トム・ホーバス

18アシストの町田を絶賛「ピック&ロールの感覚は傑出したものがあります」

バスケットボール女子日本代表は、8月6日に行われた東京オリンピック準決勝でフランスに87-71と勝利し、オリンピック7連覇を目指すアメリカが待つ決勝へと駒を進めた。

日本は第1クォーターこそ14-22と苦しんだが、第2クォーターに入るとフランスの守備にしっかりアジャストした。相手が日本の武器である3ポイントシュートを徹底的に封じてきたことでヘルプに行くのが遅れ、ゴール下に生まれるスペースを的確に突いて得点。これで相手がゴール下をカバーせざるを得なくなると、今後は3ポイントシュートを高確率で射抜いた。内と外のバランスが取れた理想的なオフェンスを展開すると、さらにディフェンスリバウンドをしっかり確保することで速攻に持ち込みフランスを圧倒した。

この快勝劇を指揮官トム・ホーバスはこのように振り返った。「決勝に進めることはとても幸せでうれしいです。第1クォーターは疲れが残っていたのかもしれないですが、スロースタートでした。ただ、そこから選手たちのスイッチが入りました。みんな何をするべきか理解し、それを実行してくれました。今日の戦い方は、これまでのベストだったと思います。第2クォーターからゲームプランを遂行し、ディフェンスで戦ってたくさん止めました。リバウンド争いで勝ったことは大きかったです。最後の4分間はコーチとして嫌な内容でした。ただ、素晴らしい30分間でそこについてはハッピーです」

そして、オリンピック記録の1試合18アシストを挙げた町田瑠唯についてホーバスヘッドコーチは、次のように絶賛した。「10年間、彼女を指導してきました。実際、3月の時点の彼女は本当に調子が悪かったです。ただ、そこから合宿を経てどんどん良くなりました。周りにはシューターが揃っていて、私たちのシステムに彼女はとても合っています。そしてピック&ロールの感覚は傑出したものがあります」

「ルイの活躍は本当にうれしいです。彼女はいつも影に隠れていて、とてもシャイで信じられないくらいに謙虚です。その彼女が、こうやって世界に認められているのは素晴らしいです」

トム・ホーバス

「アメリカは40分間、アウトサイドで私たちを守れるでしょうか」

オリンピックでの決勝戦進出は日本バスケットボール界において史上最大の偉業である。ただ、ホーバスが4年前から掲げる目標は『東京オリンピックの決勝でアメリカと戦って勝つこと』。当然のように、決勝進出への喜びはあるが、「まだ私たちの仕事が終わっていないことは、本当に幸せです」と満足してはいない。

「あともう1試合、私たちがこれまで積み上げてきたものをどれだけ高いレベルでプレーできるか、それを示せる機会があります。チームは自信に満ち溢れており、次の試合に集中しています。私たちにはまだやるべきことがあり、それはとても大きなものです」

アメリカは決勝トーナメントに入って調子を上げ、準々決勝ではオーストラリア、準決勝ではセルビアと難敵をそれぞれ20点差以上で撃破している。ただ、勝利の青写真はしっかり描けている。「アメリカを倒すには今日のようなプレーを遂行することです。3ポイントシュートを決め、相手のインサイドを外に引っ張りだし、ペイント内で得点する。シンプルなことです。選手たちはそうは思わないでしょうけど(笑)、それが私の考えです」

指揮官はやるべきプレーをこう語ると、グループリーグですでに対戦したことは自分たちのアドバンテージになると強調する。それは選手たちの対応力に絶対の自信を持っているからだ。「すでに試合をしていることは大きいです。選手たちはアメリカのサイズ、手の長さ、スキルを体感しています。テレビで見るのと、実際に経験できるのは違います。特にウチの選手たちはアジャストする能力が高いです」

「それは今日のフランス戦が示しています。グループリーグの初戦で対戦した後、彼女たちは『思ったより、リーチが長くて手をよく動かす。とてもフィジカル』と驚いていましたが、それにアジャストしました。決勝ではプレッシャーに対してどんな対応ができるか楽しみです」

あらためて言うまでもないが、日本は今大会で最も小さいチームだ。明日の決勝戦、アメリカの高さにやられる場面は何度もあるだろう。ただ、それは敗北を意味するものではない。

ホーバスはこの4年間に渡って代表が歩んできたプロセス、選手たちの力を信じている。「アメリカに勝つには最後まですべてを機能させる必要があります。私たちのシューターが打てるチャンスは間違いなく来ます。私たちはアメリカのインサイドを止められるのか、それはノーです。ただ、相手は40分間、アウトサイドで私たちを守れるでしょうか? それは試合で見てみましょう。今、チーム全員の状態は良いです。自信を持っていますが、過信ではないです」

明日の決勝戦は日本バスケットボール界にとって夢物語だった晴れ舞台だ。偉大なる先人たちから継承し続けた、ハードワークの伝統が生み出す圧倒的な運動量、高いパス技術といった女子バスケットボール界のレガシーを信じ抜き、ホーバスは世界一のスモールバスケットボールを作り出した。ホーバスという稀代の匠の下、12名の精鋭が磨き上げたシャパンオリジナルが世界の頂点に立つ瞬間を信じて待ちたい。