デニ・アブディヤ

トレードで選手が入れ替わる狭間にチャンスを見いだす選手たち

日本時間2月10日、朝5時のトレードデッドラインが迫り、どのような選手が動くのか、楽しみでもあり怖くもある日々が続きます。一夜にして戦力図が入れ替わるトレードも起こりますが、実際にトレード決定から即座に試合に出ることはなく、手続きやフィジカルチェック、そして移動もあるため、トレードに動いたチームは主力不在で戦う試合も出てきます。それはある意味、『残された若手』にはチャンスです。

八村塁が去ったウィザーズは、ベンチのウイングに高さと得点力が足りなくなると思われましたが、デニ・アブディヤがトレード以降、14.8得点、7.4リバウンド、2.3アシストに加えて1.9スティールとオールラウンドな活躍で結果を残しています。もともと22歳の若手とは思えないディフェンスでの読みの良さや、オフボールの質の高さを持っていましたが、良くも悪くもプレーに自己主張を欠くことで脇役タイプの選手に見えてもいました。

八村のトレードは、ウィザーズがアブディヤにプレータイムを与えるためと言われましたが、そんなフロントの期待に見事に応え、自分から積極的に仕掛けていくプレーを見せて主役の一人へと変身しました。特にリバウンドの強さが光り、単純な高さで負けていても身体を当てて自分のスペースを作る上手さ、リングから離れた位置に落ちてきたリバウンドを回収する反応の良さは、ウィザーズの新たな武器になりそうです。

カイリー・アービングの騒動に揺れたネッツでは、トレード前後の試合で2年目のキャム・トーマスが44得点と47得点を記録する大爆発を見せました。もともと得点力が魅力でドラフトされたトーマスですが、シュートセレクションが悪くてタフショットを打ちまくることに加え、オフボールの質が悪いためシューターとしては使いにくく、パス判断が悪いためハンドラーとしても使いにくい、ポジション適性の難しさがプレータイムを得られない理由でもありました。

しかし、今のネッツはエース不在のためトーマスが自由にプレーできます。常に自分のリズムでシュートを打つようになった結果、連夜の40得点オーバーを記録したのです。ケビン・デュラントがいるならば、絶対に許されないプレースタイルですが、与えられたチャンスで有無を言わせぬ結果を残したことで、新たなエース候補に名乗りを上げました。

そのアービングが合流前というだけでなく、ルカ・ドンチッチがケガで欠場しているマブスでは、3年目のジョシュ・グリーンとルーキーのジェイデン・ハーディーが揃って29得点を記録し、ドンチッチ不在の試合で今シーズン初勝利をもたらしました。本来はウイングのグリーンが長い時間ボールをコントロールしてポイントガードのように振る舞うのは、通常ではあり得ない役割でしたが、ボディバランスの良さでプレッシャーをかけられても動じることなく、正確なジャンプシュートで得点を重ねていきました。ドンチッチのような多彩なプレーメークはなかったものの、フィールドゴール成功率59%に加え、ターンオーバーなしと安定した試合運びが光りました。

そのグリーンの安定感に爆発力を加えたのが、スピードでかき回したハーディーでした。1月以降は4試合で2桁得点を記録しながら、安定したプレータイムをもらえないハーディーでしたが、主力のいない試合で存分に暴れまわりました。止められないステップバックを決めたかと思えば、ドライブでディフェンスを切り裂き、かといって無理なシュートは打たず、冷静にパスをさばいていくハーディーのプレーはルーキーとは思えないほど見事で、継続的なチャンスを与えるべきなのですが、ドンチッチとアービングのコンビが戻ってくれば難しいでしょう。

各チームが何かしらの課題を抱えているからこそトレードは発生するため、同じポジション、同じ人数で実行されることは珍しく、今回のように空いたプレータイムでチャンスが巡ってきたのを機に頭角を現す選手もいます。主力ではないからこそ、這い上がろうとするエネルギーは強烈で、チームに新しい可能性をもたらすのです。トレードデッドラインは予期せぬ選手のブレイクも楽しみの一つです。