「ディフェンスで貢献できればと考えていました」
準決勝の岐阜女子戦。残り10秒からのラストポゼッションで、札幌山の手の巻朋花は左45度のポジションで両手を上げ、ボールを呼び込んだ。
髙橋優希からパスが渡ったのは残り1秒。残り0.4秒、体勢を崩しながら巻が3ポイントシュートを放った瞬間に試合終了のブザーが鳴った。バックボードに当たったボールがリングを通過するのを見届けると、巻はしゃがみこんで涙した。最終スコアは46-76。札幌山の手の2年連続の決勝進出は叶わなかった。
巻のこの日の3ポイントシュートスタッツは、13本試投の2本成功。上島正光コーチは、巻のシュートがこれだけ入らないのはなかなかないと話した。「ウチは巻と谷口(憂花)が入らなかったらこういう試合になってしまう。特に巻はあせって打っているのが見え見え。『入れなきゃ、入れなきゃ』って」と冷静な評価を述べつつ「でも責任感のある子だから(そうなるのも仕方がない)。それにシュートを打つのは彼女の仕事だからね」と、打ち続けた姿勢は咎めなかった。
巻自身にもシュートを打ち急いでいたという自覚はあった。「岐阜女子さんは全員自分たちより大きい。インサイドでは簡単に打てないのは分かっていたし、マークが空いたら打つということは全員で共有していました。でも点差が広がって、時間がなくなっていくうちに、ちょっとあせってしまった部分はあったのかなと思います」
加えて、巻には岐阜女子のスーパーエース・絈野(かせの)夏海とのマッチアップという大きなミッションも与えられていた。点取り屋とエースストッパーの兼任。負担は大きかったのでは?と尋ねると、「自分はオフェンスは3ポイントしか武器がないので、ディフェンスで少しでもチームに貢献できればと考えていました」と話し、「相手のエースを任されたので、そこで少しでも点数を抑えたいと思っていました」と、大きな誇りを持って大役に挑んでいたことを明かした。
事実、巻は最も警戒していた絈野の3ポイントシュートを2本に抑えることに成功している。「最後は絶対に自分が打って終わってやる」。ラストポゼッションは強い気持ちでボールを呼び込んだ。「入ったのはちょっと自分でもびっくりなんですけど、そういう気持ちも繋がったのかなと思います」と少し笑みを見せた。
偉大なエースから引き継いだキャプテンの座
昨年キャプテンを務めた森岡ほのか(現日立ハイテククーガーズ)の母で、札幌山の手の卒業生でもあるいづみさんが指導するミニバスケットボールチームでバスケを始めた。清田中に進学してからは札幌山の手と何度も練習試合を行った。「山の手でバスケをしたい」という思いは、巻の心の中にずっと根付いていたものだった。
準優勝に輝いた昨年のチームでは、プレータイムはほぼ得られていない。偉大なエースだった森岡からキャプテンを引き継ぐことになったときは葛藤もあった。「練習でも試合でも、苦しい場面になったら必ずほのさんが点を取ってくれたし、『ほのさんにボールを渡せば絶対に何かしてくれる』という安心感があったんですけど、今年は自分がクリエイトすることができなくて、仲間に作ってもらったフリーで3ポイントシュートを打つしかできなかった。苦しい場面でもっと貢献できたらなとは思いました」
しかし森岡は森岡、自分は自分と気持ちを切り替えた。「声をかけることであったり、ディフェンスであったり、ルーズボールだったり、コート外での姿勢だったりでチームを引っ張っていこうと思っていました」
上島コーチがチームの生命線とする3ポイントシュートも、中学時代から得意だったわけではない。入学後から少しずつ磨き上げ、今年はナチュラルポジションであるポイントガードからシューティングガードにコンバートされたことで、さらに意識を高めた。「上島さんからも『どんどん打て』って言われるようになって、最後は自分の武器だと思えるくらい、自信を持って打てるようになりました」
留学生はいない。180cm超の長身選手もいない。それでもアウトサイドシュートを主体とした流麗なオフェンスでインターハイ、ウインターカップともに3位という成績を挙げた。ラストシュートの成功は「チームのために自分ができることを精一杯やる」という姿勢を貫いた巻に、バスケットボールの神様が与えてくれたプレゼントだったのかもしれない。