丸田

海外挑戦が今より困難だった90年代に、自ら行動を起こしアメリカに挑戦したキャリアを持つ岡田卓也氏(GYMRATS代表)と丸田健司氏(KAGO代表)。現在は自身の経験をもとに指導者として活動している2人は2014年より、U15世代と指導者を対象としたアメリカツアー『GR TOUR』を開催している。

選手たちの海外挑戦への橋渡しと、指導者の指導力の向上を目的とした同ツアーは、バスケットボールのレッスンはもちろんのこと、観光やNBA観戦など日本では経験できない内容が詰め込まれており、先日島根スサノオマジックに加入した大橋大空など、同ツアーをきっかけに海外留学を志す選手も輩出している。今春5月、3年ぶりの実施となったツアーの感想や、これからのユース世代の海外挑戦の展望について両氏に語ってもらった。

「現状に満足せず、もっとやっていかないといけないと感じたツアーだった」 

——3年ぶりのツアーはいかがでしたか?

丸田:まだコロナのリスクがある中でのチャレンジでしたが、参加者が想像以上に多くて、準備も含めてハードルは高かったです。PCR検査を全員クリアして無事に帰って来ることができてよかったと思います。

——滞在中はどのような気づきを得られましたか

丸田:コロナに振り回されて、子どもたちの性格や行動は良くも悪くも変化が見られます。思ったことを行動に起こせない、自分を表現できないという子どもたちに対して、僕たち指導者がいかにアプローチしていくかはとても重要だと感じました。僕自身も3〜4年間ずっと日本にいて、自分自身のマインドやチャレンジ精神が凝り固まってしまっているなと感じましたし、指導の仕方をさらにアップデートさせなければと思ったので、そういったところも含めて今回ツアーを実施できて良かったと感じました。僕たちの後に続く人々がいるわけで、そういった人たちのためにもスタンダードをアップデートさせていくことが僕たちのテーマになると思います。

——岡田さんは子供たちの海外挑戦をサポートするパイオニア的な存在ですが、育成年代における海外と日本の差をどのように考えていますか?

岡田:ヨーロッパは大陸が繋がっているし、アメリカやカナダと違う文化を学べる機会がありますけど、日本は島国なのでそういった機会が少ないというのは大きなハンディですね。日本のバスケのレベルは指導力も含めてレベルは上がっていますけど、アメリカは文化もバスケットボールの考え方も教え方も違うので、海外に飛び出すことでそのギャップに気づき、「どうしたらいいだろう」と考えるきっかけがたくさん得られると思います。僕自身も「日本のミニバスや中学生って結構レベルが高いな」と思ったところでアメリカに行くと、もっと頑張らないといけないと思わされます。ここ数年はコロナで断念しましたが、毎年アメリカに行き、自分たちの 基準をちゃんと測り、学ぶことはとても大切にしています。

——岡田さんの息子の大河は早い段階から世界に挑戦しています。背中を押した理由はなんでしょう?

岡田:日本の国が素晴らしいということを感じてほしいからです。もともと僕はアメリカにあこがれていましたが、日本はご飯が美味しいとか、礼儀正しいとか、アメリカより安全ですしいろんな意味で良いところがたくさんあります。トヨタ、ニンテンドーはアメリカでも活躍しています。もっと素晴らしい人間になるためにも、世界に出て日本の素晴らしさを感じてほしいと思いました。

GYMRATS

「親に対してや日本の今の環境に対しての感謝は行動の部分で見えます」

——遠征中はスキルトレーニングや大会への参加、あらにオフコートの部分などいろいろな経験ができるプログラムになっていたと思います。どのような意図があってコーディネートされたのでしょうか?

岡田:マルも僕もLAに住んでいるのもあって、今回はロサンゼルスに行きました。環境も良いのでアメリカに最初に来るにはプラスの要素もあり、レイカーズの試合も見ることができました。振り返りとしては、いろいろなスキルコーチを見て、いろいろなバスケットがあるってことを知ってほしかったです。それに対してGYMRATSやKAGOでやっていることがどうリンクしていくのかを考えてほしいなと。また、私生活を多くの人と共にする大切さやルールを学んでほしいと思いました。コロナでそういう経験って少なかったじゃないですか。そういう意味でもコミュニケーション、人との関わり方を感じる事ができてすごく良かったと思います。

——帰国して以降、子どもたちに変化はありましたか?

丸田:親に対してや日本の今の環境に対しての感謝は行動の部分で見えますね。1回1回の練習に対してのエネルギーは少し変わったと感じています。あとは目標がすごく大きくなりました。男子の半分以上がプロになりたい、海外に行きたいと思っていて、いつも一緒にバスケットをしているメンバーがアメリカでプレーしたことによって、イメージできなかったところが目標として広がったのかなと思います。僕たちも、目先の目標より「NBA選手を育てたい。海外で活躍できる選手を育てたい」と視野が広くなったのはとても良かったです。

——このような活動を通じて、あらためて子どもたちにどうなってほしいですか?

岡田:子どもたちには可能性がいっぱいあるので、世界にチャレンジする子もいてほしいですし、国際交流ができる人になってほしいです。たまたまバスケを通じてきっかけができたので、日本の素晴らしさを英語で伝えたり、日本とアメリカの架け橋となって、グローバルに戦える社会人になってもらえたらうれしいですね。全員がプロになるのは厳しいと思いますが、プロになりたいんだったらそれなりに準備をしなきゃいけない。プロじゃなくても、バスケを通じて、人として、社会人として生きていける力を身につけてほしい。このツアーはそのための国際交流のチャンスになればと思っています。

——またツアーを開催する予定はありますか?

丸田:毎年の流れだと、夏と春にチャレンジする機会を設けているので、今年の夏も予定をしています。毎年、指導力も含めて環境を変えていく中でアップデートするためには足を運んでいかなきゃいけないので。アメリカなのか、スペインなのか、それ以外の国かは分かりませんが、足を運んでいければと思っています。

——岡田さん個人の今後の活動についてお聞かせください。

岡田:大河に関しては今後の事はまだ決まっていないので、まずはU19の代表に残り、結果を出す事に期待しています。ジムラッツ側としては、目標設定が決まっているので、それに沿ってサポートしていく事です。すでに活動もしていますが高校生、大学生、海外組、プロ選手も含めて、オフシーズンにプロからアマチュアの子達をバックアップできる体制を整えていければと思います。

あとは育てた選手がどんどん広がっていくことを期待しています。Wリーグの選手で言うと桜花学園出身の選手が多いように、街クラブでもそうなりたいですね。偶然じゃなく必然的にみんなで結果を出せるような環境にしたい。そのためにも、僕自身もっと力をつけていかないといけないと思っています。