茨城ロボッツの新社長に就任した西村大介は、歯に衣着せぬ物言いをする。就任会見で茨城と水戸の印象を聞かれて「リゾート感のない街」と言った時、地元メディアが集まる茨城県庁記者クラブの空気はスッと冷えたように感じた。ただ、その力強い語り口調は、再び場の雰囲気を熱くしていく。コロナ禍でのホームゲームで見た、声は出せなくても揃って手をたたき、熱くチームを応援するファンの姿が好きだと言い、「好きな人ができたら、恋愛だけじゃなく仕事や勉強や部活も頑張ったりしますよね。恋愛じゃなくても、ロボッツに夢中になることで同じように頑張って生活をキラキラさせられるんじゃないか。皆さんにワクワクするものを提供してロボッツの存在感を出していきたい」と語る。ロボッツの新社長となった西村に、地方クラブとして日本一を目指す方法論と意気込みを聞いた。
判断に困った時には「より変化が大きい方を選びなさい」
──アメリカンフットボールの選手でありコーチの印象が強いですが、バスケのプレー経験もあると聞きました。滋賀の社長になってバスケ界にやって来るきっかけはどんなものだったのですか?
小学校から高校まではバスケをやっていました。大学でアメフトに転向して、選手と指導者で20年やったので、意識としては『アメリカンフットボールの人間』ですね。京大アメフト部は私が監督の時に大学のクラブとして初めて法人化しました。理由は大学の一クラブで強化するのにお金がなかったからです。当時、関西の私立の強豪校が何億という予算を使っている中で、京大の予算は20万円で、何桁違うねんと(笑)。資金を集めてガバナンスを効かせる、そのための法人化でした。スポンサーを集めて、お客さんからお金をいただいて有料試合にするためのノウハウについて教えを請うたのがbjリーグ最後の頃のレイクスターズだったんです。
考えながら戦略的に見るスポーツであるNFLが私は大好きなのですが、エンタテインメント性が高いのは圧倒的にNBAだと以前から思っていました。アメフトの監督を辞めて滋賀に誘っていただいた時にも、新しいエンタテインメントにかかわることができるぞ、という思いでした。
──2018年の春、滋賀レイクスターズの社長になるとともにGMも務めました。滋賀では若手を中心に地方クラブながら存在感を出し、クラブが創設されたばかりの長崎ヴェルカにかかわって、今回はロボッツです。新しいことをどんどん始めるのは大変では?
大学時代、自分が何か判断で困った時に、私の師匠にあたる京大アメリカンフットボール部の水野彌一監督がアドバイスしてくれたのは「より変化が大きい方を選びなさい」でした。それもあって私は変化が大きければ面白いと感じます。よく「迷ったら難しい道を選べ」と言いますが、しんどいことより面白いことの方が良いですよね(笑)。その道を選ぶとどうなってしまうか分からない方を選択すれば、自分も変わるし自分の見える世界も変わってきて面白いぞと。自分の慣れ親しんだものとは違うことをやるので大変ですが、社会に出て生きていたら嫌なことはいっぱいあって、楽しんでいないと乗り越えられない。他のアメフトチームの監督や大学の教員といったオファーもいただいていたのですが、プロバスケットボールクラブの経営者は全然違うし、だから一番面白いと思って選びました。
──今回、茨城ロボッツの社長に就任するにあたっては、何を「面白い」と感じて決めましたか?
決め手となった理由の一つは山谷の存在です。年明けに、あるスポーツビジネスのオンラインセミナーで一緒になったのをきっかけに連絡を取り始めたら「社長を探しているクラブがある」と。それが結局は山谷が後任を探していたロボッツでした。山谷は私自身がスポーツビジネスを志すきっかけの一人です。お互いにアメリカンフットボールをやっていて、山谷が先にプレーではなく競技としてどうしていくかを考え始めました。私がスポーツビジネスを志した時に、話を聞ける人として相談させてもらいました。その山谷の仕事を引き継ぐのはうれしいです。
「自分を高めたい、勝ちたいと思う選手に選んでもらえる環境作り」
──会見では「正直、これから面白いのになぜ譲るのか」と思ったことを明かしていました。ロボッツは山谷さんの下で経営を立て直し、これからB1に初挑戦するところで、面白いですが大変でもあります。B1では強いチームが東地区に偏っていますが、つまりは首都圏のチームです。地方クラブで勝つ、日本一を目指す道筋は見えていますか?
