カイル・ラウリー

写真=Getty Images

エース以外も活躍するのが新生ラプターズの強さ

ここまでリーグ首位に立つラプターズ。オフにエースのデマ-・デローザンを放出しましたが、チーム史上最高成績だった昨シーズンの59勝を上回るペースで勝利を重ねています。

そのデローザンに代わって新たなエースとなったカワイ・レナードは期待通りの活躍をしていますが、ケガの管理のために連戦では休みを取っています。レナードが休んだ試合でも5勝1敗と大きく勝ち越し、好調の要因を新エースの存在だけで語ることはできません。

第4週の東カンファレンス週間最優秀選手にパスカル・シアカムが選ばれるなど、平均9点以上の選手が8人と、エース以外も活躍するのがラプターズの強さの秘訣。そんな選手たちを操るポイントガードのカイル・ラウリーは、キャリアを通して7本前後だったアシストが今シーズンになって10本を超えるようになり、現在リーグのアシスト王です。

オールスターガードのラウリーですが、2シーズン前までは平均20点を超える得点力が1番の魅力で、チームはラウリーとデローザンのドライブから始まるオフェンスを組み立てていました。それが昨シーズンはシュートアテンプトを減らしたことで得点は16.2点に落ちましたが、チームとしては全員でバランス良く得点する形に変更され、好成績に繋がりました。それでもラウリーのアシスト数は6.9本とこれまでと大差なく、デローザンのアシスト増が目立った程度でした。

今シーズンは新たなエースとしてレナードが加わりましたが、デローザンよりもインサイド側でのプレーを好むレナードは、しっかりとパスは選択できるものの、フィニッシャー的な役割が中心になっており、ラウリーのパスを起点にした形が強まりました。

また、ラウリーのアシストが増えたというと「レナードが決めてくれるから」という印象を持ってしまいますが、レナードへのアシスト数は1.1本のみ。デローザンへのアシストが1.4本だったことを考えると、エース交代はラウリーのアシスト増にはあまり関連がありません。ラウリーのパス数も57.5本から59.6本と微増に留り、プレー機会を増やしたわけでもありません。

ラウリーのアシスト増は、新ヘッドコーチのニック・ナースがチームオフェンスに手を加えたことが大きく関係しています。

昨シーズンまでは常に2人以上のガードをコートに出していたラプターズですが、今シーズンはラウリー1人にすることもあり、よりチームのオフェンスをコントロールすることが求められ、プレーメイク全般を担当するようになりました。ラウリーがコートに出ているときのラプターズのフィールドゴール成功率は51.2%と非常に高くなりますが、ラウリー45.6%、レナード47.5%とエース2人が自分で打つシュートの確率はさほど高くありません。

ラウリーのアシスト先としてはサージ・イバカ、パスカル・シアカム、ヨナス・バランチュナスといったビッグマンが多く、その次にダニー・グリーンやOG・アヌノビーに3ポイントシュートを打たせる形が多くなります。つまり、エースを囮にしながらオフボールのポジショニングでフリーの選手を作り、より確率の高いシュートを打たせることができているのです。

フリーで打ったシュートの本数は昨シーズンの40.5本から45.6本に増加しましたが、そのうち3.3本が2ポイントシュートの増加分でした。5人がコートを大きく広がってフリーを作り3ポイントシュートを打っていく変化は各チームがやっていますが、ラプターズの場合はよりイージーなインサイドでのシュート本数を増やすことに成功しています。3ポイントシュート成功率34.3%はリーグの中位以下と首位を走るチームとしては苦しい数字ですが、2ポイントシュート成功率55.7%はリーグ2位。オフボールムーブでフリーを作り、その選手にタイミング良くパスを通すラウリーの存在がラプターズの好調なオフェンスを構築しているのです。

ここまでわずか4敗のラプターズですが、ラウリーの好不調はレナード以上に勝敗を左右しています。フィールドゴール成功率25%以下だった3試合はすべて敗戦。さらにラウリーがプレーしている時間の得失点差がマイナスだった4試合中3試合に敗戦。特にラウリーの3ポイントシュートの出来はオフェンスに大きな影響を与えます。つまりラウリーに求められている仕事は、アウトサイドから決めてディフェンスを広げることでもあるのです。自身のパスでイージーシュートを生み出すからこそ、そのためのお膳立てとなるシュートも決める必要があります。

リーグ首位を快走するラプターズはベンチの層も厚く、誰もが活躍するチーム力が最大の武器ですが、それを生かすも殺すもラウリーのシュートとアシスト次第。開幕前は親友のデローザンがトレードされたことはラウリーのプレーにも影響を与えるのではと不安視されましたが、ここまでキャリアハイを大きく更新するアシスト数を記録し、チームを構成する最も重要な選手として高いパフォーマンスを見せてくれています。

毎シーズン、好成績を挙げながらもファイナルへ進めなかったラプターズは新ヘッドコーチと新エースで変化を求めながら、フランチャイズプレーヤーの大活躍で更なる進化を果たそうとしています。