鳥海連志

男子車いすバスケットボール日本代表は、東京パラリンピックで銀メダル獲得という快挙を成し遂げた。その中心にいたのは、予選リーグの初戦でトリプル・ダブルを達成した鳥海連志(所属:WOWOW)だ。東京大会で最高と言える結果を残した鳥海だが、高校生で出場したリオパラリンピックを終えた際には、努力がダイレクトに結果につながらないもどかしさを感じ、競技を辞めようとした時期もあった。それでも一念発起し、たゆまぬ努力を重ねたことで素晴らしい結果を出した鳥海は、迷わずに次の目標へと突き進んでいく。

「挫折ではないですけど、熱が冷めた時期がありました」

──リオパラリンピックが終わって、一度競技を辞めようと思った時期があったとのことですが、当時の心境を教えてください。

当時、日本代表はリオで6位以上を目標にしていました。そこに向けて、高校生なりに学校の時間を削ったし、休日や夏休みも先輩の家に泊まり込んで毎日練習ができる環境を作りました。でも結果は9位でした。その大会にかけてきた時間や思いを考えた時に「もどかしいな」って。これだけやってきたのにこれぐらいの結果かという、挫折ではないですけど、熱が冷めた時期がありました。当時は高校3年生だったので進路を決める時期でもあったし、車いすバスケとは違う人生を歩めるタイミングというのもあって、一時期バスケから離れようと思いました。

──そこから、再び車いすバスケを続けようと思えたのは何故ですか?

両親にはバスケから離れることを伝えていたんですけど、東京パラが決まっていたし続けた方がいいとずっと言われていました。リオの翌年にアンダーの世界選手権がカナダで予定されていて、分かりやすい目標がそこにあったのは大きかったです。東京パラに出れるという自分なりの確信もあったので、続けたほうが良いと自分でも思うところはありました。車いすバスケを続けるなら関東の大学に進学すると決めていたので日体大に進み、そこでしっかりとバスケに向き合う日々を送れました。

──一大決心をしてバスケを続けることにしましたが、大学生から一人暮らしをされているということで大変ではなかったですか?

大変でした(笑)。家事、掃除、洗濯、ご飯作りをやらないといけないのでかなり忙しかったですね。チームには社会人の選手が多く、練習が基本夜になるので、学校が終わってそのまま向かい、帰ってきてからだと単純に家事が回らないなって。学校が早く終われば食事を作っていけるけど、やることが多すぎて当時は親のありがたみをすごく感じた時期でした。

──タスクをこなすことに追われる中で一番の楽しみは何でしたか?

長崎のクラブチームから神奈川に移籍したので、当時の楽しみは神奈川でどれだけ自分の力が通用するのかに挑戦してる時ですね。自分がそのチームでのし上がっていけるかが分かった時期だったので、それが一番だったと思います。

──ゲームやマンガだったり、一般的な学生が好むようなものではないのですね。

基本的にバスケは楽しくて好きでやっていたことなので。それこそ、勝ちにはこだわるんですけど、クラブチームで僕が一番大事にしていたのは全員が楽しいかどうかだったので、楽しみに行っていたところはありますね。

ただ、車いすバスケに出会っていなければ、選手としてかマネージャーとしてかは分からないですが、普通の部活動に入っていたと思うし、そうなったら仲の良い友達と放課後に遊んだりしたんだろうなって思いますね。部活動として車いすバスケはなかったので、所属しているクラブチームの練習と個人で体育館を借りて練習する日々だったので、1人でやる寂しさとかもなかっただろうなとは思います。

鳥海連志

「世界トップ5のレベルに入る自信はあります」

──リオ後は結果が出ないことで競技から離れかけました。今回の東京で素晴らしい結果が出たことで熱が冷めたりはしていないですよね?

燃え尽きはないです。キャプテン(豊島英)も引退を発表しましたし、上の世代がどれだけ残るか分からない中で、僕を始めとする若手がどんどん中心になって代表を引っ張っていくだろうと考えると新しい楽しみができます。今までは引っ張ってもらって自由にやれていましたが、これからは自分たちが代表としての枠を作っていくことになります。僕たちはずっと世界1、2位のチームの背中を追ってきましたが、逆に追われる立場になり、これから強豪として根付くことが何より大切かなと思います。

来年にはアンダーとA代表の2つの世界選手権があって、両方出る予定です。そこでしっかり結果を出すという分かりやすい目標があるので、もう次に向かっているという感覚です。

──海外挑戦も視野に入れていると聞きましたが?

海外に挑戦する意味は僕の価値を知ることです。日本代表の鳥海連志として知ってもらえてはいますが、僕が持ち点2.5の選手として世界の中でどれくらいの選手なのか。どんなチームが、とのような条件でオファーするかを見たいのもあります。選手によって色が違うので何とも言えないですが、世界トップ5のレベルに入る自信はあります。

──東京パラリンピックの結果で確実に車いすバスケの認知度や人気は向上したと思います。車いすバスケ=鳥海選手、のように自身がアイコンとなるような考えはお持ちですか?

あります。パラの熱で応援をしてくださるようになった方もたくさんいるので、まずはその熱を冷めさせないこと。母数は大きくなりましたが、しっかりとファンとして根付いてもらえるかどうかが、今後の盛り上がりに必要だと思います。

僕が競技をやる上での大枠はそこなので、海外に行くことも考えていますけど、一番の競技への還元はどれだけ人気度を高めていくかということです。取材をしてもらい僕を知ってもらうことも、今の僕ができる車いすバスケの普及活動だと思うので、還元していきたいです。

──では最後にファンの方へメッセージをお願いします。

来年にはアンダーの世界選手権が千葉で行われるので、そこで結果を出すことが選手としての役割で一番大きいところです。単純に何がきっかけでもいいんです。なので僕がきっかけでもいいですし、違うところからでもいいので、是非見に来てもらいたいと強く思っています。実際に足を運んでいただき、生で車いすバスケを見ていただいて、一緒にメダルを獲る瞬間を分かち合いたいです。来れる方は実際に千葉に来て、一緒に盛り上がってメダルを獲得しましょう。応援よろしくお願いします!

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