地方というよりも、ビッグスポンサーがいるかどうかが正直一番大きいと思います。長崎に行ったことは私にとってすごく良い経験でした。4つのテレビ局と長崎新聞が毎日大きく取り扱ってくれて、地域の方々の大きな話題になっている。タクシーに乗って運転手がまず話すのはV・ファーレン長崎のことですから、地方の方がスポーツクラブが根付きやすいんだ、と長崎で実感しました。
勝つかどうかはまた別の話で、今のBリーグではお金の原理が強く、お金があるチームが勝ちます。ただ、あきらめるのかと言えばそうではない。今回B2からB1に上がるタイミングで、声を掛ける選手にはいろいろな話を聞かせてもらいました。「B2とB1で何が違うのか」を両方を経験している選手たちに聞いたのですが、やはりフィジカルが違う、フィジカルの強さに紐づくディフェンスの強度がB2とB1の差だ、とみんな言います。その原点は何かと問えば、本気でこのバスケットに懸けているかどうか、勝つマインドやプライドを持っているかどうかが一番だと。
B1の中でもトップクラスとそうでないチームの違いは、予算や環境などいろいろありますが、選手たちが「代表選手になるんだ」とか「絶対B1で優勝するんだ」と本気で思って日々の練習でハードにやれているか。Bリーグのプロ選手になって結構やれているからそれでいいや、と思っている選手との違いについて、何人もの選手が話してくれました。
今回の編成はB1昇格を決めてからスタートしたので3週間遅れでしたし、それとは別にオファーしても別のチームを選ぶ選手もいました。そんな時は責めるわけではなく我々の反省として「なぜロボッツを選ばなかったのか教えてください」と聞きました。すると、お金より「勝てるチームでバスケがしたい」と言う選手がかなり多いんです。優勝争いがしたい、強いチームで自分を成長させたい、という理由で金額が安くてもB1の強豪チームを、逆にB2で優勝を狙えるチームを若い選手が選ぶケースを私自身が見てきました。
自分を高めたい、勝ちたいと思う選手に選んでもらえる環境作りが非常に大事だと今回あらためて感じました。良い循環に入ることができれば、良い選手が集まるようになります。お金の原理が強いリーグであっても、勝つにはその循環が不可欠だと思います。
「スポンサーやファンも巻き込んで、強くなって日本一に」
──それが就任会見での「ウイニングカルチャーを作る」という発言になるわけですね。
そうです。今回の編成では昇格に貢献してくれた選手を多く残しました。日本代表選手を連れてきて勝つこともできるかもしれませんが、それで日本一に届くかと言えば難しい。そうやって選手の入れ替えを繰り返していても日本一にはなれないと思っています。それよりもカルチャーを作りたい。真剣に勝利を目指してチームに貢献する、という不文律がチームに流れていることが大事です。ポテンシャルのある若手、彼らのお手本になる経験を持つベテラン、そして全員がフォア・ザ・チームであること。2、3年かかるかもしれませんが、日本一になるべくしてなるチームを作りたいと思います。
また、どういうやり方で日本一を目指すのか、どういう意図でこういうチームを作り、また来年は「こうだったから、こう変えていきます」というコミュニケーションをスポンサーやファンの方々と取るのもすごく大事だと思っています。チームだけでなくクラブとして、そこにスポンサーやファンも巻き込んで強くなっていかなければ、日本一には届きません。
昨シーズンの戦い方は非常に良かったのですが、B1はまた違う世界で、昨シーズンの課題を克服すれば勝てるわけではありません。フィジカルの強さ、それに紐づくディフェンスの強度の差を埋めるためには身体作りと意識の変化です。練習から強度の高いものにしなければいけないし、試合でしか学べない部分もあります。B1では戦いながら学んでいくシーズンになります。若い選手がどれだけ成長するかでチームは変わりますし、最初と最後では全然違うチームになると思っています。
──新B1参入のためには勝つだけでなく、売上12億円と平均入場者数4000人をクリアすることが求められます。ロボッツのアリーナは約5000人収容で、水曜ナイトゲームは集客に苦戦することを考えると、週末のホームゲームはすべて満員にするぐらいでようやく4000人に達する、という相当高いハードルですよね。
4000人は簡単ではありませんが、常々思うのは、Jリーグやプロ野球は1万人、2万人を平均で集めているのだから、「たかだか4000人でしょ」と思うべきです。言い訳をせず、それをやりきっている宇都宮ブレックスが我々のロールモデルですよね。シーズンに10回以上アリーナに行くコアなファンを3000人以上作り、ライト層のファンを含めて5000人のアリーナをフルハウスにする。満員のアリーナというのはスポーツビジネスの醍醐味であり、我々が一番やらなくてはいけないことです。
今シーズンのロボッツは50%制限がある中で平均1000人でした。この1000人はほぼ毎試合に来てくれるコアファンで、B1に昇格したことでこれを2000人にまずは増やしたい。そして50%制限がなくなった時に2500人、3000人と増やしてフルハウスの試合を増やしていき、平均4000人を集めたいと思います。
ロボッツのファンはスポンサーボードを掲げて盛り上がったり、みんなでゲームに入り込む一体感がすごいんです。一部のコアファンしかやらないことを、ここではほとんどのお客さんが参加してくれます。その一体感を見れば、コアファンを3000人にすることはできる、と思えます。そんな皆さんにもロボッツが作るウイニングカルチャーを好きになってもらい、スタッフもファンもスポンサーもみんなで日本一になる雰囲気を作りたい。それが「なるべくして日本一になる」ことだと思っています。
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