ロケッツが欲しがったのは『サンズの指名権』
ニックスとネッツがミケル・ブリッジズのトレードに合意した日、『ESPN』はネッツとロケッツがドラフト指名権と交換権をトレードしたと報じた。
ロケッツはジェームズ・ハーデンをネッツに放出した際、その見返りとしてネッツの指名権を大量に手に入れていた。ネッツはケビン・デュラントを放出した際に、サンズから指名権を大量に得たが、自前の指名権は失ったままだった。ロケッツはネッツに、彼らの指名権を戻す代わりに、サンズの指名権を手に入れた。
これは何を意味した動きなのか、『ESPN』の続報が紐解く。ネッツはブリッジズ放出を決めた時点で再建へと舵を切ることになって下位に低迷する。すなわちネッツの指名権はロッタリーに回り、2025年のNBAドラフトでの上位となる可能性が高くなる。彼らの持つサンズの指名権の価値は、サンズがプレーオフに進出するのであれば15位以下で、ネッツとしては自前の指名権を取り戻すことには大きな価値がある。特に来年はNBAドラフト豊作の年と言われており、将来のビッグスターを獲得できるチャンスとなる。
ロケッツの狙いは『サンズの』指名権だ。それは『ESPN』の名物記者、アドリアン・ヴォジロナウスキによればケビン・デュラント獲得を意図したものだという。
ここでデュラントの名前が出てくるのは唐突に感じるが、サンズは難しい状況に置かれている。再建から優勝候補へと成長したチームからブリッジズやクリス・ポール、ディアンドレ・エイトンを放出し、デビン・ブッカーとデュラント、ブラッドリー・ビールの『ビッグ3』を結成。しかし、昨シーズンはこれが機能せずにレギュラーシーズンでは49勝33敗でプレーイン・トーナメントをギリギリで回避。プレーオフではファーストラウンドでティンバーウルブズに手も足も出ずスウィープ負けを喫した。
ブッカーは「経験が最高の教師になる」と言い、継続性を持つことでチームは強くなるとシーズンの最後に語った。シーズンが終わるとすぐにフロントはフランク・ボーゲルを解任し、マイク・ブーデンフォルツァーを新たな指揮官に据えた。ただ、デュラントは率先してリーダーシップを発揮するタイプではないし、ビールはいまだケガのトラウマから抜け出すのに苦労している。サンズはこの『ビッグ3』結成のために将来の資産を注ぎ込んでおり、後戻りができない。『ビッグ3』に将来性が見えなくても、それを認めるわけにはいかない立場にいる。
そんなサンズにロケッツは『後戻りできるチャンス』を提供しようとしている。デュラントとのトレードで、手放したサンズの指名権を戻し、再建に役立つ若いタレントも付ける。まだ27歳のブッカーを軸に再建へと舵を切れば、自前の指名権は高順位の価値あるものに変わる……という筋書きだ。
ヴォジロナウスキ記者の荒唐無稽な想像にも思えるが、ロケッツはそれなりの勝算がなければ、指名権の交換を行いはしないはずだ。ネッツが再建に舵を切った以上、ネッツの指名権を持ち続けていれば、それは上位指名権になる。かつてのセルティックスがジェイレン・ブラウンとジェイソン・テイタムを2年連続で1巡目3位指名できたのは、まさにネッツの指名権を持っていたからだ。
デュラントは35歳になるが、レギュラーシーズン75試合とプレーオフ4試合出場とフル稼働をこなし、レギュラーシーズンには27.1得点、プレーオフでは26.8得点といまだリーグ最強スコアラーの実力を持っている。ロケッツはハーデン放出からの3年間で再建が全く上手くいかず、昨年オフにフレッド・バンブリートを始めとする即戦力を獲得し始め、若手育成から勝てるチームへと変わろうとしている。
この数年で育てた若手から数人を厳選して残し、バンブリートやディロン・ブルックスという即戦力を加えたチームをベースとして、絶対的なエースとしてデュラントを迎え入れる。デュラントがトップレベルをキープしている間は優勝を狙い、その時期が過ぎる頃には若手がスター選手へと成長している。そんな未来図をロケッツは描いているのだろう。
もっとも、その未来図にサンズが乗るかどうかは現時点では分からない。NBAファイナルは終わったばかりだが、ドラフトも含めてNBAのオフシーズンは早々にヒートアップしている。