ジョゼ・ネト

文=鈴木健一郎 写真=レバンガ北海道

Bリーグ3年目のシーズン開幕を前に、レバンガ北海道はブラジル人のジョゼ・ネトを新たなヘッドコーチに迎え入れた。前任の水野宏太は巧みな選手起用で激戦の東地区でも結果を出してきたが、チームはそれをさらに上回る挑戦へと乗り出した。新シーズンのチームスローガンは『超えろを超えろ』。8月20日の就任会見から、ネト新ヘッドコーチが考える北海道の新たな姿を探る。

「このチームはどこよりもハッスルする」

北海道の新ヘッドコーチとしてのジョゼ・ネトの第一声は「オハヨウゴザイマス」であり、続いて語ったのは日本に対する敬意だった。「自分のキャリアにおいてこの瞬間は特別なもの。日本はいろいろなことがまとまっていて、何事にも真剣に取り組み、敬意を持ち、ハードワークする国。ここで暮らす機会を得られたことにまず感謝したいし、光栄に思っています」

ネトコーチは1971年3月16日、サンパウロ出身の47歳。2012年からブラジルリーグ4連覇を達成しており、ブラジル代表監督としては2度のオリンピック、3度のワールドカップで指揮を執った実績の持ち主だ。

その名将は、北海道に新天地を求めた理由を「クラブと自分の価値観が一致したこと」と説明する。「これまでどのレベルのどのチームでも、自分のモットーであるエクセレンスを注入して目標にたどり着いてきました。私の目標は日本のバスケットを世界のトップに持っていくこと。高い目標かもしれませんが、ハードワークにコミットして専念して、集中しさえすれば達成できると信じています」

この『エクセレンス』がネトコーチのバスケットを読み解くカギになりそうだ。「高い理想がある中で、エクセレンスとは個人ができる最大限であり、そこにどれだけ近づけるか、そこにどれだけ専念できるか、ということ。まあまあ、というのはあまり好きじゃありません。それ以上、もっと上を求めていくという意味です。一人の選手が20得点できるかどうかは分かりませんが、その選手が自分のできること、それ以上に努力することさえしてくれれば良いと考えます」

選手一人ひとりが『エクセレンス』を実践できれば、北海道はこれまで以上のチームになる。ネトコーチは「すべての試合に勝つとは保証できません。ただ一つ約束できるのは、このチームはどこよりもハッスルすること。勝つことは全員にとって大事ですが、それ以上にどのような姿で、どうやって最終的に勝つかが大事です。皆さんが我々の試合を見る時、40分間ハッスルして勝つことが理想だと思います」

「日本のバスケットの成長のために指揮を執りたい」

今の日本バスケット界で南米出身の指導者と言えば、日本代表を率いるフリオ・ラマスが一番に思い浮かぶ。ラマスとネトは旧知の仲。ラマスはサン・ロレンソ、ネトはフラメンゴと、ライバルである両国の強豪クラブを率いており、多くのコミュニケーションを取っていたそうだ。昨年12月にはブラジルを訪れたラマスと情報交換したとのこと。ネトコーチがBリーグを新たな挑戦の場に選ぶ上で、ラマスの存在は小さくなかったようだ。

「私のキャリアはブラジルのコーチ歴で、国際試合も多くやりましたが、ブラジル以外の場所で指導をしたいという思いが強くありました。アルゼンチン、メキシコ、スペイン、ルーマニアといった国からもオファーがある中、最終的にこの日本でチャレンジしてみたいと。この国、この国の人たちを信じて、日本のバスケットの成長のために指揮を執りたいと思いました。逆にそれがまた自分のキャリアの成長にもつながり、自分も家族も学ぶことができると思ったのです」と彼は説明する。

北海道を率いるにあたっては、自分のスタイル、南米のスタイルではなく、チームの持つ特徴をどう生かすかを優先するとネトコーチは言う。「南米のスタイルとはまた違い、今ここにある良い要素を、ハッスル、ハードワークを基にしてチームを作っていきます」

それで言うと、昨シーズンの北海道のバスケットはハードなディフェンス、ボールと選手が連動するバスケットが特徴だった。ネトコーチはこれを継承しつつ、自分の理論を植え付けていくようだ。「ハードにディフェンスするのはもちろん、そこからトランジションで点を取る、一番得点しやすい展開に持っていくのが理想です。それをベースに、守備だけでは勝てないので選手にはシュートを打つチャンスがあればどんどん打ってもらいたい。そのチャンスを私は多く作っていきたい。そのためにはボールを動かすプレーヤーの動きもあり、そこに自分のコンセプトを注入したい」

「このレバンガのマークが一番大事なのです」

北海道は今シーズンも東地区に入る。川崎ブレイブサンダースが抜けたことで昨シーズンほどではないにせよ、激戦の地区であることに変わりはない。そんなリーグの状況においてネトコーチは「良い選手が多い中で新たなルールが適用され、今シーズンにどのチームがトップに行くかと言えば、これはもうどのチームにも可能性があるのではないか」とステップアップを予感させつつ「昨シーズンよりは上の成績で終わりたい」と、まずは現実的なラインに目標を据えた。

まだ来日したばかりで、全員が揃っての練習も行っていないが、「良い選手が集まっている印象」とチームを語る。その一方でキーマンを挙げることは「チームで戦う以上、誰か一人の名前を挙げるのは違うと思う」と避けた。「チーム全体を見てB1で戦えるチームだと思っているし、個々よりもチームを大事にしたい。誰かの名前を挙げてもいいが、彼らは個人で何かができるわけではありません。チームとしてプレーして初めて生きてくるので、まずはチームとして見ていきたい」

そしてネトコーチは、こう印象的な言葉を発した。「ユニフォームの裏に書いてある選手個々の名前が重要なのではなく、ユニフォームの前にあるこのレバンガのマークが一番大事なのです」

北海道での新たな挑戦について饒舌に語るネトコーチだが、自分の実績について多くを語ろうとはしなかった。「自分が何を成し遂げたか、過去を話すのは好きじゃない。今は前を向いて何をしていくか、何をしていきたいかという目線で見ています。レバンガで何ができるか、日本のバスケに何ができるか、です」

彼がどんなポリシーを持つコーチなのかは理解できた気がする。あとはお手並み拝見、新しいレバンガ北海道がコートでどんなバスケットを展開するのか、開幕を楽しみに待ちたい。