井上宗一郎にとって23歳の夏は忘れられないものになるだろう。若手を対象としたディベロップメントキャンプでトム・ホーバスに認められ、日本代表メンバー入りを果たすと、ワールドカップ予選Window3のチャイニーズ・タイペイ戦で3ポイントシュート3本成功を含む14得点を挙げて評価を確たるものとし、アジアカップ、Window4でも主力として活躍した。サンロッカーズ渋谷に戻った今、彼はまたルーキーとしてプレータイムを勝ち取らなければいけない立場に戻ったが、出場機会を得られなかった昨シーズンとは気持ちの持ちようがまるで違う。日本代表で得た自信は、彼の中に重要な変化を引き起こした。
「今は『自分の人生が懸かっている』という気持ち」
──今オフはずっと代表活動が続いて、あっという間に新シーズンの開幕となりますが、休みはありましたか?
オフになって最初にプライベートの時間はあったので、そこで少し休めました。代表が終わってからは特に休んでいないんですけど、別に切り替えるのが大変ということはないですね。若いから大丈夫です(笑)。気持ちの面でも、今は休むよりバスケをやっている方が楽しいので、全然ストレスを感じることなくやれています。昨シーズンは試合に出る機会が少なかったんですけど、その分まで代表でプレータイムをもらうことができて、自分としては大きく成長できたオフシーズンになりました。
──今回の代表活動では、トム・ホーバスヘッドコーチの信頼をつかみ、誰もが予想しなかったぐらいたくさんのプレータイムを得て活躍できました。自分でもこれほどとは予想していなかったのでは?
そもそも最初に呼ばれたのは若手をチェックする雰囲気の合宿でした。もちろん次に繋がっているとはいえ、いつもそこに呼ばれては落ちていたので、今回もそうなって終わりじゃないかと思っていたのが正直なところです。もちろん狙ってはいたんですけど、現実的にメンバーに選ばれるとは考えていなかったですね。その中でずっと冷静に、自分のプレーができたのは良かったです。
──日本代表で『ストレッチ4』としてブレイクして、SR渋谷に戻りました。今までは福岡、三遠と特別指定選手で、昨シーズンはプロ契約でも途中加入でしたが、今回はプロ選手として開幕を迎えます。気持ちの面で違いはありますか?
ありますね。今までは好きでバスケを始めてずっと続けてきた流れで、お金の面でのプレッシャーは今まで感じたことがなかったのですが、今は『自分の人生が懸かっている』という気持ちでバスケに取り組んでいます。
──昨シーズンはあまりプレータイムがありませんでした。苦しかったのか、それでも学びはあったのか、どちらでしたか?
率直に行ったら全然面白くなかった、ただただ苦しいシーズンでした。成長できなかったわけではないのですが、やっぱり試合に出れないのは人生でこれまであまり経験していなかったので、そこに対するストレスは大きかったです。でも、そこに不満を持っても意味はないので、ただバスケをするしかない、トレーニングをするしかないという感じで、オフの日も体育館に行って自分にできることをやる毎日でした。
「チームからどう見られているにせよ自分自身に自信があります」
──先に経験した福岡や三遠に比べるとSR渋谷は優勝を狙うチームです。環境の違いは感じましたか?
ありましたね。天皇杯の優勝を経験したチームだから勝ち方を知っていると感じました。キャプテンがチームを引っ張り、周りはそれをサポートしながらついていく雰囲気があって、それは『勝つ文化』なのかなと感じました。
例えばこのチームではミーティングが細かくあります。試合後にチームミーティングがあるんですけど、ホテルに戻って一回落ち着いた後に選手だけで集まって、それぞれの意見を共有することを毎回やっています。ミーティングは一人ひとりが当事者意識を持つのが大事で、試合に出ていない僕でもチームの良いところ、悪いところを発言する機会があったので、すごく良いミーティングだと思っていました。
──シーズン途中に加入した若手であっても、そういう場でいろいろ発言するタイプですか?
そうですね。コートの外にいても貢献できることは何かと考えたら、それぐらいしかないので。試合に出ていない分、ベンチから試合を客観的に見ることもできるので、他の選手が気付かないことに気付いてミーティングで共有しようとは思っていました。
──日本代表で大活躍したのに、SR渋谷ではプレータイムをこれから取りにいかないといけない、ギャップのある状況に置かれています。代表で結果を出したことで、チームに戻って立ち位置の変化はありますか?
チームからどう見られているかは別に変っていないと思うんですけど、僕自身が変わった、自信を持てたことが一番大きいですね。僕という人間そのものは日本代表だからって変わるわけじゃないんですけど、昨シーズンはシュートも入らなくて自信を持てず、それでチャンスを生かせなかったのもあると思います。今はチームからどう見られているにせよ自分自身に自信があります。まだ自分がどう起用されるか分からないんですけど、昨シーズンよりは絶対に戦力になれます。
「試合に出なきゃいけないというのが自分の中では一番」
──日本代表で自信を付けましたが、SR渋谷ではバスケのスタイルが大きく異なりますよね?
日本代表とは全然違うバスケットで、どういうタイミングでシュートを狙うかも違いますね。ディフェンスがメインのチームなので、そういったところを細かく注意されていますし、できるようにならないと試合に出れないと思っています。ただ、代表でやっていたのは3ポイントシュートだけじゃないので、ディフェンスの面でもリバウンドの面でもやれる自信はあります。
──昨シーズンのSR渋谷で出せなかったものが代表で出せたのは、何か理由があったんでしょうか?
気持ちの違いだけだと思います。もともと代表メンバーというわけじゃなく、若手の合宿に呼ばれただけで、日本代表をずっと目標にしてきた僕としては自分が『ルーキーのお試し合宿』みたいな位置にずっといるのが嫌で、シーズンで上手くやれなかったのもあって、「絶対に結果を残してやる」と考えていました。
──SR渋谷で活躍するために、プレースタイルを変えるつもりはありますか? 起用法はどうなるでしょうか?
起用法は試合をやってみないと分からないですね。それはシーズンが始まって試合を重ねていく中でどうなるか、って感じです。代表で成功したのは3ポイントシュートがあったからなので、バスケのスタイルは違ってもストレッチ4という部分で自分の持ち味を発揮したいです。もちろん、代表とは違うチームディフェンスにもしっかりフィットしていきたいです。
──今シーズンのチームの目標、個人の目標はどこに置きますか?
チームとしては日本一を目指して、天皇杯とBリーグでの優勝を狙っていきます。個人としてはルーキーなので新人王を取るのが一番良いのかなと思っていますが、まずは試合に出なきゃいけないというのが自分の中では一番です。