「重圧をうまくポジティブな力に変えられたのは良かったです」
天皇杯の決勝戦で千葉ジェッツは琉球ゴールデンキングスを87-76で撃破し、4年ぶりのチャンピオンに輝いた。富樫勇樹、原修太のガードコンビを軸に効果的に3ポイントシュートを沈めたことが勝因の一つとなったが、琉球の強みであるリバウンド争いで互角に渡り合ったことも大きかった。
千葉Jは2月15日に行われた宇都宮ブレックスとのセミファイナルでゴール下の要であるギャビン・エドワーズが右母指中手骨骨折を負って戦線離脱。これによりインサイドを主戦場とする純粋な外国籍、帰化枠のビッグマンはジョン・ムーニー1人のみに。こうした状況でジャック・クーリーやジョシュ・ダンカン、アレン・ダーラムといったリーグ随一のフィジカルを誇る琉球のインサイド陣と相対することになった。
それだけに下馬評ではペイントエリアの肉弾戦で後手に回ると思われていたが、実際はムーニーが17得点12リバウンドと獅子奮迅の働きを見せた。さらに原や佐藤卓磨など日本人選手も積極的にリバウンドに飛び込むなど、チーム一丸となってボールへの激しい執着心を見せることで琉球にゴール下で仕事をさせなかった。特にリーグ屈指のオフェンスリバウンド力を誇るクーリーのセカンドチャンスポイントを封じ込めたのが大きかった。
このゴール下での争いにおいて、ムーニーに休ませる時間を与える見事な繋ぎ役を果たしたのが荒尾岳だ。プレータイムは5分28秒で1リバウンドとスタッツだけなら見るべきところはない。だが、身体を張った粘りのディフェンスと、ファウルを巧みに使うことで琉球のビッグマンに得点を与えず、相手に流れが行くのを阻止する値千金の働きを見せた。
「目標としていた大会なので優勝できたのは素直にうれしいです。(前回、千葉Jに在籍していた最後のシーズンの)2018年にも優勝していてうれしかったですが、その時はコートに立てませんでした。今回はチームのためにプレーできて、なおかつ優勝できました」
このように荒尾は、今回の天皇杯制覇への格別な思いを明かす。そして、エドワーズ不在の危機を乗り切れたことへの充実感を語る。「『ギャビンがいなくて大丈夫?』という声がSNSに上がっているのは見ていました。だからこそ試合で負けて、『やっぱりギャビンの欠場だよね』となるのは悔しいです。彼の欠場が敗因と言われたくない気持ちで頑張りました」
「僕はキャリアを通して、主力選手としてプレーしたシーズンがほぼないです。その中でリーグの連勝記録、天皇杯と大きなモノがかかった2試合を迎えることで、ギャビンがいないと分かった時にプレッシャーを感じました。ただ、自分のできることをやろうと、重圧をうまくポジティブな力に変えられたのは良かったです」
「これからの成長がリーグ優勝に繋がることを意識しながら戦っていきたいです」
今シーズン、荒尾は2017-18シーズン以来となる千葉J復帰を果たした。前回在籍時のBリーグ以降の成績を見ると、2016-17年は31試合出場、2017-18年は22試合出場だったのが、今回はすでに32試合に出場と、過去の数字を上回っている。35歳と大ベテランの域に達しているが、「若い時よりも『なにくそ』といった気持ちは大きくなっています。そして、僕がどうやってB1に残れるかと言われたらインサイドで身体を張るしかないです」と言い、心身ともにエナジー満点で衰えは全くない。
そこにはジョン・パトリックヘッドコーチの良い意味で荒尾をベテラン扱いしない接し方もあるという。「ジョンさんは若手も僕も年齢に関係なく指導してくれます。おかげで今まで気づかなかったところ、甘えていたところがまだあると感じさせられました。まだ学ばなければいけない部分はあります」
エドワーズのケガは全治6週間から8週間と見られており、復帰まで時間はかかる。千葉Jがリーグ最高勝率をキープし、目標の1つである東地区1位となるには引き続き荒尾の献身的な働きも欠かせない。
「地区優勝、チャンピオンシップでの優勝と目標は残っています。そして僕がやることは変わらないので継続していきたいです。これからの成長がリーグ優勝に繋がることを意識しながら戦っていきたいです」
このようにレギュラーシーズン終盤戦に向けての意気込みを語る荒尾だが、チームだけでなく自身の成長にも意欲的だ。「今のジョンさんの戦術において、中でもディフェンスの部分は自分がやりたいことが戦術になっていてうまくいっているのかなと思います。そのおかげで、もっと自分が伸びていける手応えはあります」
頂点に立つチームには短い時間でも自分の役割をしっかり遂行し、チームに流れを引き寄せる脇役が欠かせないもの。千葉Jには荒尾という頼りになる縁の下の力持ちがいることを、より知らしめた今回のタイトル奪還となった。
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