「ディフェンスとリバウンドをやらないと出場できない」
新型コロナウイルス感染症の陽性判定に伴い延期となっていた、第12節のサンロッカーズ渋谷vs群馬クレインサンダーズの第2戦が3月12日に開催された。前日に行われた第1戦はSR渋谷が91-82で勝利したが、第2戦は前日の反省点を修正した群馬が87-80で勝利した。
第1クォーター序盤、群馬はトレイ・ジョーンズの積極的なアタックから展開を作ってリードを奪い、優位にゲームを進めるかと思われたが、SR渋谷にカムバックを許し、終始一進一退の攻防が続いた。3ポイントシュート攻勢のSR渋谷に対して、群馬も積極的なアタックでファウルを誘発してフリースローから得点を重ねていく。
数字だけで見れば、今シーズンはオフェンス優位な両チームではあるが、勝負を決したのはディフェンスだった。その最たる場面が、群馬が6点をリードして迎えた第4クォーター残り3分39秒だ。群馬は相手のフリースロー後、得意のトランジションオフェンスを仕掛けるもジェームズ・マイケル・マカドゥのブロックに阻まれ逆速攻を受けてしまう。しかし、この展開に追いついた八村阿蓮がベンドラメ礼生のシュートをブロックし、失点を防ぐとともにポゼッションを引き戻した。そして、その勢いのまま並里成がプッシュしてバスケット・カウントを獲得。両者が意地を見せたディフェンスに会場のボルテージは最高潮となった。
ブロックの場面を八村はこう振り返る。「結果的に成さんがアンドワン(バスケット・カウント)に繋いでくれて、流れを持ってこれたと思います。シュートの調子が戻ってきてないですが、ディフェンスでチームに貢献できるので、ディフェンスの意識があのブロックに繋がったと思っています」
昨シーズン途中から特別指定選手として群馬に加入し、今シーズンはスモールフォワードとしてチャレンジングなルーキーシーズンを送っている八村は、徐々にその才能を開花させている。実際、群馬の水野宏太ヘッドコーチも「数字に表れないですが、八村がリバウンドに対するエネルギーを出して、球際に対してしぶとく戦う姿勢を見せてくれました。3番の選手であのサイズはリーグの中でも多くはいないので、そこでリバウンドの優位性を出せればと思っています」と評価するように、献身的なプレーを惜しまず遂行する八村への期待は大きい。
この試合、22分35秒のプレータイムを得た八村も自分の役割をしっかり理解している。「昨日は10分くらいの出場時間でしたが、今日はディフェンスとリバウンドで評価されてプレータイムを与えてくれたと思っています。これからも、その部分をやらないと出場できないと思っているので、これを最低限のスタンダードとしてやっていきます」
「古巣だからこそ負けたくない気持ちがあった」
3ポイントシュートとディフェンスに特化した選手は『3&D』と称され、現代バスケでは重宝される。そして、八村もまずはその役割を徹底することでチームに貢献できると話す。「他のチームの3番選手と比べてもサイズはあります。改善が必要な部分もありますが、フィジカルや手の長さもあるので、それを生かすためにディフェンスでチームに貢献していきたいです」
目先の結果よりも、水野ヘッドコーチは長い目で着実にチームを前進させていくことを念頭に置いており、八村に対しても「ルーキーシーズンではありますが試合に出ることによって自信をつけていくことや、成長を促すことがチームとしてやるべきことだと思っています」と今後の成長に期待している。
現状求められていることを遂行した上で、今後どのようなプレーヤーになって行きたいか、八村はこう話す。「1対1で打開できる力は今後必要だと思っています。今は3&Dのようなプレースタイルになっていますが、将来的には点を取れる選手になっていきたいです。それに向けたワークアウトもやっているので、試合で出せるようにしていきたいと思います」
八村のポジションであるスモールフォワードは、内外問わず得点を狙うなど求められていることは多い。また、スポットシュートやドライブの能力も兼ね備えることができると、相手にとっては嫌な選手になることは間違いない。八村自身も、どう進化していけばいいか自分自身が理解しているだろう。ルーキーシーズンでいかようにも成長していけるポテンシャルを持っているのは、誰もが知るところだ。
そして、今節の対戦相手は大学3年次に特別指定選手として所属していた古巣だった。八村はSR渋谷に対する印象をこう振り返った。「(所属は)3カ月くらいで短かったですが、皆よくしてくれました。今もその関係は続いていて、良い先輩たちだと思っていますが、それだからこそ負けたくないという気持ちがあり、その気持ちをコートで出せたと思います」
古巣との対戦を楽しんでいるかのように笑顔で答えていたが、その言葉にはプロとして負けられない力強さも感じた。ルーキーとして新しいことにチャレンジし、まだまだ大きく成長していける伸び代は十分にある。群馬の躍進の一端を八村が担っていくのは間違いないだろう。