12月23日に開幕するウインターカップで優勝候補の一角と見なされるのが福岡第一だ。2年前にインターハイとウインターカップの2冠を達成した福岡第一は、その後も留学生選手の強烈なインサイド、電光石火のトランジションというスタイルを崩すことなく力を保っている。今年のインターハイでは初戦敗退を喫したが、それは主力選手が日本代表で不在だった影響が大きい。同じ境遇にあったライバル福岡大学附属大濠を県予選決勝で撃破して自信を付けるとともに、「彼らのためにも負けられない」という気持ちも背負う。「優勝できそうな力がある」と自信を語る井手口孝監督に、大会への意気込みを聞いた。
まずは天皇杯「やるなら爪痕くらい残そう」
──福岡大学附属大濠との『福岡決戦』を終えてウインターカップ出場が決まってからの練習には鬼気迫るものがあるのかなと思いますが、実際はいかがでしょうか。
中学校の説明会と面談があってチームを離れることが多いです。12月1日には名古屋ダイヤモンドドルフィンズとの天皇杯の試合があります。やるなら爪痕くらい残そうと。やった相手が大きかった、怖かった、何もできないで終わった、ではわざわざ行く意味がなくて時間の無駄になりますから、戦う気持ちは持たせたいです。
──今日は選手たちが3部練習で頑張っていました。チームのどこが成長したと感じますか?
スタートの選手たちですね。大濠戦は苦しい試合だったけど、何とか切り抜けました。私はあまり手助けしてないです。オールコートをやれと言ったくらいだし、それも随分練習していた中の一つでした。国体が終わってからの練習の一つのテーマがそれでした。
──信用関係が深まってきたから、言う必要がないのでしょうか。
そこまでは言わないけど、自分たちの力を信じて。策がないわけではないし、いろんな策の練習はしているけど、あまり策を弄することなくできたと思います。
──控え選手に対しての鼓舞、指導が強調された練習でした。
河村(勇輝)や小川(麻斗)が一番に来て練習しているんです。「お前たちだろう」、「朝来る時間くらい負けるな」って言いたいわけです。ベンチに入れてもらって満足してしまえば、もう成長がなくなってしまいます。特に下級生の選手たちは今踏ん張って頑張らないと。彼らが来年の主力になるわけですからね。
留学生の暴力事件「彼が粗暴なだけの子なのか」
──クベマジョセフ・スティーブ選手がこの1年で大きく伸び、スキルもかなり上達したと思います。留学生プレーヤーが伸びる上でポイントとなるのは何でしょうか。
バム(バムアンゲイ・ジョナサン)からなんですけど、1回も帰っていないんです。最初に来たセネガルの子は年に1回、1カ月近く返したのかな。それが3年間に2回になったりして。一番はバムのお母さんがコンゴ民主共和国という国の政情、治安が良くないこともあって、帰ってきて事故に巻き込まれるのも心配だし、帰ってきて遊ぶ暇があるなら日本で勉強とバスケットの練習をしなさい、というお母さんでした。バムは母子家庭で、しかも一人っ子です。会いたがってるから帰ってあげなさいって言ったけど、「ママが帰ってこなくていい」って。それが今、スティーブに受け継がれています。そういう暇があるんだったら自分は一生懸命勉強したいと。日本の子よりもむしろストイックだし、国を離れて来ているんだから覚悟がすごいです。
──日本人と変わらず真面目で、真剣にバスケに取り組んでいるということですね。多くの留学生プレーヤーを指導してきた井手口先生から見て、全九州大会で延岡学園の選手が試合中に審判を殴った事件についてはどうお考えですか?
