常田健

夏のインターハイを制したのは中部第一で、桜花学園と合わせて男女揃って愛知県のチームが優勝した。それでも常勝の桜花学園とは異なり、中部第一にとっては初の全国制覇で、常田健コーチにとっては喜びもひとしおだろう。しかし当の本人は喜びよりも「ホッとした」という印象。一つの大会の結果で判断される重圧は並大抵のものではなく、昨年のウインターカップの1回戦負けが大きなダメージにもなっていた。「勝ちにこだわる」姿勢を今まで以上に強く押し出したことが、インターハイ優勝へと繋がったと語る常田コーチに、今の思いを聞いた。

「私自身が目標を明確に持って、選手と一緒にやってきた」

──インターハイ優勝おめでとうございます。3週間ほどが経過しましたが、少し落ち着いた今はどんな気持ちですか?

優勝した直後はたくさんのお祝いのご連絡をいただいて、逆に連絡が多いだろうからとしばらく経ってから連絡してくれる人もいて、ずっと「おめでとう」と言っていただいています。それでも今は国体が迫っているので、もうそちらに集中しています。チームにはインターハイ終了後にしばらくオフを与えて、そこでホッと一息ついたのですが、今はもう国体ですね。せっかくの優勝ですからもう少し余韻にひたりたいのですが、そうも言っていられないので(笑)。国体は1年生中心で、特にコロナでなかなかバスケができず、自信を持つような機会がない選手が多いので、その精神面を上手くまとめていかなければいけないと思っています。

──去年に続いて今年もコロナの影響が色濃い中でのバスケ部の活動になっています。今回は何が上手くいったのでしょうか?

去年のウインターカップでは北陸を相手に1回戦敗退で、私自身にもチーム全体にも大きなダメージとなりました。新チーム結成当初から「とにかく今年は勝ちにこだわろう」、「目の前にあるインターハイで優勝しよう」という言葉をやたら多く出すようになりました。特に今の3年生は、愛知インターハイで全国2位になった中部第一のバスケを見て入学してきた子たちなので、勝ちにこだわる気持ちを強く持っています。

コロナで大変な中で一生懸命に活動しているのはウチだけじゃなく、どのチームも一緒だと思います。だけど、コロナに感染しても仕方ないわけじゃなく、感染しないように十分気を付けながら今年は勝ちにこだわろうと。選手に厳しくというよりは、私自身が目標を明確に持って、選手と一緒にやってきたことが結果的に良かったんじゃないかと思います。

愛知県は新人戦もなくなり、ブロック大会が中止になった都道府県もあります。それでも去年の失敗があるので、公式戦がない時期でも時間を有効活用して、下半身の強化や基礎的な部分を重点的に、チーム練習のメニューも大幅に変えたのが実りました。

──ウインターカップの1回戦敗退は厳しい経験だったと思います。常田コーチ自身、立ち直るのは大変だったのでは?

中部第一は全国大会2位になっても、その後に去年の1回戦負けに限らず思い通りに結果が出せない、ということが続いていました。私自身、選手が勝ちたいと思っていないのであればいいですけど、勝ちたいと思っている選手を勝たせられないのであれば指導者失格だという思いがありました。だから今回のインターハイである程度の結果が出せなかったら辞めるぐらいの気持ちを自分の中で固めていました。

去年は大会直前に主力選手がケガをしたりだとか、留学生のお母さんが母国で亡くなってしまい、帰りたいのに帰れない状況でバスケどころではなかったりだとか、いろんな事情がありました。それでもやっぱり「負けた」という結果しか残りません。いろんな状況を言い訳にせず、結果が出せなければ自分の指導者の力量の問題だと、そういう覚悟みたいなものはずっと考えていました。

中部第一

「上手くいかなかった去年を経験して、それぞれがの思いが一つになった」

──これまでに、そういった苦しい思いは経験していますか?

愛知インターハイのあった2018年が私の中ではすごく大きなポイントでした。地元の大会で優勝したいという思いがあったのですが、中村拓人が出られずに勝つことができず(中村は同時期に開催されたU18アジア選手権に参加)、その年のウインターカップも福岡第一が非常に素晴らしいチームでこちらも勝てませんでした。どちらも準優勝で自分の中で燃え尽きてしまったというか、同じルーティーンを毎年繰り返していく中で気持ちを保つのが難しい時期もありました。

ただ、だからこそ同じルーティーンの中でも漠然とやるのではなく、こういうオフェンスをしたい、こういうディフェンスをしたいと明確な考えを自分が持って選手にアプローチするのが大事だと思うようになりました。そこから指導者として自分の気持ちをもっと高く高く持っていかなければいけないと思うようになったのは、去年の1回戦負けが大きいです。

──今年のチームでは、具体的にどんなバスケをやろうとしたのですか?

