スポーツナビでは現在、『あの名勝負をもう一度! バスケットLIVE復刻配信』と題して、今なお色褪せない試合をフルゲームで無料公開している。Bリーグ、日本代表、ウインターカップ、インカレから厳選された11試合の中から、今回は2019年夏のワールドカップに向けた国際強化試合、男子の日本代表がドイツ代表を撃破した試合を紹介したい。
満員御礼のさいたまスーパーアリーナで、日本が誇る個性が持ち味を発揮
中国でのワールドカップ開幕を目前に控え、さいたまスーパーアリーナで国際強化試合が開催された。2019年8月24日、迎えたのはバリバリのNBAプレーヤー、デニス・シュルーダーを擁する格上のドイツだ。
日本代表の先発は篠山竜青、比江島慎、渡邊雄太、八村塁、ニック・ファジーカス。立ち上がりにファジーカスのピックを使った比江島がアタックして得点をもぎ取り、八村によるスティールからの速攻、ファジーカスが巧みにファウルを誘ってのフリースローと良い形で得点を重ねるも、点の取り合いではドイツが上。素早いパスワークで日本のプレッシャーをかわし、ミスマッチを作ってはシュートを狙う効率の良い攻めを見せ、またオフェンスリバウンドからの得点も重ねて日本を上回った。
7点ビハインドで迎えた第3クォーターに渡邊のバスケット・カウント、オフェンスリバウンドを拾った八村のダンクが飛び出して、この2人が勢いに乗る。八村はパワープレーで仕掛けてバスケット・カウントをもぎ取り、渡邊がフック気味のフィンガーロールを沈める連続10得点でドイツにタイムアウトを取らせた。この一連の時間帯は八村と渡邊が現在のNBAプレーヤーとしての姿を彷彿させるプレーの連発で、今でも是非見返してほしいものだ。
活躍したのは八村と渡邊だけではない。ドイツがタイムアウトを取って仕切り直す、そして日本は八村と渡邉を休ませた時間帯は、ベテランの竹内譲次を中心にしのぎ、良い流れのままで第4クォーターを迎える。そこでは比江島の思い切りの良い3ポイントシュート成功があり、ベースラインを破る篠山からの崩しで八村の3ポイントシュートに繋ぎ、さらには比江島ステップ、そして八村のスティールから馬場雄大の迫力満点の速攻が飛び出すなど、ドイツを防戦一方に追い込む猛反撃を見せる。
「勝負どころでアタックする気持ち」で勝利を引き寄せた篠山竜青
そしてファジーカスがコーナースリーのチャンスを確実に決め、馬場が速攻から得たフリースロー2本を決めて逆転に成功。1点リードで迎えた残り1分45秒、ボールを運ぶ篠山に対して、渡邊が右、馬場が左コーナーにポジションを取り、最初はファジーカスが、続いて八村がスクリーンを掛けに引いてくる。ドイツの守備が最も警戒するのは八村で、その一方でそれまでシュートを1本も打っていなかった篠山のアタックは想定していなかった。
「セットプレーをコールしたんですが、ディナイが激しくてパスコースがなかった。そこで自分の目の前が空いていました。ああいう勝負どころでアタックする気持ちを忘れずに、コントロールしながら得点を取るポイントガードを目指しています」と試合後に語った篠山は、猛然とスピードアップしてシュルーダーを抜き去り、ダニエル・タイスが八村のマークを捨ててカバーに入る一瞬先に放ったフローターを沈めた。
こうして活躍すべき選手が持ち味を発揮した日本代表が、終盤のドイツの猛攻をしのいで86-83で勝利。ワールドカップ本番を意識し、「ドイツもまだ調整のためにここに来ている。本番になったらまた違う」という発言が選手からは多く出たが、31得点を奪った八村塁は「ドイツは日本なんかに負けたくないはずで、そこで勝てたことはデカい」と、本番だろうがテストマッチだろうが関係なく、競い合った末に勝利したことに胸を張った。
この直後に挑んだワールドカップでは順位決定戦を含む5試合で全敗と『世界の壁』を痛感させられることになる。それでも、2019年夏の時点で言い訳の余地を残さないベストチームを作り、そこで戦った経験は次へと繋がっている。NBA1年目で15試合に出場しただけだった渡邊は『3&D』として成長し、NBAドラフトでウィザーズに指名されていた八村は、ワールドカップのグループリーグが終わるとともにワシントンDCへと向かい、このドイツ戦の2カ月後にはNBAデビューを飾っている。そして馬場雄大も「自信をへし折られました」と語るとともに「初めて経験するレベルの高さで、へし折られたんですけど、ここから這い上がるだけです。やってやるぞ、という気持ちだけです」と、ここからオーストラリアで活躍する現在まで突き進んでいる。
満員御礼のさいたまスーパーアリーナで行われたこのドイツ戦は、日本の持つ可能性を証明する一戦だった。ワールドカップの苦い経験があってもなお、何度も振り返りたくなるターニングポイントとなる試合だ。