運任せは終わり、黄金期を構築するプロジェクトを粛々と進める
スパーズはビクター・ウェンバニャマ指名で大いに注目されるチームとなったが、現時点での前評判は『プレーオフに進めるかどうか』といったところ。4シーズン連続でプレーオフを逃したチームがいきなり優勝争いへとジャンプアップする見込みは薄い、というのが大方の予想だ。
レブロン・ジェームズもキャバリアーズでNBAキャリアをスタートさせた当初はプレーオフへと進めなかった。どれだけの才能があっても、一人でチームをプレーオフへと導くのは不可能に近い。
そんなストーリーが変わるとすれば、ウェンバニャマにさほど依存せず、チームとして良い戦いができた場合だろう。昨シーズンのスパーズは22勝60敗で西カンファレンスの最下位に終わったが、主力にケガ人が相次ぐ中で多くの若手にチャンスを与え、それぞれが良いチャレンジのできたシーズンだった。
ポイントガードは2年2000万ドル(約17億円)の契約延長を果たしたトレ・ジョーンズと、トレードで加入したキャメロン・ペインの2人。2番と3番ポジションでは、昨シーズンのチーム得点トップと次点のケルドン・ジョンソン(22.0得点)、デビン・バッセル(18.5得点)が先発し、ベテランのダグ・マクダーモットとレジー・ブロック、2年目のマラカイ・ブランナムが控える。パワーフォワードは2年目のジェレミー・ソーハンとキャブズから加入したジェディ・オスマン。センターはウェンバニャマだけでなくザック・コリンズとサンドロ・マムラシュケビリが控えている。
スタープレーヤーはいないにせよ、良い可能性を秘めた選手が各ポジションに揃い、全員が昨シーズンに得た経験を生かして成長しようとしている。例えばトレ・ジョーンズは、デジャンテ・マレーの穴を埋める形で先発ポイントガードのチャンスをつかんで結果を出した。ケガ続きだったザック・コリンズは、シーズン途中にヤコブ・パートルが抜けた後にセンターの先発となり、シーズン最後の12試合はすべて2桁得点を記録して18.0得点、8.0リバウンド、3.7アシストと素晴らしいパフォーマンスを見せた。
マクダーモットはサマーリーグ中に取材に応じ、「昨シーズンは負け続けて悔しい思いばかりだったけど、この才能を得るためだと思えば意味はあった」とウェンバニャマを歓迎し、「彼が自分の可能性を最大限に引き出せるよう手助けをしたい」と言う。
「この2シーズンは再建で、それはまだ続くかもしれないけど、彼を中心に勝てるようになって、大きな注目を集めるだろう。その若いチームでベテランとしての存在感を出す責任を感じている。彼にプレッシャーは掛けたくない。僕らは我慢強く彼をサポートしていくつもりだ。彼が望むところに到達するために、スパーズほど良い環境はないのは間違いないからね」
全体1位指名権を得られるかどうかは運任せだったが、それが成された今、ここからのスパーズに幸運に頼る必要はなく、強化プロジェクトを粛々と進めていけばいい。まずはこのメンバーで、新シーズン一つでも多くの勝ち星を積み上げ、同時にチームとして成長し続けることだ。
今の在籍選手のほとんどが、来年オフに契約満了を迎える。彼らはチームが強くなっていくのを肌で感じながら、その勝ち馬に乗りたければコート上での活躍で契約延長を勝ち取らなければいけない。
スパーズが真の優勝候補となるのは来年のオフだ。毎年のオフに、リーグを代表するビッグネームがフリーエージェント市場に出て来る。今年は静観したスパーズだが、来年はウェンバニャマと組むスーパースターの獲得に乗り出す。それが誰になるか今は分からないが、キャップスペースに十分な余裕があり、ウェンバニャマというスター候補生と彼を支える優れたロスターがあれば、ビッグネームは喜んでその勧誘に乗るだろう。チーム周辺は、カワイ・レナードの5年ぶりの復帰が実現するのを密やかに期待している。
もっとも、契約延長を結んで気力十分で再始動するグレッグ・ポポビッチに、悠長に構えるつもりはない。近年のドラフト1位指名権を獲得したチームがどこも1年でプレーオフに進出していなくても、レブロンでさえデビュー当初は苦戦したとしても、コーチ・ポップには関係ない。1997年にティム・ダンカンを指名して、そのシーズンに56勝を挙げてカンファレンスセミファイナルまで進み、翌シーズンには優勝を勝ち取った、その再現をイメージしているはずだ。
それを可能にするには、ウェンバニャマのセンセーショナルな活躍はもちろん、彼をサポートするメンバーの働きが重要になることは言うまでもない。