ウチは大きいサイズ感のあるチームですが、相手がスモールバスケットの良さを出してきた時に対応できない面がありました。大きいことが有利にならない部分を突かれてビッグマンがファウルトラブルになったり、ディフェンスをはがされて完全なノーマークを作られたり。逆にこちらは相手が自分たちより小さいのにアウトサイドのシュートを乱発して、相手の嫌がるプレーができなかったり。まさにそれが去年の北陸とのゲームで、それをきっかけに今年はディフェンスでは早い段階からゾーンを採用しました。オフェンスではハンドラーがプッシュしていきますが、そのプレーヤーより前に他のオフェンスの選手が走ることでパスゲームにする。一人のプレーヤーの速さでバスケを展開するのではなく、プッシュする選手とスプリントする選手が融合して速いバスケをすることにこだわりました。

ファウルトラブルには気を付けて、選手にはいろんな話をしました。Bリーグのファイナルを例に挙げて「勝つチームは最後にチームファウルが立っていなくて、大事な時間帯にファウルを有効に使う戦い方ができている。ウチは精一杯すぎて後先を考えないからすぐファウルが立ってしまう。激しさを出しながらファウルせずに上手く守ろう」という話はよくしました。結構時間はかかりましたし、上手く行く時間帯とそうでない時間帯はまだあります。

──2年生ポイントガードの下山瑛司選手は、左手のケガを抱えながら素晴らしいプレーを見せました。

下山は県大会で左手首を骨折しました。別のプレーヤーに代えた東海大会でオフェンスのバランスが崩れて本当に苦しくなってしまったのですが、本人が万全ではなくてもチャレンジしたいと。私からの「ウインターカップがあるじゃないか、来年があるじゃないか」という言葉だけでは納得できない思いがあって、左手にはプレートが入っていたので「左手でこういうプレーをしてはダメ」という制約は多かったのですが、彼が非常によく考えてプレーしてくれて、ギリギリでインターハイに間に合いました。

それだけに勝ちたいという気持ちは強かったと思います。下山に限らず、みんな去年の1回戦負けを見ています。上手くいかなかった去年を経験して、それぞれの思いが一つになった結果だと思います。

下山に限らずケガで万全じゃない選手はたくさんいました。練習では上手くやれていても、公式戦の機会が少ないので、そこで気持ちが入りすぎてケガをしてしまうんですよね。本来であれば練習試合やカップ戦があるのですが、今は公式戦でチャレンジしていくことになります。そこはこれからも気を付けないといけない部分ですし、トレーナーにはかなり厳しく言いました。

常田健

「ウインターカップは全国の強豪校が出揃い、どのチームも仕上げてきます」

──コロナ対策での活動の制限は、今後も当たり前になっていくと思います。ケガ以外にも変化はありますか?

ミーティングも部屋でみんなで集まって、というのが昔みたいにできなくなっています。ウチではミーティングのほとんどをアシスタントコーチの西村彩に任せています。例えば大会中、試合が終わって宿舎に戻って選手がシャワーを浴びたりトレーナーがマッサージしている間に、私と西村で次の対戦相手の映像を確認して、私の思いを伝えます。その後のチームミーティングには私は参加しません。

これはコロナ対策ではなく、ずっと私のアシスタントではなくいずれは自分が監督になる立場の西村であったり、トレーナーを信頼して任せているのですが、私が選手に何かを伝えるのは試合直前の一言二言だけですね。コロナ対策で言えばミーティングするにも、相手のデザインするフォーメーションなどは準備して、スマホで共有して選手たちが確認するようにしています。

──インターハイで優勝すると、次はウインターカップでの連覇が目標になります。年末までどういう心構えでやっていきますか。

ウインターカップは福岡県も京都府も2チーム出てくるでしょうし、全国の強豪校が出揃います。インターハイは『全国大会の新人戦』だと思っていて、ウチも含めてどのチームもそれほど成熟されていないのでいろんなハプニングが起こります。ですがウインターカップは3年生の最後の大会で、どのチームも仕上げてくるので、そんなに簡単に勝てるものではありません。ライバルが100%を求めて来るのであれば、ウチは100%以上にチーム力を上げる必要があります。

そうなった時に、私は選手たちに夏休みのこの時期を自分の弱点に目を向けて練習するように伝えています。スキル的な課題もありますが、声を出すのが苦手ならそこにトライしなさいと、すべての面で弱点を克服してほしいです。

ここまでは長所を出していく戦い方をしてきました。大きくても走れるところを生かす、リバウンドを生かすなど、本人たちの持つ強みをなるべく出すことでインターハイで優勝できました。ここからはチームを成熟させるという意味で、弱点に目を向けてそれぞれのプレーを整えていってもらいたい。最終的にはハーフコートオフェンスをもう少し整理していきたいと思います。