スーパースターが存在感を発揮するチームで若手を育てる難しさ
ケビン・デュラントを加えて『ウォリアーズ王朝』が完成したのは、契約更新のタイミングとリーグ全体の収入が高騰したことによる『サラリーキャップの奇跡』でした。サラリーの上限が決まっているNBAで、あれだけの豪華戦力を持つことは通常では考えられません。スーパースターを多く並べたチームは、ミニマムサラリーのベテランを加えるか、ルーキースケールの若手を加えて強化するのがセオリーです。
そして今のウォリアーズは、『サラリーキャップの理想』といえるロスター構成を実現させています。
ですが、理想と現実は異なるものです。昨シーズンはドラフト2位のジェームス・ワイズマンを本格的な戦力に育て上げることができなかったことで、最も頼りになるセンターは王朝時代と変わらずケボン・ルーニーのままでした。ドレイモンド・グリーンの代役となる動けるビッグマンについてもジョーダン・ベルやエリック・パスカルが一定の結果は残したものの、優勝を狙う戦力として認められるには至らないまま時間が過ぎてしまいました。
唯一、長年の懸念だった『3人目のスプラッシュ・ブラザーズ』にはジョーダン・プールが名乗りを上げており、ケガからの復帰を目指すクレイ・トンプソンの負担を減らせそうですが、大ベテランのアンドレ・イグダーラが復帰したことは、良いニュースであると同時に若手を育てられずにいることも示しています。
オット・ポーターJr.にネマニャ・ビエリツァと実力者が加わったことで、ウォリアーズは優勝を狙える戦力を揃えました。しかし、チームが見据えるのは『1回の優勝』ではなく『王朝の復活』、つまりは継続して優勝を目指せるチームを作ることです。だからこそドラフト指名権をトレードに使うのではなくジョナサン・クミンガとモーゼス・ムーディーを指名しました。
今のウォリアーズは、スーパースター、ミニマムサラリーの実力者、ルーキースケールの若手有望株と、他のチームがうらやむほど理想のロスターが出来上がっています。しかし、充実しすぎているためにプレータイムの配分が難しく、若手が伸びないこともあれば、高い個人能力を持つがゆえにかつてのバスケを追い求めすぎ、一部の選手を除いて個性を発揮できないリスクもあります。
理想を追い求めつつ、現実に優勝できるチームを再構築する。新シーズンはスティーブ・カーにとって非常に難しい舵取りを求める1年になります。