トバイアス・ハリス

写真=Getty Images

シンプルなプレースタイルが生み出す得点効率

10月、11月の西カンファレンスで月間MVPに選ばれたのはクリッパーズのトバイアス・ハリス。21.7得点、8.7リバウンド、フィールドゴール成功率52.8%は素晴らしい成績であるものの、月間MVPとしては少し寂しい個人スタッツなのも確かで、激しい順位争いが繰り広げられる中で高勝率を達成したチームのエースであることが評価された選出でした。このハリスの個人スタッツにはクリッパーズが好調な要因が詰まっており、オールスターが誰もいないチームが好成績をあげられたのは、エースであるハリスの存在なしには考えらないのも事実なのです。

個人ではチームで最も得点の多いハリスですら得点ランキング24位。それでもクリッパーズはリーグ4位の得点力を誇り、全員が得点を取っていくスタイルです。スターターで平均15点以上はハリスとダニーロ・ガリナリの2人で、ベンチから登場するルー・ウイリアムスとモンテロズ・ハレルの2人も15点以上と、単にバランスアタックなのではなく、スターターとベンチそれぞれに得点力がある選手が振り分けられています。これが試合を通して得点力を維持することに繋がっています。

その一方で「全員が得点を取る」というと鮮やかなパスワークが想像されますが、クリッパーズのアシスト数はリーグ25位と少なく、ハリスもキャッチ&シュートは全シュートアテンプトの23%程度と、自分で切り崩しての得点が多くなっています。「エースが自分で切り崩してのシュートが多い」となれば、個人技が目立つわけですが、その一方で6秒以上ボールを保持してのシュートアテンプト2.5本はリーグ50位にも入らない本数です。

ハリスのプレーは実にシンプルで、パスを受けると3ポイントシュートを狙い、ディフェンスが反応すればドライブし、ヘルプがいればストップジャンプシュートを打ちます。ディフェンスが密集しているスペースには飛び込まず、あっさりとしたプレーばかり。

そんなハリスのプレーに代表されるように、チーム全体に言えるのは難しいプレーを選択せず、シンプルにシュートを打っていくのを優先すること。ジャンプシュートの選択が多く、パスを繋いで3ポイントシュートを打つよりも、個人のドライブからシンプルなシュートを好みます。

個人技で得点を取ることが多いハリスですが、プレーそのものはシンプルなためハイライトに出てくる機会も少なく目立ちません。エース自身がシンプルだからこそミスも少なく、15点以上が4人もいるバランスアタックのチームを構成できています。

クリッパーズの3ポイントシュートアテンプトは25.1本でリーグ27位と、高い得点力に反して少ないアテンプトですが、ハリスは3本に1本は3ポイントシュートを打ち、確率も40%を上回ります。ストレッチ4タイプのパワーフォワードであるハリスによって、クリッパーズのインサイドは大きなスペースが保たれるので、ミドルシュートを囮にしたガードとセンターの合わせのプレーは高い機能性を示しています。アシスト数の少ないクリッパーズですが、試合を見ているとそんな印象はなく、むしろ連係プレーの鮮やかさに目を奪われます。

インサイドをしっかりと攻めることでフリースローが多いのもクリッパーズの特徴。アテンプト数29.6本もリーグ1位ながら、80.6%の成功率が高得点に繋がっています。ハリスも85%を超えるフリースロー成功率を誇り、シュートの上手さでチームを引っ張っています。

役割的にもスタッツ的にも間違いなくエースなのに、オフェンスの開始位置がコーナーであることが多いハリス。しっかりとスペースを作る動きをしてから、ボールをもらって仕掛けるので非常に効率的に得点を奪っていきます。高いハンドリング技術とシュート力を持ち合わせていますが、それをひけらかすようなプレーはなく、シンプルにシュートに行くプレーばかり。

ブレイク・グリフィンを中心に『ロブシティ』という愛称がつけられるほどダンクのオンパレードだった少し前のクリッパーズファンからすると、ちょっと物足りなさも感じるかもしれません。しかし、シンプルなプレースタイルが生み出す得点効率はグリフィンにも劣らないハリスによって、ハイスコアゲームを量産するのが今のクリッパーズです。

ベンチメンバーも含めて誰もが得点できるバランスの良さを生み出す『主張しすぎないエース』が手にした初めての月間MVPでした。

そんなトバイアス・ハリスの弟タイラー・ハリスは現在B2の仙台に在籍中で22.3点、10.9リバウンドと兄と同じようなスタッツを残しているのも面白いところです。