昨シーズン、川崎ブレイブサンダースは天皇杯連覇を達成したが、リーグ戦は2シーズン続けてのセミファイナル敗退と頂点にあと一歩届かずに終わった。Bリーグ誕生以降では初となる悲願のリーグ制覇、天皇杯3連覇の二冠を目指す上で今シーズンもチームの絶対的なエースを担うのがニック・ファジーカスだ。37歳の大ベテランとなっても、その卓越したシュート力で得点を量産している彼だが、昨シーズンは彼自身にとっても満足のいくプレーではなかった。新シーズンで雪辱を果たそうと静かに闘志を燃やす臨むファジーカスの思いを聞いた。
ベストメンバーで臨めず、消化不良の思いが残った昨シーズンの終わり方
――まず、8月末のワールドカップ予選Window4での日本代表復帰には驚きました。久しぶりの日本代表はどうでしたか。
皆さんと同じように僕も驚きました(笑)。トム(ホーバス)とは友人ですが、東京五輪のメンバーに選ばれなかったことで僕の代表活動は終わったと思っていました。だからトムから最初「代表チームに入ってほしい」と連絡をもらった時は、この気持ちを伝えました。そこからいろいろと話をしてスケジュールを調整し、準備不足ではありましたが最終的には代表に復帰しました。
――帰省していたアメリカではどのように過ごしていましたか。
バスケットボールから少し離れていたオフの最初の頃は、週4、5回くらいはゴルフをしていました。その後、バスケットのワークアウト、ウエイトトレーニングを始めたのでゴルフの頻度は減りましたけど、合計で20から25ラウンドを回りました。他にも子供と一緒にプールに行ったり、太陽の下でいろいろと活動していましたね。ジムでのワークアウトでは、特に体重を落とすことにフォーカスしていました。ダイエットをして身体を絞ることでより動けるようになり、昨シーズンよりも良いプレーをする助けになることを期待しています。
――昨シーズンを振り返ると、チャンピオンシップのセミファイナルで宇都宮ブレックスに敗れました。パブロ・アギラール選手が欠場し、ベストメンバーで臨めなかったことが痛かったです。誰の責任でもなく不可抗力ですが、受け入れるのは大変ではなかったですか。
その点に関しては少し消化不良な思いはあります。もちろん宇都宮は素晴らしいチームで、彼らは勝利に必要なプレーをしました。ただ、パブロは本当に大きな存在であり、僕たちはベストな状態で戦えなかったです。パブロを起用したビッグラインナップで、宇都宮を苦しめることができると思っていました。自分たちは何も間違ったことはしていないですが、彼の不在でチームの勢いが止まってしまった部分はありました。
――これで宇都宮相手にチャンピオンシップ5連敗です。相性の悪さや苦手意識を感じますか。
相性がどうこうではなく、タイミングだと思います。一昨年の宇都宮はシーズン終盤に向けて調子を上げていき、相手のアリーナでそれまでになかったビッグラインアップ対策を取られて連敗してしまいました。昨シーズンは新型コロナウイルスの影響を受けました。チャンピオンシップにおいて5回連続で負けているのは分かっていますが、天皇杯では連続で破っています。宇都宮とはいつも激闘となっていますが、チャンピオンシップでは彼らの方が僕らを上回っているのは確かです。
チームの底上げに前田、増田、納見と若手のステップアップに大きな期待
――今オフ、川崎は継続路線で主力メンバーの大半は残留しましたが、アギラール選手が移籍し、入れ替わる形でマイケル・ヤングジュニア選手が加入しました。
パブロは本当に代わりを見つけるのが大変な選手です。彼はハイレベルに試合を熟知しており、僕にとって最も好きなチームメートの一人でした。彼がもたらしていたものの穴を埋めるのは簡単ではないです。
そして、マイケルはパブロとは全く違うタイプの選手です。彼の強みをチームとして理解して、生かしていかないといけないです。例えばパブロはボールハンドリングをする機会は少なかったですが、マイケルはハンドラーとなって僕たちのシュートチャンスを生み出していく状況は増えていくでしょう。ビッグラインナップも昨シーズンまでとは違った特徴が生まれると思います。
――川崎のさらなる底上げの大きな鍵として、ヤングジュニア選手をいかにフィットさせるか。それとともに若手選手たちのステップアップも欠かせないと思いますが、どのようにとらえていますか。
オフになってアメリカに帰省する前に(前田)悟と話をして、「もっと成長してローテーションに入ることでプレータイムを増やしてほしい」と伝えました。彼はここまで良いワークアウトをしていると思います。増田(啓介)も同じでプレータイムを増やしていくために何をするべきか分かっていると思います。彼はもっとチームに貢献できる選手です。納見(悠仁)が加入したことには少し驚きました。彼はシュート力とパスセンスがあり、爆発力を持っています。彼の加入は素晴らしく、チームが次のレベルに到達するためにもステップアップしてもらいたい選手の一人です。
――残留したメンバーを見るとジョーダン・ヒース選手は今シーズンで川崎在籍4年目となります。Bリーグ開幕当初、川崎はファジーカス選手の相棒を見つけるのに苦労した時期もありましたが、ヒース選手とは抜群の相性です。
J(ヒース)と僕は、互いの持ち味を生かせる良い補完関係にあります。Jはオフェンスで自分から仕掛けていくタイプではないですがパスを捕球するのがうまく、僕のどんなパスでも取ってくれます。ディフェンスにおいては傑出したリムプロテクターで、ピック&ロールから相手のスピードある選手にアタックされても彼がゴール下をカバーしてくれます。僕たちは優れたコンビだと思います。お互いに全く異なる強みをチームにもたらすとともに、素晴らしいケミストリーを作れています。
みんなは僕にチームに加入した時と同じ役割を期待しているかもしれないですが、チームの状況、相手のディフェンスも変わっています。それにチームメートのレベルも上がっているので、僕にシュートを打たせるためのセットを行う回数も減っています。僕の役割が変わったわけではなく、得点を重ね、リバウンドを取ることを今シーズンもやり続けます。ただ、NBL時代のように多くのシュートを打つことはないです。
――話は変わりますが、チームの運営するバスケットボールスクールに行って子供たちに教える機会がありました。スクールの先生はどんな体験でしたか。
とても楽しかったです。息子のハドソンも大きくなり、ボールを使って遊ぶようになってきました。実は彼も川崎のスクールに通うことができる年齢になったので入会させることを考えています。ハドソンは同年代の子供たちに比べてかなり大きいですが、コーディネーションの部分では他の子供たちと比べてもまだまだです。ただ、4歳、5歳の年齢は一つ年を重ねるだけで大きく変わります。彼には引き続き、バスケットボールを楽しんでもらうことを何よりも重視しています。「パパ、バスケットをやりたい!!」と言われたら一緒にやります。ハドソンがスクールに通い始めたら、できるだけ自分で送り迎えをするつもりです。だから同じクラスの皆さんは、僕の姿をよく見ることになると思います。
ハドソンはもう父親がバスケットボール選手であることをよく分かっています。それは下の娘も同じです。彼女は試合を見るのが好きですし、ロウルがお気に入りです。天皇杯は過去2シーズン連続で、優勝した後に家族がコートサイドに入ることができませんでした。今シーズンは3連覇、そしてリーグ優勝を達成してコートサイドで子供たちと一緒に優勝記念の写真を撮りたいです。それができれば一生の思い出になります。
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