男子日本代表

「最後まで戦う気持ちを持ってプレーしたことを誇りに思います」

バスケットボール男子日本代表はワールドカップ予選のWindow2の2試合目でオーストラリアと対戦した。前半を40-42で終えたが、第3クォーターの出だし3分半で0-9のランを許して一気に引き離され、その後は防戦一方の展開となり64-80と地力の違いをまざまざと見せつけられる敗戦となった。

指揮官トム・ホーバスは、格上相手に互角だった前半について内容は良くなかったと考えており、それゆえに勝機を見いだしていた。「2点のリードを許すだけで前半を終えました。この時点で、私たちはベストのバスケットボールをプレーできていなかったです。多くのミスを犯していました。だから後半はとても楽観的にとらえていました。いくつかのミスを修正できれば、勝つチャンスが大きいと思っていました」

しかし、実際はオーストラリアの高い修正力に対応できずに圧倒されてしまった。ホーバスは続ける。「後半、オーストラリアは守備のプレッシャーを強め、私たちは少し焦ってしまいました。そしてオープンショットを外しました。それが決まっていたら試合は少し違った展開になりましたが、できなかったです」

オーストラリアにとって日本戦は、2018年6月29日の前回のワールドカップ予選で痛恨の敗戦を喫して以来だった。あの試合でプレーしていたニック・ケイは、リベンジへの強い思いを持って臨んでいた。「前回、日本に敗れた試合とはメンバーが多く変わっています。ただ、私とアンガス(ブラント)は経験していて、雪辱を果たすことができて良かったです。今日のプレーを誇りに思います」

実際、ケイは31分の出場で15得点11リバウンド7アシストと圧巻のパフォーマンスを見せると、ブラントも19分出場でフィールドゴール9本中7本成功の14得点4リバウンドを記録。2人とも出場した時間の得失点差を表すプラスマイナスでは+20以上と、オーストラリア快勝の立役者になったのは間違いない。

最終的なスコアを見ると連敗を喫したWindow1の中国戦と重なる印象も強い。ただ、ホーバスは「最後まで戦う気持ちを持ってプレーしたことを誇りに思います」と、メンタル面での進歩を強調している。

男子日本代表

ホーバスが求めるバスケットを体現した若手選手たち

これでWindow2は、チャイニーズ・タイペイ相手に76-71と競り勝った26日と合わせ1勝1敗、予選通算では1勝3敗となっている。ホーバス体制になって初勝利を挙げたことは、チームに少なくない自信をもたらしただろう。

そして指揮官は、この2試合の収穫を語る。「今はまだ、このスタイルにフィットする選手、高さに対抗できる選手は誰なのか探している段階です。何人かは良いプレーを見せてくれました。これからがより楽しみになりました。多くのポシティブな要素がたくさんありました」

スタイルにフィットし、高さに対抗できる。今回、ホーバスの下で新たにプレーした選手たちで、この2点を満たすパフォーマンスを見せた代表格は佐藤卓磨だ。代表と所属チームのスタイルの違いに上手く対応できていない選手が少なくない中、オフェンスリバウンドに飛び込んでティップしてマイボールに繋げる。ルーズボールへの鋭い反応を見せスタッツに出ないがとても重要なハードワークに、コーナーからの3ポイントシュートと、千葉ジェッツの時と同じ自らの強みをしっかり披露していた。197cmのサイズを生かした肉弾戦で当たり負けしない部分など、オンリーワンの特徴を持った選手として12名の一つの枠には常に置きたい選手となり得るインパクトを与えた。

また、チャイニーズ・タイペイ戦で8得点5リバウンド4アシスト、オーストラリア戦で19得点5アシストを挙げた富樫勇樹、チャイニーズ・タイペイ戦で27得点と大暴れした西田優大の先発バックコート陣は、指揮官の期待に応えるパフォーマンスを披露し、中心選手の座を確固たるものとしたはずだ。

