2023年5月28日、横浜アリーナが沖縄アリーナと化した。チャンピオンシップ2021-22の忘れ物を獲りに、再び決勝に進出した琉球ゴールデンキングスは1戦目からファイナル史上初となるダブルオーバータイムにもつれ込む激戦をモノにすると、千葉ジェッツに連勝し悲願の初優勝を達成した。キャプテンとしてチームを牽引し、団結の力で優勝に導いたのは2016年から琉球一筋でプレーする田代直希だ。大ケガにより昨シーズンはベンチからチームを見守ることしかできなかった田代がファイナルの舞台でコートに立った時、ブースターからは大きな拍手が沸き起こった。田代だけでなく、琉球の選手はみな「キングスのファンが日本一」だと口を揃える。観客動員数は2年連続1位。熱いファンとともにつかみ取った優勝までの道のり、そして連覇への思いを聞いた。 

「キャプテンシーは僕だけが発揮するんじゃなく、みんなが発揮しないといけない」 

——まずは優勝おめでとうございます。昨シーズンはどんなシーズンでしたか?

優勝を目指して毎年やってきましたが、今年は「絶対にいけるな」という手応えは正直ありませんでした。千葉ジェッツが強かったですし、西地区での優勝も僅差で、どこが優勝してもおかしくかったので。でも、優勝を狙えるチームではあるっていうのはずっと思っていて、ただ本当に運と言いますか、特にシーズン終盤の集中力っていうのは、今まで経験したことがない感じでした。「もしかしたらいけるかもな」っていうのはチャンピオンシップ中は感じていましたね。チームとし て、追い風がすごかったです。西地区の優勝は難しいというところから、ケガ人を出すことなく優勝できたという流れに関して、僕は『THE FIRST SLAMDUNK』から始まったと思っています。沖縄でワールドカップが開催されるっていうのもあって、年末ぐらいから少しずつ盛り上がってきて、沖縄にすごくバスケの風が吹いている感覚というか、沖縄アリーナのボルテージが高いな。と僕は勝手に感 じていましたね。  

——優勝したきっかけの一つはスラムダンクだったんですね。 

そう思いますね(笑)。あとはチームメートの仲がすごく良かったところですね。沖縄アリーナにサウナがあるんです けど、練習終わりにみんなで顔を突き合わせることでコミュニケーションが発生するんです。チームビルディングの一環として、外国人選手も交えてそういう場があったのは、絶対に一つのポイントだと思います。波長が合わない人がいても、コミュニケーションが生まれるので、僕らの目標が浸透していました。アウェーで日曜日の試合が終わった後にも数人で行っていたことをきっかけに、今ではみんなで行く流れができています。 

——キャプテンとして、チームをまとめる難しさはありましたか? 

僕は難しいことは1人で抱えられないので、みんなに共有したっていうイメージです。「キャプテンシーは僕だけが発揮するんじゃなくて、みんなが発揮しないといけないんだ。発言をするからには責任を取るんだ」というスタイルでした。僕はちょっと弱い人間なので、みんなになすりつけたというか。でも、その代わり、みんなのキャプテンシーをすごく信じていたし、みんなが思ったことを発言してくれて、発言したからには俺がやるよという流れが自然と発生していました。チームのみんなに助けられて支えられたので、僕は特に何もしていないです。 

——田代選手のリーダーシップやプレースタイルに、桶谷大ヘッドコーチのスタイルや戦術がうまくはまったんじゃないかという声もあります。ご自身としてはどう感じられますか? 

それはもちろんあると思います。戦術のところでは策が当たらないと何をやってもうまくいかないので。だけど、桶谷さんは答えを出さないスタイルなんですね。1から5ぐらいまで伝えて、あとの6から10は君達で埋めてねっていう感じなので、正解に行かないですよね。だから、あとは誰がどうやってプレーを作っていくかっていうところが、僕達に対しての課題でした。それをサウナでみんなで喋って、トライしていこうと。このサイクルがすごく良かったと思います。 桶谷さんとは個人的にも話したりはしますけど、関西のおっちゃんで、めちゃくちゃ食べます(笑)。一緒に食事に行ってお腹いっぱいになったと思ったら、「たっしー、ラーメン行かん?」って言ってきたりしますね(笑)。 

——コーチやスタッフとの結束はいかがでしたか?

