パット・ライリー

「困難に直面したからと言って、良いチームを壊すつもりはない」

ヒートのパット・ライリー球団社長は、年に一度だけ記者会見を開く。現地6月20日がその日で、ライリーは「噂について一つひとつ語ったりはしないよ」と笑いながら会見場に現れた。

ヒートは第8シードからNBAファイナルへと勝ち進むシーズンを終えたばかりだが、オフに入るとすぐにブラッドリー・ビールの獲得に動き、ビールをサンズに取られるとすぐさまデイミアン・リラードのトレードを画策していると言われる。ライリーは間違いなくチーム編成の動きすべてを主導しているが、それに触れることなく「とにかく素晴らしいシーズンだった」と笑顔で語り始めた。

「今のプロジェクトをご破算にするつもりはない。チームには良い時もあれば困難もある。我々には素晴らしいチームがあり、だからこそここまで戦えた。同じ体制で来シーズンも臨むつもりだし、あと一歩を踏み出すための補強は、その可能性があり、それが逆効果にならない場合にのみ行う。前進しているチームを逆行させるようなことはしたくない。まずは木曜のドラフト、そして来週のフリーエージェント解禁に集中するが、焦る必要はない。私の人生が常にそうだったように、粘り強さと忍耐だよ」

プレーイン・トーナメントからの大躍進を主導し、『プレーオフ・ジミー』の異名を取ったジミー・バトラーの活躍を称えたライリーは「私も彼にもっと多くのサポートを提供したい」と言う。

「それがバム(アデバヨ)やタイラー(ヒーロー)といった選手の成長により実現するのなら、それが一番だね。現時点ではジミーが責任を背負わなければならず、私としては可能であれば彼に最も相性の良い選手を選んでサポートさせたい。簡単なことじゃないが、その努力は続けていく」

つまり、補強をするつもりはあるが、あくまで今のチームを優先し、特にバトラー中心であることは変えずに、その体制を強化するような補強を今は検討しているということだろう。

「例えば(ケビン)ラブとコディ(ゼラー)はチームに良い補強になった。必ずしもビッグネームの補強でなくとも小さな変化が大きな変化をもたらすこともある。最初にも言ったが、良い時もあれば困難な時期もある。困難に直面したからと言って、良いチームを壊すつもりはない。我々は困難な時期を通じて強さを築くんだ。この1年、ウチはそれを成し遂げたと思う」

ヒートにはキャップスペースに余裕がない。ヒーローとの新たな契約が来シーズンからスタートし、ゲイブ・ビンセントやマックス・ストゥルースと再契約をするのであれば、サラリーキャップを大幅に上回る。「タックスラインぎりぎりのところで強いチームを作ろうとしているが、最後の優勝から10年が経過した。そろそろまた優勝したい」

ヒートのオーナーはサラリーキャップ超過のペナルティとなる贅沢税を払うことも辞さないが、今後はサラリーキャップのルールがさらに厳しくなり、ライリーのマネジメントはさらに難しくなる。

「今までは金銭的なペナルティさえ受け入れれば良かったが、これからはバイアウトの選手やミッドレベルの選手と契約できなくなり、ドラフト指名権を失う恐れがある。タックスラインを超えるリスクは非常に大きくなり、ドラフトや育成プログラムが重要になる」

それもドラフト外の選手の才能を見抜き、育て上げてきたヒートにとっては追い風となるだろうが、メリットを得られるのはまだ先のこと。「何をやっても結果が出るのはしばらく先だ」とライリーは言う。「だからこそ、粘り強さと忍耐なんだよ」