エンビードとマキシーを中核に置くことが明確に
タイリース・マクシーが今シーズン最初のプレイヤー・オブ・ザ・ウィークに選ばれた数時間後、セブンティシクサーズはジェームス・ハーデンのトレードを決めました。クリッパーズが出せる対価に大きな変化がないにもかかわらず、オフシーズンの長い時間をかけて決まらなかった交渉が急に決まったのは、開幕からのチーム状況に満足したからかもしれません。
まだ3試合とはいえ、チームでフィールドゴール成功率50%、3ポイントシュート成功率40%、フリースリー成功率80%を超えており、ハーデンがいなくてもオフェンス力を落とすことなく、むしろ確率の良いプレーができています。ハーデンのプレーメーク能力はなくなったものの、スティールと速攻が増えており、よりイージーに得点を奪えている状況です。
ハーデンとマクシーのガードコンビは得点力はあったもののディフェンスに問題があり、同時にハーデンとジョエル・エンビードが同時にコートにいるとトランジションへの移行が悪くなっていました。ハードワークを求めるニック・ナースが指揮を執るようになったことも合わせると、ハーデンの心変わりに期待することなく、今の戦い方を進めていくほうが勝機を見いだせそうです。
新たに獲得したマーカス・モリス、ニコラ・バトゥーム、ロバート・コビントン、ケニオン・マーティンJr.という4人のウイングプレイヤーは、主役たちを支えるディフェンス力と運動量をもたらしてくれます。トレードで狙っていたテレンス・マンのようなガードが1人は欲しかった事情はあるものの、今のシクサーズがやりたいバスケを考えれば悪くない補強です。
ここ数年のシクサーズは様々な形での不協和音ばかりが目立ってきました。それは主役となれる選手が多いが故に優勝への期待値が膨れ上がり、その割には各選手が力を発揮しきれないことで結果が出ないことで生じる『犯人捜し』のような一面もありました。しかし、今回のトレードでエンビードとマキシーを中核に置いたチームであることが明確となり、2人の能力を最大限に発揮するためのロスター構成へと向かっています。
圧倒的な存在感を持ちながらも足を止めてしまう時間が長いエンビードと、スピードと得点力に秀でているものの個人技が多く攻守のバランスを崩しがちなマキシーは、長所と短所がハッキリしている選手ですが、チームプレーとハードワークでその短所を補うウイングが増えたことは、シクサーズの戦い方を安定させるはず。スーパースターを豪華に並べたチームは爆発力はあってもプレーオフの接戦に勝ち切れないことが多いだけに、この変化はポジティブに見るべきでしょう。
仮に上手くいかなかったとしても、来オフにはキャップスペースが空きます。フリーエージェント市場で大きな補強を狙うこともできれば、場合によってはエンビードをトレードに出して再建に舵を切ることも可能で、長い目で見ればチーム作りに柔軟性が生まれました。これらは『切りたくないカード』ではあるものの、今回のトレードで手に入れたドラフト指名権とともに『保険』のようなものです。
「ビッグネームを揃えても勝てない」という状況は、シクサーズ自身が体験してきたことであり、同時にプレーオフならではのハードワークに屈してきたのもシクサーズです。エンビードとマキシーを中心にハードに戦う集団に生まれ変われるのか。トレードをプラスに考えてチームの歴史を塗り替えたいところです。