ゴール下で誰よりも高く、素早く飛び13分半の出場で8リバウンドの活躍
バスケ男子日本代表は、2月23日に行われたワールドカップ予選Window6のイラン戦に96-61で快勝した。メンバー変更などさまざまな要素で違いがあるとはいえ、昨年に2度顔を合わせたFIBA公式戦でともに2桁点差で敗れた相手を圧倒したのは大きな価値がある。
この試合、日本にとって大きかったのはイラン代表の守護神である218cmのハメド・ハダディの不在を突き、過去の対戦で後手に回っていたリバウンドで48-33と上回ったことだ。そして、この部分で大きく貢献したのが渡邉飛勇だ。
東京五輪代表にも選出された24歳の渡邉は、207cmのサイズに加え、高校2年まで主に取り組んでいたバレーボールで鍛えた跳躍力を武器に、ゴール下のリバウンド争いで躍動。13分19秒のプレータイムで、豪快なダンクなどで6得点したことに加えて、4つのオフェンスリバウンドを含む8リバウンドと大きなインパクトを与えた。
試合前日の取材対応でイラン戦について渡邉は、「僕と川真田(紘也)のどちらが出るのか可能性は50-50だと思う」と語っていた。また、トム・ホーバスヘッドコーチも試合後の会見で「川真田も良いプレーをしていましたが、ヒュー(渡邉)を選択しました」と明かしたように、そもそもイラン戦に出場するのかどうか直前まで不透明という状況の中での見事な活躍ぶりだった。
ホーバスヘッドコーチは今回、渡邉を選択した理由をこう語る。「(ヒューの起用理由は)彼のエナジーとオフェンスリバウンドです。彼にはベンチから出場して、リバウンドを取ってもらいたかった。イランの(アルスラン)カザミがやるようなプレーです。そして彼は良いリバウンド、ディフェンスをしてくれました」
ホーバスヘッドコーチが言及するカザミとは、長くイラン代表を支え、今回の試合にも出場したフォワードで、屈強な体格を生かしたゴール下での肉弾戦を得意とする百戦錬磨のベテランだ。このアジア屈指の仕事人を相手にしても、渡邉はリバウンド争いで互角以上に渡り合った。その秘訣は「僕はクイックネスが持ち味のビッグマンです」と自信を持つ瞬発力と俊敏性にある。ホーバスヘッドコーチも「彼は優れたリバウンダーと同じくクイックジャンパーです。リバウンドで相手よりも多く飛べます。(NBAで活躍した)デニス・ロッドマンのような感じです」と渡邉の強みを評価する。
長期離脱からの復帰「結果はどうあれ楽しんでプレーすることを意識しています」
東京五輪後、琉球ゴールデンキングスに加入した渡邉は、3度の手術を行うなど右肘の故障で長期離脱を強いられ、今年の2月5日にようやくBリーグデビューを果たしたばかりだ。実戦経験が乏しいまま今回の代表戦となり、まだまだコンデイションは戻っていない。それだけに試合後の取材では開口一番、日本語で「疲れた。オーマイゴッド疲れた。後半はマジで疲れた」と振り返る。
だが、満面の笑顔を見せたようにスタミナ以外には手応えがあった。「前半は自分の仕事ができたけど、後半は疲れ果てました。チームからの指示を遂行することを目指しました。(ダンクは)ジョシュ(ホーキンソン)からの良いアシストがきて決めることができた。もっと長い時間プレーできたら、さらに決められたと思います」
まだ、本調子でない中での代表復帰戦であり、普通なら神経質になってもおかしくないものだ。しかし、辛いリハビリを乗り越えようやくコートに戻ってこられた今の渡邉は、純粋にプレーができる喜びを何よりも感じている。「緊張はしなかったです。本当に楽しかったです。結果はどうあれ、まずは楽しんでプレーすることを意識しています」
8月の本大会、日本会場の舞台は沖縄アリーナだ。今回の活躍で代表入りを願う沖縄の人々の期待はより強くなるだろう。渡邉は「キングスのファンは世界一」と強調した上で率直な心境をこう続ける。「(地元チームからのワールドカップ出場について)今は特に意識しないようにしています。ただ、ジャック・クーリーから良い評価を得られるように代表でもプレーしたいですね(笑)」
名前の挙がったクーリーに加え、琉球にはジョシュ・ダンカン、アレン・ダーラムと屈強なフィジカルを誇る外国籍ビッグマンが揃う。「イランのインサイド陣は強力であり、カザミは素晴らしい選手です。ただ、ジャックはパワー満点のモンスターですし、外国籍選手との練習は自分の成長の助けになっています」と、普段の経験から国際大会の激しいフィジカルゲームにも対応できると語る。
予想通りとはいえコンディション面の不安を露呈する一方、他のビッグマンにはない特別な個性を渡邉は今回の試合でしっかりと証明した。アジアより数段上の高さ、フィジカルと対峙するワールドカップ本大会において、彼のリバウンドはより重要性を増してくるはずだ。