選手の個性を生かす前任者から、セオリーを重視するバスケへ転換
選手の長所を生かし、それぞれの武器を組み合わせていくスコット・ブルックスがチームを去ったことは、ウィザーズにとって極めて大きな変化になりました。ウィザーズは「戦力の割に結果が出ていない」と言われ続けるチームでしたが、言い換えれば「個人能力は発揮できている」ということであり、個々の良い部分は光っても、それでは試合に勝てないという例示でもありました。
個人がそれぞれの得意ゾーンでプレーするため、チーム全体でのスペーシングの意識が低く、またシュートを打つかどうかのジャッジが個人に委ねられているため、ボールを持ってから考える時間が長かったことは、ウィザーズ全体の問題でした。選手は入れ替わってもカルチャーは変わらないため、似たような弱点をずっと持ち続けていたのです。
新たなヘッドコーチに就任したウェス・アンセルドJr.はプレーシーズンで早速この問題に手を付けています。両コーナーにウイングを配置し、しっかりとスペーシングされたオフェンスで相手のディフェンスを大きく広げると、アウトサイドでパスを受けた選手は迷わずシュートを打っています。昨シーズン、リーグで2番目に少ない29.0本だった3ポイントシュートは38.0本まで伸びており、明確な変化が起こっています。
「ウィザーズらしくない」との言葉がつい漏れてしまうほどの変化は、個人任せでアップダウンの激しかったチームに安定感をもたらします。特に真逆の戦術だったレイカーズから来たカイル・クーズマとケンテイビアス・コルドウェル・ポープは新加入ながら順応が早く、スムーズなボールムーブと的確なスペーシングから3ポイントシュートでの貢献が目立っています。
ポジティブにとらえるべきウィザーズの変化ではありますが、それだけで勝てるわけではないのが難しいところ。チームとしての熟成が足りない戦術には穴も多く、プレシーズンゲームは4戦全敗と勝てない日々が続きました。最後のニックス戦は終盤に大逆転負け。プレシーズンゲームで結果にこだわる必要はありませんが、開幕に向けて弾みを付けられなかったのも事実です。
まだまだオートマティックに身体が動いていない選手が多く、またシンプルすぎるスペーシングはディフェンスの対応も楽なので、ここから変化するプレーを織り交ぜていく必要があります。今はチーム作りの初期段階、まだ基本を押さえている段階です。
個人の強みを押し出すのが正解か、それともチーム戦術を優先するほうが正解か。それは答えの出ない難問です。ただ、ウィザーズは明確に舵を切り、これまでとは違うアプローチで試合に臨んでいます。これがどこで形になり、結果に繋がっていくのか。チームの成長を楽しむシーズンになりそうです。