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キッドがドンチッチに説く「チームメートをもっと信頼しろ」

力を出し切れないまま昨シーズンのプレーオフ敗退が決まった直後、マブスはヘッドコーチの交代に踏み切りました。2010-11シーズン悲願の優勝をもたらした功労者にして、リーグ有数の実績を持つリック・カーライルの解任は大きなリスクを伴いますが、後任のジェイソン・キッドが全く違う戦術を用いるタイプで、選手ではなく戦術面の大改革に乗り出しました。

クリスタプス・ポルジンギスはプレーオフでのパフォーマンスが冴えなかったことで批判が集中し、なおかつ彼自身もシューター的な役割では自分の持ち味が出せないと不満を募らせ、移籍をほのめかすこともありました。そのポルジンギスにキッドは、より多彩な形でオフェンスに絡むスタイルを提案し、より高い要求を突き付けることでマブスでプレーする意欲を取り戻させました。

これはルカ・ドンチッチから始まるオフェンスにおいてのフィニッシャー役を求めたカーライルに対し、キッドはドンチッチ以外を起点にするプレーを増やしたい意向を持っているからで、戦術的には大きな方針転換となります。

ドンチッチに「チームメートをもっと信頼しろ」と伝えたように、キッドはマブスの問題点を『ドンチッチ頼みが強すぎる』ことだととらえています。実際、プレーオフでマブスがボールを持った152分のうち、85分がドンチッチが保持していたというデータがあります。あまりにもドンチッチが持ちすぎていたのです。

カーライルの戦術はドンチッチの個人能力を最大限に発揮させ、それをチーム全体で効果的にフィニッシュに繋げていく形でしたが、キッドは選手全員に責任を求め、それぞれにプレーメークにかかわらせる戦術を取るようです。エースがドンチッチであることは変わらなくても、他の選手も自身の得意なプレーを積極的に使っていくことになります。

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ドンチッチ頼みからの脱却。これがチームが前に進むために必要な改革であることは間違いありません。特にポルジンギスにとってはスター候補としての輝きを取り戻すことにも繋がります。一方でこれまでのマブスはプレーメーカーをこなす選手を減らしており、その影響でキッドの理想ほど改革は上手く進まない可能性もあります。

特にキッドがコーチとしてかかわってきたバックスとレイカーズは、オフェンス面ではエリートとは言えませんでした。全員が有機的に絡むオフェンスは理想的ではあっても、現実には個人能力を活用するほうが機能しやすいともいえます。

ドンチッチにとっても新シーズンは一歩引いた形でゲームメーカーとしてチームオフェンスを構築することを学ぶシーズンになりそうです。単独の突破をひたすら繰り返す戦い方には限界がある中で、いかにしてチームメートの能力を引き出していくのか。これまでは直接得点に絡むプレーで結果を残してきましたが、スタッツには現れない進化が求められます。