
パフォーマンスを維持するためにデバイスを活用
『スポーツパフォーマンス部会』が6月7日、第4回目となるカンファレンスを開催した。同部会はBリーグクラブ所属のパフォーマンス担当者(パフォーマンスコーチやストレングス&コンディショニングコーチ)による有志団体で、「Bリーグの発展と選手のパフォーマンス向上に貢献する」というミッションに向けて、選手たちの競技パフォーマンスの向上やケガのリスクの低減などに関する自己研鑽、情報共有を行っている。
レギュラーシーズン60試合に天皇杯や東アジアスーパーリーグが加わる過密日程のBリーグにおいて、パフォーマンス担当者は選手の筋力向上だけでなくコンディションを維持することも重要な課題となっている。今回のカンファレンスを企画した北山修子(滋賀レイクスS&Cコーチ)に、企画の意図や近々のパフォーマンス部会の取り組みなどについて聞いた。
──今回のカンファレンスのねらいについて教えて下さい。
Bプレミアという新たなリーグへの発展に向けて、新たなデバイスの活用が今後ますます重要になってくると感じています。そしてそれを円滑に活用するには、コーチとの密なコミュニケーションを通じてしっかりと現場に落とし込んでいくことが欠かせません。自身の知識を深めることだけでなく、コーチングスタッフやゼネラルマネージャー、さらにはフロントも含めた関係者全体での理解を深めていく必要があると感じ、このような点をメインに内容を組み立てました。
ラクロスやブレイキン、サーフィンなどの日本代表を指導してきた佐々木優一さん(香港ナショナルトレーニングセンター S&Cコーチ)には、「ハイパフォーマンスに繋がるEvidence Based PracticeとClinical Reasoning」というテーマでお話しいただきました。佐々木さんはバスケットと比べると日数に対して試合数の多い競技を担当されていたので、ピークパフォーマンスではなくてハイパフォーマンスを常に維持するためにどうようなアプローチをしているのか、ということについてお話しいただいたのですが、これはBリーグ関係者にも大きな学びになったのではないかと感じます。
──と言いますと。
今後、Bリーグが発展していく中で、試合数や試合間隔が変化することも考えられます。観客のみなさんは選手のプレー、つまり「パフォーマンスそのもの」に価値を感じて観戦されています。だからこそ、いかにそのパフォーマンスの質を安定的に保ち、高いレベルで提供し続けられるかという視点は重要だと思います。すべての試合をファイナルのような強度で60試合こなすことはできないとしても、可能な限り質の高いパフォーマンスを届けるために、国際的な現場かつタイトなスケジュールで、常に高いパフォーマンスを維持するための取り組みを実践されている佐々木さんのお話はとても参考になるものでした。

数値化することによって見えた国際レベルとの差
──Bリーグは世界的に見ても試合数が多いリーグで、特に上位チームの選手は代表活動や天皇杯、東アジアスーパーリーグなどでさらに過密日程を余儀なくされます。練習やトレーニングすらままならない状態で高いパフォーマンスを維持させるために、パフォーマンスコーチはどのような取り組みを行っているのでしょうか。
デバイスによって心拍数、走行距離、速度、ジャンプ回数などの身体にかかる負荷と主観的運動強度(RPE)といった指標を通じて間接的に推定・モデル化できるようになったのは本当に大きなことだと思います。データを常にチェックできるので「もっと頑張れるはずだ」といった感覚頼りの指導やオーバーワークを減らすことができます。また、現場に専門家がいなくてもパフォーマンスをコントロールすることができているという話も聞いています。
チームの目的はあくまで試合に勝つこと。パフォーマンス担当者は、試合に勝つパフォーマンスをするために、練習のトータルスケジュールをコーチングスタッフやフロントとコミュニケーションをとりながらマネジメントすることが求められます。
──カンファレンスに登壇された信州ブレイブウォリアーズの勝久マイケルヘッドコーチは、パフォーマンス担当者との連携についてどのようなことをお話しされていたのですか?
花園近鉄ライナーズでS&Cコーチを務める坂口丈史さんが、「ラグビーではS&Cコーチとヘッドコーチはある程度対等な立場にある」というお話をされていたのですが、これを受けてマイケルコーチは、「パフォーマンスチームが発展していることを感じている」「彼らの言葉に耳を傾けることでケガが減った」とおっしゃっていました。
──現場でのパフォーマンス担当者の価値が向上しているということですね。
プロスポーツは結局のところ勝敗がすべて。それに向けての年間、月間、週間、1日のスケジュールをパフォーマンスチームとヘッドコーチが合わさって作っていっていることは、昔から考えると大きな変化だと思います。ただ今後は、疲労とフィットネス両方の観点から選手たちのパフォーマンスを管理している立場、選手だけでなくコーチングスタッフを含めフロントスタッフの理解を得ていくことが私たちの至上命題という共通認識が得られました。
──2024-25シーズンより、Bリーグ公式サイトの選手紹介ページにフィジカルテストの結果が掲載されるようになりました。この提案をされたのがスポーツパフォーマンス部会だとうかがっています。
このフィジカルテストの資料をもとに、国立スポーツ科学センタースポーツ科学部研究員の山下大地さんが講義をしてくださったのですが、実はB1の選手とB2の選手とでフィジカルデータ自体に大きな差は見られず、種目によってはB2の選手のほうが高い数値を出していました。そしてNBAなどの国際レベルと比較するとまだまだ埋まらないギャップがありました。特に垂直跳びの数値は約5〜10cmの差がありました。
ストレングスに関する指標を数値化し、Bリーグに入る前から…大学、高校、ジュニア世代から強化に取り組まなければ世界トップレベルには追いつけないと感じています。そういった意味でもこういった数値を公表することは重要で、Bリーグを目指す大学生や高校生、またその指導に関わるコーチやストレングスコーチがフィジカルの重要性を認識し、日々の練習の内容も変わってくると思います。
ストレングス面のアプローチは発展途上
バスケットはコンタクトスポーツであり、今回のカンファレンスでも発表されたように、国際レベルと比較するとフィジカルの数値は発展途上だ。北山は「同じコンタクトスポーツのアメフトやラグビーと比べると、ストレングス面のアプローチにはまだ課題が多い」と話しており、パフォーマンス部会は今後も国内バスケットボールの発展を目指してさまざまに取り組んでいく方針だ。
「豪快なダンクや目の前から消えてしまうようなドライブをするために、選手たちはジャンプ力を向上させたり、切り返しの速さを上げるトレーニングをしています。そこを手助けしているのがパフォーマンスチームです。試合を見ながら、取り組んでいる成果にも注目していただきたいです」北山はこのように語った。