他には負傷もあってこの2試合、チャイニーズ・タイペイ戦での9分半でのプレーに留まったが齋藤拓実の存在も光っていた。ゴール下のドライブからキックアウトのパスを出すなど、ホーバスが目指すスタイルにおいて、ガード陣がペイント内に切れ込んで相手ディフェンスを翻弄する動きは、3ポイントシュートの精度を高めるためにも重要となる。

この2試合、ガード陣が積極的にドライブする場面はWindow1に比べて目立っていたが、せっかくディフェンスを収縮させても、そこからテンポよくパスをさばいてズレを作る展開にはなかなか持ち込めていなかった。ホーバス体制の4試合において、多くのポイントガードがコートに立ったが、視野の広さと的確なパスでズレを作りだす能力においては、齋藤が一歩以上リードしている印象だ。彼が日本代表でも20分、25分以上とプレーする姿を早く見たい。

男子日本代表

代表でも輝ける選手がどれだけ多く出てくるかがカギ

ホーバスが総括したようにチームは試行錯誤の段階であり、これからに向けて多くのデータを集めることができたのは収穫だ。とはいえ、それは日本だけが得られるものではない。今回の対戦相手を見ると、オーストラリアは指揮官ロブ・ベバーリッジが、「私たちは何人かのベテランに、多くの若い選手たちがいます」と強調し、NBA組を抜きにしても若手主体の経験を積ませるメンバー構成だった。チャイニーズ・タイペイも若手中心の2軍以下といっても差し支えないメンバーで、年齢面でいえば日本が最も上であった。どちらも日本と同等、もしくはそれ以上にチームとして短い準備期間の突貫工事で臨んでいたのが現実だ。そして日本ホームという大きな地の利があった中でのこの結果は、冷静にとらえなければいけない部分だ。

特にこのコロナ禍においては様々な事情があり、Bリーグの中でもメンバー招集に制約が生まれてしまうのは致し方ない。ただ、代表活動に世界随一の時間を作り出せる女子と違い、男子にそのアドバンテージは基本的に見込めない。これから日本は成長していけるが、それはアジア、世界のライバルたちも同じだ。他よりも早い成長速度を生み出せるサポート環境を作り出すことができるのか、それを考えると今の代表を巡る状況が明るい未来と言えるかは難しい。

これから各選手は、次のWindowまでBリーグに戻って自己研鑽に励むことになる。外国籍の強力ビッグマンをスクリーナーとして使えるBリーグと、それが無理な代表など両者の間には多くの違いがあるが、その中でも一つの共通項はある。

富樫、西田、齋藤が象徴するようにBリーグにおいて外国籍のサポートなく独力で局面を打開できる選手は、当然ではあるが代表でも輝いている。だからこそ、これから後半戦を迎えるリーグ戦、個人の力でフィニッシュまで持ち込める日本人選手のさらなる台頭を期待したい。

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日本バスケット界が抱えるプレー面以外での課題

そして最後にバスケットボールとは別の部分だが、今回のWindowで目立ったのは深刻な観客の少なさだ。オーストラリア戦で2253人、チャイニーズ・タイペイ戦に至っては898名だった。Bリーグ屈指の観客動員を誇る琉球ゴールデンキングスのホームゲームとは悪い意味で雲泥の差となっていた。コロナ禍で沖縄以外からの観客がほとんど望めなかったことが最大の要因だろう。ただ、それ以外にも特にチャイニーズ・タイペイ戦は12時ティップオフと、スポーツ観戦には早すぎる時間帯に行われた。また、チケット代が高かったという要因も大きいだろう。

振り返れば東京オリンピック前、日本代表が沖縄アリーナで強化試合を行った際も八村塁はいなかったが、NBA本契約を勝ち取った渡邊雄太が参戦していたにもかかわらず、琉球戦に比べ明らかに観客は少なかった。来年のワールドカップ本大会においてコロナ禍が終息している保証はない。また、故障など不測な事態はつきものであり、ベストメンバーで臨めるかは分からない。だからこそ、マーティング、チケット面において抜本的なテコ入れ、見直しが必要なことを突きつけられた2試合の観客数だった。