大きくクローズアップされて、彼や延岡学園が批判されました。留学生プレーヤーを巡って大きな問題になったのは私たち福岡第一が最初ですが、常に色眼鏡で見られますよ。良いことをしても「良い」と言ってくれる人はあまりいない。ちょっとでも悪いことが起こると山ほど大きくして言われます。そういう意識は大人の中にもあります。外国人アレルギーみたいなものを持った人がいると、近くにいる人も影響を受けますから。
この試合で対戦相手だった大濠は日本代表選手を外したこともあって、前日まで1回戦、2回戦をやっとこさ勝つようなゲームで、そういうチャレンジをしていました。だから私も含めて周囲は、ワンサイドまでは行かないけど延岡学園が勝って当たり前だと見ていました。ところが試合が始まると大濠の選手たちがすごく頑張って、会場全体の雰囲気も「負けると思っていた大濠が勝つんじゃないか」という雰囲気になります。そういう中で延岡学園の留学生のファウルが吹かれた。殴った彼じゃなくチームメートがテクニカルファウルで退場になり、それを受けて入って来た時点で、彼は良い精神状態じゃないですよね。
彼がああいうことをやってしまったから、彼の人となりがどうだとか、留学生自体がどうだとか、延岡学園の教育がどうのこうと、いろんな人がありとあらゆることを言うんです。かと言って粗暴なだけの子なのか。彼が泣きながら会場を去っていくのを私は見ています。
6月の事件は選手が日本代表に取られてインターハイに出られないと分かった中で起きたものです。結果的にああいうゲームになったシチュエーション、そういう場を大人が作ってしまった。高体連かもしれないし日本協会かもしれないですが、ペナルティを科せられたのは彼とチームと選手。それだけで良かったのか。そこに誰もたどり着いてないですよね。
──井手口先生は留学生プレーヤーとの接し方をどう意識していますか?
特に気にはしていませんが、常に緊張感は持っています。ちょっと悪いことがあれば批判されるわけですから。でも彼らは練習も勉強も一生懸命にやっています。卒業したバム、今年のスティーブや(ディアラ)イソフは学校生活での評価も非常に高いし、試合をやってもおかしな振る舞いはありません。挨拶だってその辺の日本人よりずっとできますよ。私が指導したと言われますが、彼らが持っている素直さや性格の良さです。そこはちゃんと見てあげてほしいです。
「自分たちのことに集中して、シンプルに」
──ウインターカップまであと1カ月、優勝候補として期待されます。
優勝したいですよね。優勝できそうな力はあるので。
──去年のチームと比べて、実力をどう見ていますか?
力はあるかもしれない。良いほうのポイントとしては河村、松崎(裕樹)、スティーブがゲームを壊さないレベルまできたかなと。夏までは壊すこともあったんですが。今回はフリースローまでしっかり決めるところまで来ています。あとは小川と古橋(正義)がどこまでできるか。松崎や河村レベルのプレーをしてくれればと思います。
──優勝できるポテンシャルはすでにあると思います。大会に向けて修正するところは?
小川がメンタル的にもう少したくましくなってほしいかな。古橋はシュートが今さっぱり来ない。国体に出てないので、あのあたりからモチベーションの問題があって、それが間に合うか少し心配です。その控えの2年生がなかなか上がってこないのもあります。さすがに守りとか走りの部分はスタメンの選手が上です。大濠との試合では古橋がディフェンスで頑張りました。浅井(修伍)君に仕事をさせなかったのは松崎で、中田(嵩基)君がそこまで来なかったのは小川が抑えたから。土家(大輝)君のシュートは気持ちで決めてきているから仕方ない。あれをしゃかりきになって抑えに行くと、今度は他の4人にやられたと思います。
いずれにしても、どこかの高校をチェックするよりは自分たちのことに集中しています。今度の天皇杯の試合ではいろんなチャレンジをするつもりです。オフェンスも普通に1対1とかピック&ロールではシュートを打たせてもらえないだろうから複雑に動いたりしようと思うんだけど、高校生とやるのに特別なことはそこまで必要ないかな。そこはまたシンプルなところに戻しますが、名古屋Dとやるために取り組んでいることが、ウインターカップで窮地に陥った時にチームを救うかもしれません。