八村塁を筆頭に完成度の高い選手でチームを再編
大黒柱のジョン・ウォールがシーズン全休の時点でウィザーズの今シーズンには暗雲が立ち込めた感があります。それでも開幕を前にブラッドリー・ビールとの契約延長に成功し、将来に向けた懸念事項の一つが解決しました。2人のオールスター選手の複数年契約を確定させたことで、じっくりとチーム改革に取り組めるシーズンになります。
有力選手を揃えながら下位に沈んだこの2年間で明らかになった課題は、コート上だけでなくフロント組織も含めたチーム全体の不協和音。失意のシーズンを終えた後もフロントの陣容すら決まらない期間が続きましたが、その間にオーナーは組織としての立て直しを模索しました。
NBAでは珍しくコーチやGMを簡単にはクビにはしないオーナーが、じっくり考慮して進めた新たな組織作りがどう進むのか、その成否を判断できるのはもっと後になりますが、プレシーズンのコート上ではこれまでとは違うウィザーズの姿が垣間見えました。
ポイントガードは、ウォールの代役として獲得したアイザイア・トーマスもケガをしたことで、イシュ・スミスが先発を務めます。得点力に優れていないものの、小柄ながら豊富な運動量で小気味良いパスワークを作り上げるタイプの司令塔として、オフェンスにリズムをもたらしてくれます。ウィザーズに見られた最初の変化は、全員がボールも足も止めることなく常に動き回ろうとしていたこと。ウォールとビールを中心に個人技で崩していくスタイルから、全員が連動していくスタイルに変化しようとしています。
補強したデイビス・バータンズやモーリス・ワグナーは総合的な能力ではなくシュート力を生かした特定の役割で輝くタイプのビッグマンのため、ディフェンスの状況を判断して空いたスペースにポジションを取ってキャッチ&シュートを狙いました。個人で突破できるタイプではなく、あくまでも周囲との連動があってこそ能力を発揮する選手をパサーにもフィニッシャーにも求めてきました。
また、彼らはNBAで自分が通用する部分を洗練して成長しており、余計なプレーを削った完成度の高い選手です。これまでのウィザーズには高いポテンシャルと未熟な部分を併せ持った選手が多かったので、ここは明確な路線変更をしてきた印象を受けます。
それは大学で3年を過ごした八村塁をドラフト9位で指名したことにも表れました。10代の有名選手が残っていた中での指名はサプライズでしたが、より完成度が高い八村を選んだことには理由がありました。それがプレシーズンで他の新加入選手の活躍からも見えてきたのです。
八村はストレッチタイプのパワーフォワードをメインとしながら、スモールフォワードでも起用されており、八村を活用してラインナップに柔軟性を持たせようとしています。スモールラインナップ隆盛のNBAですが、それを逆手に取るようにビッグマンを増やすチームが出てきており、ウィザーズもアウトサイドシュートの上手いビッグマンを戦術に組み込みました。そのため対戦相手との噛み合わせによっては八村がミスマッチになるように誘導する事もでき、ポストアップ、アウトサイドシュート、スピードを使ったドライブをマッチアップ相手によって使い分け、チームの中で戦略的な優位点として活用する狙いがありそうです。
八村のプレーには課題もあったものの、優位な状況さえ作れれば正確なシュートで得点できることを示しています。ドラフト全体1位のザイオン・ウィリアムソンにケガの不安が出てきたことで新人王の可能性もある状況、どんなプレーを見せてくれるでしょうか。
ビールがエースとして個人技で得点する形は変わらないものの、エース以外が連動したパスワークと運動量で堅実な役割をこなすことでチームが成立する形は、昨シーズンまでのウィザーズと大きな違いがあります。その中で八村だけでなくトーマス・ブライアントやトロイ・ブラウン、ワグナーといった若手を増やしており、チームスタイルの変革と若手の成長を目指したシーズンになります。
もっとも、優勝候補ではないし、プレーオフ進出の有力候補でもないのが今のウィザーズです。完成度の高い選手を集めていく方針ではあっても、まだまだ実力不足の選手が多く、勝利を重ねていくのは簡単ではありません。ウィザーズ最大の問題は負け始めると崩壊してしまう結束力のなさで、チームの不協和音を消して常に前を向いて戦うカルチャーを作る必要があります。
ウォールに頼れないからこそ進められる変革のシーズン。チーム再編の1年をどれだけ有意義なものにできるか、八村の活躍と合わせて注目したい部分です。