「やりきれなかったところは自分の力不足」

今年の『全日本大学バスケットボール選手権(インカレ)』で大きな輝きを放った選手の代表格が、早稲田大の1年生フォワード松本秦だった。早稲田大は決勝で白鷗大に敗れ惜しくも日本一を逃したが、松本はこの試合で36得点の大暴れを見せて大会得点王にも輝いた。

5アウトから次々と3ポイントシュートを放つスモールボールを展開する早稲田大において、松本は以前から定評のあったシュート力で得点を量産。スキルの高さに加え、シュートブロックに飛んでくる相手をフェイクで冷静にかわしたり、守備のスキを突いたタイミングの良いカットインを見せるなど、1年生らしからぬ的確な状況判断も光った。また、留学生ビッグマンがおらずサイズ不足の早稲田大にあって191cmの松本は、準々決勝、準決勝と2試合続けて2桁リバウンドを記録するなど、ディフェンス面でも奮闘した。

高校時代の松本は洛南のエースとして世代屈指の選手と評価されていた。しかし、同級生の瀬川琉久が在学していた東山の牙城を崩すことができず、全国の舞台でスポットライトを浴びることはほとんどなかった。しかし、早稲田大に進学するとシーズン当初から中心選手として活躍し、秋に行われた『関東大学バスケットボールリーグ戦』では57年ぶりとなる関東王者の立役者に。そして今回のインカレでの大活躍によって、ついに才能に見合った脚光を浴びた。

決勝について松本は「いつも使用するような体育館より大きく、観客の皆さんの数も多いです。そこに緊張したところもありましたが『いつも通りにいよう』と言い聞かせて、その通りのプレーが40分間できたのは良かったと思います」と語り、プレーについてはこう振り返る。

「悔しさがないと言ったら嘘になります。初めての決勝で、スタッツを含めてここまで自分の力を出せたことに満足している部分はあります。ただ、決めきれるシュートはありましたし、守りきれなかった場面もあります。そういうやりきれなかったところは自分の力不足だと思います」

「自分に必要なことがはっきりとわかった1年に」

決勝終了後にコート上で行われた白鷗大の優勝インタビューの間、松本はずっと視線を下に落としていた。そこには36得点を挙げながら、エースとしての責任を果たせなかった悔しさが漂っていた。

「まず、4年生を勝たせてあげられなかった気持ちが一番でした。自分が40分間コートに立たせてもらっている以上、チームを勝たせる役割を与えられていると思っています。その役割を果たせられなかった悔しい気持ちが一番です」

日本一のタイトルにはわずかに届かなかったが、今シーズンの早稲田大のアップテンポで得点を量産するスタイルは今年の大学バスケで最も観客を魅力したことは間違いない。他のチームとは一線を画す革新的かつ、スペクタルな戦術ついて松本は「最初は戸惑いがありましたが、やっていく中で結果がついてきて自信もつきました」と語り、このスタイルへのこだわりについて続ける。「スピーディーな展開で3ポイントシュートを多く打って、見ているお客さんに楽しんでもらえるバスケをしようとチームで話していました。今日も、最後まで楽しんでもらえたかなと思います」

このインカレで松本は、大学バスケ界随一のスコアラーであることを証明した。「シュート力については通用すると実感しました。ただ、フィジカルや技術面はまだまだです。大学生を代表する選手、その先のBリーグを目指していく中で、自分に必要なことがはっきりとわかった1年になりました」と、充実の大学1年目を総括する。

自己分析がしっかりとできていて、課題を認識している松本が新シーズンにどんな進化を見せてくれるのか楽しみだ。そして来シーズンの大学バスケ界において、彼が主役の一人となることは間違いない。