阿部諒

「彼らなしでは良い状況判断はできていない」

仙台89ERSはアウェーで臨んだ秋田ノーザンハピネッツとの水曜ナイトゲームに87-66の完勝を収め、6勝6敗の勝率5割復帰を果たした。

球際での争いやオフェンスリバウンドで優位に立ち、前半を6点リードで終えると、第3クォーターには仙台が信条とするディフェスから流れをつかみ、25-5のビッグクォーターを作って早々に試合を決めた。

藤田弘輝ヘッドコーチが「後半のディフェンスは特に素晴らしかったです。チームがハードワークして、40分間続けて良いドッグファイトができました」と試合を総括したように、ボールマンへプレッシャーをかけ続け、簡単にオフェンスをエントリーさせなかったことが勝因となった。

阿部諒も「ディフェンスで66失点という、ナイナーズらしいバスケットができての勝利かなと思います」とディフェンスでの勝利を強調したが、オフェンスを牽引したのが彼だった。序盤からミドルシュートやドライブを高確率で決めていき、12本中9本のフィールドゴールを成功させてキャリアハイとなる24得点を記録。7つのファウルを誘発し、3アシスト、2スティールとオールラウンドに活躍した。

「ピック&ロールで良い状況判断ができました。ディフェンスに来るビックマンに対して、どれだけ自分が優位に立てるかというのはあるので、今日はそこで良い判断ができたのかなと思います。出てくるんだったら抜けるし、出てこないんだったら打つ、そこの判断は良かったと思います」

自身がそう言うように、阿部はハンドラーとして巧みな状況判断から秋田ディフェンスの隙を突き続けた。ディフェンスが寄れば緩急を使ったドライブでレイアップに持ち込み、間合いを詰めてこなければプルアップを沈める。敵将も「阿部選手に簡単にやられ過ぎた」と名前を挙げるほどの活躍ぶりだった。

まるで後出しじゃんけんをしているかのように、自身が優位な状況を作り続けたが、阿部は「ネイサン(ブース)や(ヴォーディミル)ゲルンが良いスクリーンをかけてくれたからこその結果だと思います」と言い、何度も味方の存在があるからこその活躍と主張した。

「ビッグマンたちの良いスクリーンがあるからこそ、僕は自由に動けている部分があると思います。チームで共通認識が取れている中で、彼らのスクリーンがなければ僕はここまで来れていない。彼らなしではそういった良い状況判断はできていないと思います」

藤田弘輝

「阿部ちゃんが責任感を持って、背中で体現しようとしてくれている」

リーグ首位のアルバルク東京、西地区2位の大阪エヴェッサに同一カード連敗を喫し、仙台はスタートダッシュに失敗したが、そこから6勝2敗と立て直し現在は東地区4位につけている。攻守ともに高水準な現在のチームに藤田ヘッドコーチも一定の手ごたえを得ている。

開幕の4試合はディフェンスが緩んだり、オフェンスで走らなくなったり切れる時間帯がすごくありました。アルバルクさんや今乗っている大阪さんのタレントに一気に畳みかけられたのが最初の4試合でした。でもそれ以降は本当に40分間切らさずにディフェンスを頑張るし走ります。もちろん切れる時間帯もあるんですけど、それが短くなって、また戻せる。そういう良いバスケットができている印象です」

ブースに次ぐスコアラー(平均16.6得点)のラショーン・トーマスが戦線離脱した危機的状況ではあったが、それを感じさせないパフォーマンスで秋田に快勝した。それは昨シーズンからの積み上げと新戦力の融合がうまくいっているからに尽きる。特に阿部は直近の8試合で平均15.5得点と波に乗っている。この活躍は少なからず藤田ヘッドコーチの手腕も関係しているように思えるが、「私はそんな名将じゃありません」と謙遜しつつ、阿部の躍進をこのように称えた。

「阿部ちゃんが責任感を持って、チームがやりたいバスケットを背中で体現しようとしてくれているだけだと思います。レーンが開いたらアタックすることを常に全員に言っていますが、それを率先して阿部ちゃんがやってくれています。今こうしてチームと彼のタレントが合わさって、彼の才能が開花したんじゃないかなと思っています」

どんな選手であれ、自分の得意とするスタイルがチームにフィットすることを望み、それが叶えば心身ともに充実した時間が過ごせるはずだ。阿部も「島根(スサノオマジック)の時に自分を押し殺していたわけじゃない」と前置きしつつ「チームによって役割が違うのでそれを全うしているだけですが、自分の中で楽しくバスケットができています」と言う。

クラブが信条とする泥臭いディフェンスを全員が体現し、好調な阿部がオフェンスを牽引する。得点力不足を解消した現在の仙台はダークホースとなり得る存在感を放っている。