身体能力では下り坂、それでも35歳の経験と個性がヒートにフィット
カイル・ラウリーはフリーエージェントでヒートに加わりました。優勝経験を持つベテランのオールスターは、リーダーシップをチームにもたらすはずです。補強に期待される要素としてメンタリティは見えにくいので、より具体的に『ラウリーに期待したいこと』を3点挙げてみましょう。
まずは『ゲームコントロール』です。これまでゴラン・ドラギッチがハーフコートオフェンスで得点に直接絡むプレーを構築してきたポイントガードだったのに対し、ラウリーはより全体をオーガナイズするタイプで、試合の流れを考えてテンポをコントロールできます。特にヒートが苦手とする『ディフェンスからオフェンスへの切り替え』は大きく改善されそうです。
強固なディフェンスを誇るヒートは、被フィールドゴール成功率が6位、スティール数も9位とリーグ上位ながらも、ボールを奪ってから有効なカウンターへと繋げるコーディネーターが不足しており、センターのバム・アデバヨまで走れる選手が揃っているにもかかわらず、トランジションの得点は19位と少し寂しい順位でした。一方でラウリーが引っ張ったラプターズは、2019-20シーズンはリーグトップのトランジションを誇り、選手が揃わなかった昨シーズンもリーグ5位と奮闘しました。
ボールを奪った瞬間の判断が早いラウリーは、ワンパスでの速攻を生み出すことも、自らボールプッシュしてディフェンスを動かしつつチームメートが走りこむスペースを作り出すこともでき、チーム全体をスピードアップさせます。無理であればスローダウンに切り替える判断力にも優れ、試合展開に応じたテンポコントロールで、従来のヒートらしさを失わずに、トランジションという新たな武器を加えるはずです。
2つ目はポイントガードながら『シューターとしてもプレーできる』ことで、状況に応じて自分の役割を変幻自在に変えられます。今オフにダンカン・ロビンソンと5年9000万ドルの大型契約を結んだように、ヒートのオフェンスにとってシューターは欠かせない存在ですが、オフボールで激しく動き回りタフショットでも打ち切ることを求められるため、成功率以上に難易度の高いシュートを打ち切る能力が求められます。そのため控えの人材が足りない悩みがありました。
フレッド・バンブリードとガードコンビを組むようになってからのラウリーは、ロビンソン同様にスクリーナーを活用したオフボールムーブが増え、メンバー構成に応じてシューターとして振る舞うようになりました。ヒートでもジミー・バトラーにボールを預けて動き回り、アデバヨとのハンドオフから3ポイントシュートを打つプレーで両エースを機能させながら、自らも得点に絡んでくるでしょう。
3つ目は『カバーディフェンスの強化』です。昨シーズンのヒートはリーグ3位となる69回のチャージドローを記録しましたが、1人で20回を記録する『チャージドローの達人』であるラウリーが加わることで、さらに強力なディフェンスを構築できます。ヒートはディフェンス力の高いチームではあるものの、ブロック数はリーグ最下位に沈んでおり、206cmのアデバヨがセンターを務めるなどサイズよりも機動力を重視しています。その特徴を失わずにカバーディフェンスを強化するのに、『チャージドローの達人』はまさに適任です。
また、ビクター・オラディポもチャージドローが上手く、コンディションが戻ればラウリーとのコンビでゴール下を封鎖できるかもしれません。ガードコンビながら強烈なカバーディフェンスを構築すれば、プレーオフで苦しんだバックスの高さに今度は『スピードと読みの鋭さ』で対抗できます。
35歳のラウリーはすでに身体能力では下り坂を迎えており、分かりやすい個人技でメリットを生み出すのは難しい一面もあります。しかし、年齢を重ねることでそのプレーは深みを増しています。ゲームの流れを読み、チームメートを輝かせ、相手の強みを消すことができる試合巧者です。これまでヒートが持っている強みを失うことなく、新たな武器をもたらす存在になりそうです。