「個人としても、思い通りのプレーができない悔しい結果に終わりました」

男子日本代表は、FIBAワールドカップ2023のグループリーグ初戦でドイツ代表に63-81と大差で敗れた。日本にとって痛かったのは得点が伸びなかったこと。大黒柱の渡邊雄太は20得点とさすがの存在感を見せたが、オフェンスの生命線である3ポイントシュートは35本中6本成功に終わった。

特に痛かったのは強化試合で結果を残していた代表随一のシューターである富永啓生が、3ポイントシュートの試投数がわずか2本のみ（1本成功）の5得点と不完全燃焼に終わったことだ。強化試合3連戦において、富永は15日のアンゴラ戦で3ポイントシュート14本中6本成功の20得点、17日のフランス戦で同10本中4本成功の20得点、19日のスロベニア戦では同12本中2本成功の10得点をマーク。3試合連続で2桁の3ポイントシュートを放っていたが、ドイツ戦では全くインパクトを残すことができなかった。

「ワールドカップの初戦が大事なのは分かっていましたが、その中で自分たちのバスケットボールができず、個人としても思い通りのプレーができない悔しい結果に終わりました」このように富永は試合を振り返ると、持ち味の3ポイントシュートをほとんど打てなかった要因をこう分析した。

「なんて言えばいいのか難しいところですが、なかなか、自分のいつも通りのリズムに乗れなかったです。リズムに乗れればディフェンスの強度が関係なく打てますけど、そこの部分で乗れなかったです」

富永が強化試合と同じリズムでプレーできなかった理由として、「シューター陣にはチェックが激しかったです。シューター、ノンシューターと分けてしっかり対応していました」と語るドイツの激しいプレッシャーはある。ただ、同時に起用法の違いも大きい。強化試合では3試合とも先発出場で、出だしから積極的にシュートを打っていくことで流れに乗れていた富永だが、ベンチスタートでは状況が全く違ってくる。

富永は語る。「これまでスタートで0対0のところから出ていたので、気持ちのところで違う部分もありました。自分たちがビハインドの中で、またタフショットを打ってしまうと状況がさらに悪くなってしまいます。自分のタイミングを見つけるのが難しかったです」

「試合残り3分のところで、やっと自分のプレーができたという感じでした」

ちなみにトム・ホーバスヘッドコーチは、強化試合で河村勇輝と富永だった先発ガードをワールドカップ初戦で富樫勇樹、原修太に変えた背景をこう説明している。「強化試合では多くのシュートを2番、3番のシューターポジションと1番が打っていました。ただ、（渡邊とジョシュ・ホーキンソンを使う）ラインナップでは多くのシュートを4番、5番から打ちます。これは私たちがやりたかったことです。ドイツは素晴らしいビッグマンたちがいて、彼らをゴールから遠ざけてスペースを作りたかった。そのためにも4番、5番が外から打っていくのが作戦です。出来は悪くなかったですが、ファウルトラブルで崩れてしまいました」

実際、渡邊は第1クォーターから3ポイントシュートを多く打てており、指揮官の望む形は作れていた。しかし、同時に富永の良さを消してしまう弊害が少なくともあった。「富永については、ベンチから出て爆発し、チームに勢いを与える役割をしてほしいです。彼のシューティング、得点が必要であることは間違いないです」と、指揮官は引き続き富永がチームに欠かせない戦力であることを強調する。ただ、一方で「彼は前の試合で守備の問題を見せてしまいました」と指摘している。

ホーバスヘッドコーチが語るように、強化試合で富永は何度かギャンブルプレーを仕掛けて失敗に終わるなどディフェンス面の不安定さを露呈した。しかし、ドイツと同じく、これから戦うフィンランド、オーストラリアに対してもサイズ、フィジカルで日本は劣っており、彼らを相手にロースコアの我慢比べをするのは得策ではない。アップテンポな展開に持ち込むことこそが大事であり、そのためには富永の3ポイントシュートが欠かせない。

「スタートとベンチでは試合の入り方が違います。ただ、慣れてくれば全く違ってくると思います」と富永は適応に自信を見せ、明日のフィンランドに向けて次のように意気込みを語る。「もっと早い段階で自分のリズムに乗っていく。今日はコミュニケーション不足もあったので、改善していかないといけません。一つひとつ細かい部分を修正していくことが大事です」

富永のワールドカップデビュー戦は、ほろ苦い結果に終わった。「試合残り3分のところでやっと自分のプレーができたという感じでした。ただ、もっと早い段階でそれを出さないと、勝敗に関わることができないので意味がないです」

こう悔しさを露わにした富永が、フィンランド戦でこの鬱憤を晴らす爆発力を見せることが日本のアップセットには必要だ。