『若さ』がうまく『勢い』に変換されたチーム
Bリーグも開幕から1カ月が経過し、対戦一巡目が終了した。60試合中まだ10試合が終わったにすぎないが、各クラブの大まかな輪郭は見えてきたと言っていい。その中で予想以上の快進撃を見せているのが、現在西地区1位(8勝2敗)に付ける名古屋ダイヤモンドドルフィンズだ。
第2節では優勝候補の一角に挙げられるシーホース三河を連破。「連敗しないイメージがある三河に2つ勝てたことは、みんなの大きな自信につながったと思います」という中東泰斗の言葉どおり、チームはここから波に乗った。
外国籍選手を除いたスターティングメンバーは中東(24歳)、笹山貴哉(23歳)、張本天傑(24歳)、船生誠也(23歳)と、オール90年代生まれ。ベンチスタートからアグレッシブなディフェンスでチームを鼓舞する藤永佳昭もまた92年生まれの24歳だ。
ここまでの戦いぶりを見る限り、その『若さ』がうまく『勢い』に変換されているように見える。中でも今シーズン移籍加入した張本天傑がいきいきとコートを走る姿が印象的だ。
シーホース三河との第2戦では、残り1分47秒に70-70の同点にされるも、逆転を狙った三河のシュートを見事にブロック。その直後に鮮やかな3ポイントシュートを沈めて再び流れを引き寄せた。さらに10月15日の滋賀レイクスターズ戦では第3クォーターの連続シュートで勝利の立役者となり、続く16日には20得点をマーク。ゲームMVPとして2日連続でヒーローインタビューの舞台に上がった。
次代を担うホープが経験した『苦難の日々』
青山学院大時代から197cmの高さと機動力を併せ持つ『ポテンシャルの高い選手』として知られた。敵陣営にダイナミックに切れ込んだと思うと、長距離砲も沈めるオールラウンダー。守っては3-2のゾーンの真ん中で圧倒的な存在感を見せつけた。
幾度となく苦汁を飲まされた東海大の田中大貴(アルバルク東京)は当時のインタビューで「天傑はオフェンス面ではもちろん、ディフェンスでもすごくやっかいな選手」と答えている。
4年生の春のトーナメントで前十字靭帯断裂という大ケガを負い、半年以上戦列を離れる悔しさも味わったが、それでも『次代を担うホープ』の呼び声は高く、将来を嘱望される存在であることに変わりはなかった。
しかし、アーリーエントリー選手として登録され、気持ちも新たに加入したトヨタ自動車アルバルクで、張本はこれまでにない『苦悩の日々』を経験することになる。
「最初は大学時代と同じ4番ポジションをやっていたんですが、相手のフィジカルの強さは学生時代とは比べものにならない。外国人選手とマッチアップすることもあるので、それを考えると体重を増やし身体を大きくする必要がありました」
だが、そうした努力にもかかわらず、コートの上では厳しい戦いを強いられた。そこで3番ポジションへの転向を試みるが、皮肉なことに今度は増やした体重が張本の『切れ味』に影を落とすことになる。
「どっちつかずの自分に悩みました。懸命に練習はしていましたが、それを生かせない自分がいて、その結果プレータイムも少なくなる。試合に出なければ周りとどんどん差がついてしまうような気がして、このままじゃだめだと考える日々が続きました」
そして、たどり着いたのが『移籍』という選択だ。
「名古屋では最初から3番をやるということで、自分の中の迷いがなくなりました。ここから自分が目指す3番を極めようと決めたら、気持ちがすごく楽になって、なんだか自分が解き放されたような気がします」
まずは106kgあった体重を3カ月で99kgまで落とした。身体を絞ったことで、本来のスピードや切れ味が戻ったように感じている。「そのせいもあって今はプレーすることがすごく楽しいです」
「コートに出たらみんなを引っ張っていく存在に」
自分より年下の選手が4人もいるチームの環境は「いつも明るい」という。「キャプテンの石崎(巧)さんが何でも言い合える雰囲気を作ってくれるのでストレスもないし、みんなが同じ方向に向かって行けているように思います。それがいい結果につながっているんじゃないかと」
もちろん、まだリーグは60分の10が終わったばかり。これからどのチームも戦いながら力をつけてくるのは間違いないし、今は『勢い』に変換できている自分たちの『若さ』が弱点となる場面もあるだろう。
「経験が少ない分、不安要素はあります。でも、自分たちも一試合ごとに経験を積んでいくわけですから。先週の琉球との試合も1戦目は相手のホームの熱気に圧倒されてしまいましたが、翌日はそこを修正することができました。そんなふうに敗れた経験も成長につなげていけたらいい。個人的にはこの夏、日本代表選手としてジョーンズカップやFIBA ASIAチャレンジに出場させてもらって良い経験を積めたので、それも自分なりにチームに還元していきたいと思っています。若手の中でも学年が1つ上の自分は若手であっても若手じゃないというか、コートに出たらみんなを引っ張っていく存在にならなくちゃいけない。そのためにももっと視野を広くして、正確なパスを出せるようになることが目下の課題です」
今週、待ち受けるのはシーホース三河との2度目の連戦。短期間とはいえ、この1カ月間に自分たちがどう成長できたか、それを試される試合にもなる。
「簡単に勝てないことは覚悟してます。でも、もちろん負けるつもりはありません」
舞台はパークアリーナ小牧。ベテラン揃いの試合巧者に若武者軍団が挑む『西地区頂上決戦』は、第6節最大の注目カードと言えそうだ。