マヌ・ジノビリ

文=神高尚 写真=Getty Images

スタッツは低調でも、色褪せることのなかった存在感

夏の間もスパーズの練習場でトレーニングを重ねながらも、最終的に引退を選択したマヌ・ジノビリ。昨年に締結した2年契約を1年残しての、少しだけ早い引退となりました。

昨シーズンのジノビリは、3ポイントシュート成功率33.3%はキャリアで2番目に悪く、アシスト2.5もルーキーシーズン以来の少なさで、リバウンド2.0はキャリア最低でした。スティールやブロックでも軒並み低い数字を残しており、ここ数年と比較しても衰えを感じずにはいられないスタッツです。

スパーズは昨シーズンほとんどの試合を欠場したカワイ・レナードとトレードでオールスターのデマー・デローザンとヤコブ・パートルを、ドラフトでは期待の若手を、フリーエージェントではベテランを獲得しており、ジノビリがいなくても十分な戦力を揃えています。

その一方でダニー・グリーンとトニー・パーカーという、ジノビリにとっては長くともに戦ってきたチームメートがスパーズを去ることになりました。

41歳という年齢、仲間の退団、そして自分自身の衰えと、引退を考えるのも理解できる状況で、これからスパーズは新たな核となる選手で再編成されますが、それでもジノビリはまだ必要な戦力であり、ヘッドコーチのグレッグ・ポポビッチは彼がもう1年プレーすることを望んでいたはずです。そんなジノビリの引退はポポビッチの采配にも重要な変化をもたらすでしょう。

ジノビリの戦略的起用で勝利を呼び込んだスパーズ

ジノビリの役割はベンチから出てきてチームを落ち着かせることですが、現在のロスターには得点、アシスト、リバウンドなどオールラウンドに働くタイプのスモールフォワードがルディ・ゲイしかいません。試合中のケガやファウルトラブルなど、緊急時に役割を問わずに起用できる選手は必要になります。

また昨シーズンのジノビリのフィールドゴール成功率は勝ち試合で47.9%、負け試合で35.7%と安定感を欠く一方で、平均20分しかプレーしないベンチメンバーでありながらチームの勝利とジノビリの活躍に関連性が高く、チームに勝利を呼び込む活躍をしていたといえます。

前半はベンチから出てくるとベテランらしくチームオフェンスに変化をつけ、ディフェンスの弱い部分を的確に攻略していき、チームにリードをもたらすのが役割となっています。堅実なプレーを重ねるスパーズは、ここで一つのリードを得ることで試合運びの巧みさを見せてきました。逆に、そんな形が全く上手く行かずに敗戦ムードの試合になると、第4クォーターには出場しないこともしばしば。出場した65試合中15試合でジノビリは第4クォーターでプレーしていません。ポポビッチはジノビリの使いどころを定めて、試合を有利に進めようとしました。

第4クォーターになっても接戦が続く展開でクラッチタイムに突入すると、ジノビリは集中力を高めて真価を発揮します。残り5分、5点差以内の条件だと、69分のプレータイムで44点を奪い、フィールドゴール成功率54.2%と全盛期のようなスコアリングマシーンに戻ります。

その間のファウル数もチーム最多の10個と、ファウルを使って止めるシーンも多々あり、戦略的に勝利への道筋を計算する強かさを持ち合わせています。特に負けている状況でのクラッチタイムの得失点差は+3.3と、時に逆転勝利を呼び込む大活躍を見せました。

ジノビリ抜きでの『勝ちパターン』は?

クラッチタイムでジノビリがプレーした24試合でチームは16勝8敗と経験豊富なチームらしい勝負強さを発揮しました。プレーオフでもジノビリが16点5アシストを記録した試合がスパーズ唯一の勝利に繋がっています。

トータルの数字では衰えを隠せなかったジノビリですが、勝負どころでの頼れる姿は以前と変わらず、スパーズファンからするとチームを勝利に導く能力を持つジノビリは新シーズンでも必要不可欠な戦力だったのでした。

新シーズンはデローザンとオルドリッジという2人の中心選手がいて、選手層も厚くなったことからジノビリの負担は大きく減り、プレータイムはさらに短くなる予定だったでしょう。華麗なユーロステップ、トリッキーなパス、読みの鋭いディフェンス、一つひとつのプレーで楽しませてくれるだけでなく、スパーズにいくつもの勝利を手繰り寄せてくれたジノビリだけに、その引退はチームにとって大きな痛手になりそうです。

ジノビリの引退、トニー・パーカーの移籍で『ビッグ3』全員がいなくなりました。ケガ人も多かった昨シーズン、ポポビッチはジノビリを有効活用して勝利を得てきたのですが、新しいメンバーでどのような勝ちパターンを構築するのでしょうか。ジノビリの引退は数字以上に大きな影響を与えそうです。