です。

――アジアカップ、アジア競技大会での中国戦で得た手応えや反省はどのようなモノがありますか?

アジアカップに関しては、やり抜くことに対して少し遂行力が落ちました。フィジカルのタフな状況の中で、自分たちのやるべきことをやり抜けなかったです。それがディフェンスの甘さとして特に大きく出てしまいました。この反省を経て、よりフィジカルなトレーニングを行い、レフリーとも親密に連携を取りました。ファウルに関しては国際基準でのプレーの経験を積み、アジア競技大会ではフィジカル面でかなりやり抜けるようになってきました。

ただ、アジア競技大会でも最後は余裕がなくなってしまいました。大会中に2人が離脱したことで、いつもと違うローテーションで戦わざるを得なくなり、難しい時間帯が生まれた負荷の影響はありました。その結果、やり抜くことはできたけど余力がなくて、良い判断ができずに失点する。ヘルプやコミュニケーションができないところはありましたが、確実に積み上がっていると思います。

――ワールドカップ後の代表の戦い方を見ると、選手交代のタイミングが大きく変わりました。ワールドカップでは数分刻みで変えていたのが、そうでなくなった印象があります。

例えば、ある程度の時間をプレーすることでリズムをつかむタイプもいれば、短時間ですぐに力を発揮できる選手もいます。いろいろな選手がいるのでそこはアジャストしています。それぞれの特徴を踏まえた上で、パズルを組み合わせるようにローテーションを組んでいます。

――ワールドカップでのグループリーグ敗退など、2022年の苦い経験を経て2023年に成長できた要因はどんなところにあると思いますか。

積み重ねによる成長は、もちろんあったと思います。ただ、一番は選手やチームが抱えている課題を元に、改善を繰り返していけたことです。ワールドカップで出た課題と向き合い、今の選手たちの状態、状況にあった解決策を打ち出す。それにプラスして、相手の戦い方に対する答えの質も上がりました。この2つがうまく調和しているのが大きいです。

――東京オリンピック後、チームの変化をどのように感じていますか。

簡単に言うと、東京オリンピックでは速さ、シュート力を武器に勝ちました。当時は、日本のやりたいことができていました。東京オリンピックで日本が困るような戦い方をしてきたのは、決勝戦のアメリカだけで、それ以外は日本対策で特別なことをやってこなかったです。それが今は追われる立場となり、しっかりと分析されるようになりました。どのチームも日本の嫌がることを徹底してやってきます。

また、東京オリンピック以降、各チームのフィジカルのレベルは上がっています。また、FIBAの審判委員長も代わって、判定もよりフィジカルになりました。結果として、日本としては自分たちの土俵で戦いづらい状況になりました。それを乗り越えられたことで、ワールドカップ2022の時と比べると、世界との差は近づいたという認識です。

恩塚亨

「どんな状況でも、最後まで自分たちのバスケットボールをやり抜けるようにする」

――OQT直前ですが、Wリーグの開催中で代表活動ができない中、どういったことに取り組んでいますか。

この3カ月間、自分たちや対戦チームのことを猛烈に勉強しています。そして代表活動を行う時、いかに効率的に本気で勝つための要素を入れられるかにエネルギーを注いでいます。本当に大変なことで今も毎日、7時間、8時間と映像を見ています。毎日、選手と一緒に練習しながら試せる方が良いに決まっていますが、変えられないものは変えられない。今、与えられた状況で論理的に勝つための準備をしています。

――OQTの対戦相手の世界ランキングを見るとスペインは4位、カナダは5位と日本(9位)より上です。ハンガリーは19位ですが、ホーム開催の大きなアドバンテージがあります。対戦相手の印象を教えてください。

スペインは言い方が難しいんですが、喧嘩が強いなという感じです。爆発力もありますし、戦い慣れしています。そしてギャンブル的な要素のスティールを仕掛けてくる、勝負師の軍団というイメージです。特にディフェンスが強く、読みとボールマンプレッシャーに注意しないといけないです。

カナダはWNBAでプレーしている選手も多く、個の戦う能力はすごく高いので、個で打開してくる力が強いです。逆に私たちはチームで戦ってカナダの個を停滞させ、孤立させるような戦い方ができるかが鍵となります。

ハンガリーは統率の取れたフィジカル集団で、ラグビーチームみたいな感じです。 最後までブレずに戦い抜いてくるし、ものすごいフィジカルです。腕を使ったり、あえて突き飛ばしたりもしてきます。特にインサイドの部分で僕たちが先手を取って戦えるのか、リバウンドを制することが重要です。

――フィジカルで負けないことが最も重要ということでしょうか。

3チームとも、本当にフィジカルです。その上で、ファウルを吹かれないので、しっかりと準備をしないと相当に面を食らうと思います。また、会場もハンガリーですし、かなりフィジカルな戦いになることが想定されます。

――強力なフィジカルを持つ相手に対し、日本はどんな戦いで勝機を見出していきますか。

結局はいかに自分たちの土俵で戦えるかが、1番の本筋になります。フルコートで速い展開に持ち込む。相手がぶつかってくる前に先にぶつかるなど、自分たちから仕掛けて有利に状態になった上でコンタクトをする。その積み重ねが大事で、この状況を作り出していく準備をしています。普通にやったら相手の土俵に引きずり込まれると思っているので。

直前の合宿では新しいことができるようになるというより、どんな状況でも最後まで自分たちのバスケットボールをやり抜けるようにする。この目標設定で臨みたいと思います。裏を返せば、それさえできれば勝負になるという論理的な確信はあります。