HUSTLE

レブロン・ジェームズがプロデューサーに名を連ねたNETFLIX映画

春だからと言って誰もが元気モリモリの気持ちルンルンとは限りません。旅立つ先が第1志望じゃなかったり、あのコに結局言えないまま卒業式が終わってたり、推しのチームがポストシーズンに進めずレームダックだったり、単に花粉症がキツすぎて何も楽しくなかったり──。そんな人の背中を押してくれるものは何かと考えたら、やはり極上のエンタメ、どうせならバスケ関連作品でしょう。

『THE FIRST SLAM DUNK』で感激の涙を流したアナタ、傑作は他にもいろいろあります。まだ見てない君はこのページをそっと閉じて、お近くの映画館へと向かい、戻って来てから続きを読んでください。

今回紹介するのはNETFLIX映画の『HUSTLE』です。NETFLIXの紹介文は以下の通り。「ツキに見放されたバスケットボールのスカウトマンが、スペインで逸材と出会う。互いに後がない男2人は運命的な出会いを果たし、NBAでの栄光を掴み取るべく共に走り出す」

この作品の何がすごいかって、レブロン・ジェームズがプロデューサーに名を連ねていること。レブロンは出てきませんが、おそらくレブロンに「出てよ」と言われたであろうNBAプレーヤーが多数出演します。カメオ出演、本人役でちょっと顔を出すだけの選手もいますが、次々に出てくるの誰かを発見するのも一つの楽しみ。そう思って映画がスタートすると、すぐに登場するのは練習場でプレーするボバン・マリヤノビッチです。

いきなりNBAプレーヤーの登場だ! と思いきや、「彼の希望は?」「NBA入りだ」という会話から、マリヤノビッチは本人役ではなく、NBA入りを目指す無名のビッグマンを演じているのだと分かります。ブロックショットにダンクとゴール下で暴れ回る大活躍に主人公は驚きますが、証明書なしの自称22歳で、練習を見に来ていた身長2mありそうな若者を「息子、10歳」と言い張ります。年齢詐称じゃクラブに推薦するわけにもいかず、溜め息とともに手帳に書かれた名前を横線で消し、世界各地を巡るスカウトの旅を続けます。

点は取るがディフェンスする気が全くない選手、ラフプレーをした上に相手コーチに食って掛かる選手、他より頭一つ大きいが全くシュートの入る気配のない選手、スリーシックスティーを決めたけど着地に失敗してケガをする選手……。主人公は次々と手帳の名前を消し、新たな逸材を求めて世界各国を巡ります。

HUSTLE

選手を見抜く目があり、仕事熱心で、何事にも屈しないシクサーズのスカウト

選手を見抜く目があり、仕事熱心で、何事にも屈しないセブンティシクサーズのスカウト。それが本作の主人公、スタンです。老オーナーに長年の貢献を認められてアシスタントコーチへと抜擢され、家族を犠牲にする生活とはオサラバのはずでしたが、映画が始まったばかりでハッピーエンドとはいきません。老オーナーが急死し、跡を継いだボンクラ息子は、父に目を掛けられたスタンに嫉妬し、ドサ回りのスカウトに戻すのでした。

ここから始まる不屈のスカウトの物語が『HUSTLE』であります。スペインまで行ってお目当ての選手が見られなかった夜、通り掛かったストリートのコートで、作業靴を履いてプレーするボー・クルスと出会います。フアンチョ・エルナンゴメスが演じているのですから、この物語のもう一人の主役であることはすぐに分かりますね。

賭けバスケで完勝して引き上げるクルスを、スタンは追い掛けて口説きます。突然現れたオッサンをNBAのスカウトだと信じないクルスを信頼させるために、スタンがビデオ通話したのはダーク・ノビツキー。同じヨーロッパ出身のレジェンドが保証したことで、クルスはようやく話を聞き、フィラデルフィア行きに同意します。

しかし、クルスは才能はあっても貧しく、建築作業員として働きながらストリートでプレーしていただけで、バスケ選手としての『キャリア』が全くありません。「ちゃんとやればNBAトップ10の選手」とスタンは言いますが、「ちゃんとやれるようにする」ところまでが彼の仕事でした。

さらに難題が起きます。シクサーズのボンクラ息子とスタンは衝突し、クルスには手強いライバルが立ちはだかります。演じるのはウルブズのエース、アンソニー・エドワーズ。これがまたトラッシュトークだらけの嫌なヤツで、エドワーズの演技力が光ります。本当に憎たらしいんだもんなあ。

クルスは若くて野心はありますが、才能をどう使えばいいか分かりません。そしてスタンは優れたスカウトですが、過小評価されています。アンダードッグの2人、舞台はフィラデルフィア。こうなれば『ロッキー』の構図で、『HUSTLE』もシルベスター・スタローンの出世作を相当に意識した内容になっています。今のNBAらしい合理的なワークアウトももちろんみっちり行いますが、2人のトレーニングの基本となるのは、コービー・ブライアントに敬意を表して朝4時からの坂道ダッシュ。2人の練習は激しく、厳しく、そして楽しく、このトレーニングのアツさが『ロッキー』ばりに見る者の心を震わせます。

HUSTLE

NBAプレーヤーの『演技力』が作り上げる痛快エンタメ作!

『SLAM DUNK』は3DCGにモーションキャプチャーでリアルなバスケシーンを作り出しましたが、『HUSTLE』はNBAプレーヤーが演じるので、練習も試合も当たり前のように『NBA級』のド迫力シーン連発です。バスケの映画やドラマは、バスケのできない俳優が演じるとネットタトゥーになるぐらいの珍場面になってしまい、選手を起用すればプレーはできても演技が大根役者で、どちらにしても痛い出来になりがちです。

ところが『HUSTLE』に出てくるNBAプレーヤーたちは演技もかなり練習した様子。前述のアントマンの名演はバスケのアカデミー賞があれば助演男優賞間違いなしですし、主役を演じるフアンチョ・エルナンゴメスも素晴らしい演技をしています。ボー・クルスは素朴で無口な若者ですが、セリフが少ないからって演技が簡単かと言えばそんなわけはありません(あの『北の国から』で五郎さんを演じた田中邦衛は大したことないと?)。

応援している誰かが頑張っていると、こちらも何かパワーがもらえます。ボー・クルスが必死で練習に取り組み、粗削りだった才能が磨かれ、心身ともに強くなり、NBAの夢へと一歩ずつ近付いていくシーンは、力をもらえるし応援したくなります。

結論から言っちゃいますと、最後はハッピーエンド。しかも、スポーツ映画史上でも屈指の爽快なエンディングになったのではないでしょうか。ボー・クルスもスタンも、過小評価をはねのけて自分の夢をつかみます。エンドロールも最高で、シクサーズのファンが増えちゃいそう。少なくともフィラデルフィアであの坂道を走りたい気分にはなります。

ただ筆者は、これを書くために2度目の『HUSTLE』鑑賞を終えて、気持ちがすっきりサワヤカになると同時に、「やっぱりスタンの俳優、どっかで見たことあるなあ」と1mmのモヤモヤを解消しようとググってみたのです。そうだ、何年か前にケビン・ガーネットが本人役で出演した映画で、優勝リングを質に入れるギャンブル中毒のオッサンじゃないですか! その『アンカット・ダイヤモンド』も『NETFLIX』で見られるので是非に。それでは!

文=鈴木健一郎 Netflix映画『HUSTLE』独占配信中