Bリーグが開幕し、日本のバスケットボール界が大きく変わりつつある今、各クラブはどんな状況にあるのだろうか。それぞれのクラブが置かれた『現在』と『未来』を、クラブのキーマンに語ってもらおう。
アルバルク東京は、トヨタ自動車の実業団クラブとして1948年から続くの長い歴史を持ち、首都東京をホームタウンとする。Bリーグの『歴史的開幕戦』を担ったことも重なり、新しいバスケットボールファンからは『リーグの盟主』と見られているビッグクラブだ。しかし、今の運営会社はBリーグ立ち上げに伴い発足した新しい組織。代表取締役社長の林邦彦も、他業種からの『参入組』である。
『リーグの盟主』たるべきアルバルク東京はどんな組織なのか。林社長に存分に語ってもらった。
林邦彦(はやし・くにひこ)
1964年生まれ、東京都出身。トヨタアルバルク東京株式会社の代表取締役社長。同志社大サッカー部では小島伸幸(フランスW杯出場、現在は解説者)の同期として活躍。卒業後は三井物産に入社し、今年春に新たに立ち上がったアルバルク東京の運営会社の社長に抜擢された。
稲葉繁樹(いなば・しげき)
1981年生まれ、福岡県出身。『バスケット・カウント』プロデューサー。デジタルコンテンツ、映像、広告、音楽、イベントなど、ジャンルの垣根を自由に往来する「越境するプロデューサー」として多角的に活動している。今も多忙の合間をぬって月2でプレーする草バスケプレーヤー。20年来のブルズファンでもある。
「東京都1部リーグで29歳まで真剣にサッカーをやっていました」
稲葉 まずは林さんの経歴から教えていただけますか。
林 同志社大学を卒業して、1988年に三井物産に入社しました。一貫して営業畑で、消費者まわりのところ、木材とか建材、家の販売に携わりました。ドイツとベトナムに駐在して、帰国後に三井物産フォーサイトという、三井物産の100%子会社に出向し、そこでスポーツビジネスとの関わりができました。広島東洋カープのスポンサーシップ・マーケティングです。看板だとかデイマッチなどの企画を球団と一緒にやり、そこから派生して2年前から中日ドラゴンズともやらせていただきました。
稲葉 なるほど。林さんご自身はスポーツとの関わりはいかがでしょうか。
林 小学校からずっとサッカーをやっていました。大学も体育会で、卒業後は現在関東リーグ1部の『エリースFC東京』というクラブチームで29歳までプレーしていました。関西への転勤を機に真剣なサッカーからは引退してしまいましたが、スポーツの仕事には以前から興味がありました。
稲葉 では、どういった経緯でアルバルク東京の社長を引き受けることになったんですか?
林 もともとBリーグの規定として、参入するために運営会社を作る必要がありました。そこでまず、三井物産にパートナーとしての出資の打診があり、10%の出資をさせていただくことになりました。トヨタの方針として、その運営会社の社長は社外人材を登用する考えがあり、その中で、私にお声がけをいただいたのがきっかけです。多分、巡り巡って最後に私に話が来たんじゃないかと(笑)。
稲葉 プロ野球には仕事でかかわり、サッカーはずっとやってこられた。バスケットボールはそれまで縁のなかった競技です。しかも新たに立ち上げる運営会社の社長ということで、悩んだりはしませんでしたか?
林 迷いました。商事会社での、いわゆるビジネスマンの経験はありますが、スポーツビジネスのマネジメントの経験はなく、自分が適しているのか、少し不安な部分がありましたね。
「11名の社員のうち私を含め9名が社外人材です」
稲葉 『トヨタアルバルク東京株式会社』はどんな組織ですか?
林 トヨタ自動車の運動部として男子バスケットボール部の運営を切り離して、このたび会社を作った、それがトヨタアルバルク東京です。フロントと呼ばれる事務や運営を司る社員が11名います。この中で私を含め9名が社外人材となります。バスケットのみならず他のスポーツの運営会社にいた経験者が大半です。ですから、それぞれの専門分野での経験をどうやってまとめていくか。その結束力と、付加価値をどうつけていくかが、今一番大切にしているところです。
稲葉 開幕から2カ月が経過しましたが、興行としての手応えはいかがですか?
林 開幕戦を除くと6試合のホームゲームをやりました。お客様にどうやって見ていただくか。単にバスケットボールを見てもらうだけではなく、会場に来られた時から帰る時まで一貫した楽しみをどうやってご提供するかが大切です。
稲葉 企業チームだった昨シーズンまでとは全く違いますね?
林 企業のバスケットボール部で試合を見せるのは、『自分と同じ職場で働いている人がそこでプレーしているから、仲間として応援していこう』ということで、それを見てファンになってくれた人が応援していく。そこは継続しながらも、やはり興行として、プロのバスケットボール・エンタテインメントを見たいお客様に、どれだけアリーナに来ていただいて、楽しんでもらえるか。その部分は、これまでとは違った切り口で、ビジネスとしてやっていかなければならないとは思います。
アルバルク東京 林社長に聞く
vol.1「それぞれの専門分野での経験をどうまとめ、結束力と付加価値をつけていくか」
vol.2「我々は東京という熾烈なコンテンツ争いの中で勝っていかなければいけない」
vol.3「ただ単に1万人入りますとか、ビジョンがすごいですとか、それは二次的なこと」
vol.4「お寺を見て爆買いして東京観光が終わりでは『興奮』が足りない」