コミュニケーションが取れていたと思いますし、スキルコーチのKJ(山下恵次)が、選手とコーチ、トレーナーをすごく繋いでくれました。そういった意味で、KJは裏MVPです。スキル以外のところもマネジメントしてくれました。

——琉球は沖縄アリーナの観客動員数などを見てもわかるように、ファンを育てるという点で成功していると見られています。ファンについてはどう思いますか?  

キングスのファンは熱いですからね。バスケットを見る目もすごく肥えているので、日本一だと僕は思っています。盛り上がり方とかも全部分かっているし、僕たちの1番の強みはファンでもあります。 というか、「僕たちの魅力は何?」っていうとファンしかないですね。試合を見に行った時に、どんなに面白いバスケットが展開されても、お客さんたちが静かに見ていたら面白くないと思うし、ちょっとダメな試合だったとしても、ワーッと盛り上がったら楽しめると思うんです。そういう雰囲気を毎試合作ってくれているファンには感謝しかないですし、そういった環境でバスケットできているので幸せ者だなと思います。 

——プライベートはどのように過ごしていますか? 

沖縄生活もそれなりに長くなり、過ごし方もある程度分かってきたので、僕は家でゆっくりしている感じですね。キングスは家庭持ちが多くて、プライベートで一緒になるっていうのは結構難しいんですが、僕は家で好きなアニメとか映画を見て充実していました。 

田代直希

「もう一度、高い山をみんなで目指そうっていうスタンスの方がうまくいく」 

——これからは追われる立場になります。チーム、個人として、まだまだ足りていない部分はありますか? 

優勝してすべてが満たされると思ったんですけど、何も満たされていないまま終わりました。 チームとして「優勝」という1番高い山を登らせてもらったんですけど、そそくさと下山して、もう一度高い山をみんなで目指そうっていうスタンスの方が僕たちとしてはうまくいきますし、常に課題と向き合いながら改善していくっていう努力は、今後も変わらないのかなと思います。

個人的には、去年はケガ明けでなかなかパフォーマンスが良くなくて、ドライブしていく怖さなどに苦しめられて、自分がやりたいことよりチームのやりたいことに意識をシフトしていた部分がありました。なので、来シーズンはまずはプレーヤーとしてどこまでいけるかっていうところにフォーカスしていきたいです。具体的なところで言うと、もう少しシュートを打ってもいいのかなと。思い切り打つことを意識していきたいです。

 ——ヘッドコーチや主軸の選手は変わりませんが、新たなメンバーを迎え入れることになります。連覇するために必要なことは何だと思いますか?

おそらく、チームの雰囲気はガラッと変わりますね。千葉Jからヴィック・ロー選手が来てくれるんですけど、彼が自分の個性とかを出していって、チームにどうフィットしていくのかっていうのを、僕たちみんなで探しながら、調和を取ることが必要だと思い ます。その作業は毎年変わらないことですね。 どのチームでも必ず良い時、悪い時があって、不可抗力なモノもあれば、自分たちで崩れていくモノもあるので、その見極めはやっぱりしなくちゃいけないですね。不可抗力なモノに関しては、 そこまでメンタル的に沈む必要もないですけど、自分たちで崩れていくのであれば、踏ん張る力をつけないといけません。でも、一喜一憂せずに淡々とし続けられるかが大切かなと思います。どれだけ効率の高いシュートを打ち続けるか。どれだけ相手に悪いシュート打たせるプロセ スを続けることができるか。こういうことを淡々とできるかっていうのが大事かなと思いま す。 

——最後にファンの方に、来シーズンに向けてメッセージをお願いします。 

来シーズンも優勝を目指して頑張ります。良い時、悪い時は絶対ある中で「良い時は浮かれる、悪い時は誰かのせいにする」みたいなことにはならずにいられるのはキングスのファンのみなさんのおかげです。引き続き、応援をお願いします!