フロントに背中を押され、現役続行を決断
アーリーカップはサンロッカーズ渋谷にとって数々の課題が出て、開幕に向けてあらためて気を引き締める大会となったが、その中でも最大の収穫は清水太志郎が予定通り復帰できたことだ。昨シーズンの後半戦に突入したばかりの1月下旬、清水は左アキレス腱断裂の重傷を負った。37歳という年齢から考えても『引退』の二文字が頭をよぎってもおかしくない事態だ。
「ケガした時のことはすごく覚えていて、トレーナーさんなど周りの方が気を使ってくれていました。ただ、僕は楽観的に考えていて、『とりあえずゆっくり考えます』みたいな感じでした。自分の年齢から言って、またリハビリをして第一線に戻って来るのは大変だと思っていました」
このように清水はケガを負った直後の心境を振り返る。それでも彼が現役続行を決めた一番の理由は、先行きが不透明な状況でもチームから必要とされていると言われたことだ。
「僕はチームのメインでプレーしているわけではなかったし、これからどうしようかなという時に、チームのフロントの方から『どうする?』と言われました。『僕に決める権利があるんですか?』と逆に聞き返しました(笑)。そして『チームの決定に従います』と言いました」
「当時はまだ、現役を続けたいのか、自分の気持ちはまだ分からない状況でした。そんな中で、『もう1年、頑張ってほしい』と言ってもらえ、求められるのは本当にありがたいことです。頑張ってリハビリをしますという形になりました」
「感覚は5割くらい、開幕に向けて仕上げる」
その時点で清水がどのタイミングで、またどれだけのコンディションで復帰できるかは未知数だった。フロントから契約解除を通達されていたとしたら、現役引退を考えただろうと清水は言う。そこには、引き際に対する確固たる信念がある。
「基本的に求められるチームでプレーしたい、というのが大前提です。一年一年が勝負で、あと何年プレーしたいということではなく、自分を必要としてくれるチームがなかったら辞めようと。そこは引退の美学ではないけれど、そういう思いは常に持っています」
現役続行を決断して取り組んだリハビリだが、焦りはなかった。「どんなに頑張って早く回復してもシーズン中には戻って来られない時期でした。それが不幸中の幸いではないですけど、ゆっくりマイペースにできたのかと思います」
ケガの深刻さを考えれば、10月の開幕に間に合わせること自体が難しかったはずだ。「予想以上に順調に来ていると正直に思いますね。オフの期間中もトレーナーさんに与えられたメニューをこなすことができて、8割、9割くらいまで身体は戻ってきているのかなと。ただ、感覚は5割くらいしか戻っていないので、開幕に向けて上げていけたらと思っています」
チームのまとめ役は「プレーと同じぐらい大事な役割」
清水は目立った数字を残すようなタイプではないが、数字に出ない繋ぎのプレーで味方を生かすことに秀でており、チームの潤滑油として頼りになる存在だ。また、ベンチにいても的確な指示を出し、コート内外において指南役となる。その役割は今シーズンも変わらず、清水は「ベテランとしてはプレーすることと同じぐらい大事な仕事の一つです」とサラリと言う。
振り返れば昨シーズンのSR渋谷は、前半戦こそ故障者が多い中でも勝ち続け、リーグ上位の成績を残していた。しかし、逆に故障者の多くが戻って来た後半戦に失速し、チームのケミストリー構築の難しさを痛感する結果となった。そんな中で清水は、ケガ人が多かった前半戦を支えていたが、後半戦に入ってのチームの失速と清水の離脱は重なっている。SR渋谷がチャンピオンシップに進出するためには、清水がケガなくシーズンを乗り切り、コート上でもベンチでもしっかりと存在感を発揮することが一つのカギとなりそうだ。
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