安齋竜三

互いに責任を負う選手とヘッドコーチ

宇都宮ブレックスは川崎ブレイブサンダースとの天皇杯決勝戦に60-76で敗れた。

試合後、安齋竜三ヘッドコーチは「選手たちはプランを遂行しようと頑張ってくれた。僕の戦術や、選手を気持ち良くプレーさせてあげられなかったのが敗因」と、その責任を負った。

しかし、遠藤祐亮は「相手の3ポイントシュートを止めていこうという中で、ノーマークで打たれるシチュエーションが多かった。40分間やりきることができなかった」と、大黒柱のライアン・ロシターも「良い準備ができていたし、ゲームプランはとても良かった。自分たちの遂行力が良くなくてやられてしまった」と語り、プレーヤー側を敗因に挙げた。

試合後の会見はチームミーティングの後に行われるため、ヘッドコーチと選手の意見は一致することが多い。だからこそ、両者の意見に乖離があったことに少なからず違和感があった。とりわけロシターの言葉は指揮官をかばうような発言に聞こえたが、それはヘッドコーチと選手の間に信頼関係が築かれていなければ出てこない言葉だろう。

勝者と敗者が生まれるスポーツにおいて、それぞれの結果に対して理由を明確にすることは当然の作業だ。安齋ヘッドコーチは今回の一発勝負に臨むにあたり、普段とは少し違う戦術や選手起用をしたという。選手の遂行力を信じたからこその一手は、良い結果には結びつかなかった。だからこそ、指揮官は選手を迷わせてしまった自分の選択に非があるとし、選手はそれを遂行できなかった自分を責めた。

安齋ヘッドコーチは「お互いの感じ方」だと言う。「いつもと違うローテーションをした時に選手たちが上手く自分の力を出し切れなかった部分もあったと思うので、そういう部分に関しては僕の責任が大きい。自分たちが抑えようとしていたところでやられたところもありました。選手たちは戦術を信じてやってくれましたが、選手からしたらやりきれなかったという思いがあったのだと思います」

それでも、「短い時間で徹底させなきゃいけなかったですし、それができるような戦術にしなきゃいけなかったので僕の責任」と安齋ヘッドコーチは最後まで自分の至らなさを強調した。

比江島慎

比江島の復調を生んだ何気ないコミュニケーション

敗れはしたものの、比江島慎の復調という収穫もあった。比江島は2月下旬にケガから復帰したが、思うようにパフォーマンスが上がってこず、天皇杯準決勝のアルバルク東京戦では約14分の出場で2得点に終わった。しかし、決勝の舞台では前日とは見違えるような積極果敢なプレーを見せ、チームハイの12得点を挙げている。この活躍の裏には、2人の前日の会話が関係していた。

「昨日の試合が終わって、まだマコらしいプレーが出ていなかったので『どうしたんだよ』ってふざけて言ったんです。そうしたら『明日はやります』と言って。今日は比較的、やってくれた方かなと思います」

安齋ヘッドコーチが「比較的」という言葉を使ったのはそれだけ期待値が高いからだ。「本当はもっと良いんですよ」と頬を緩めた安齋ヘッドコーチは比江島についてこのように語った。

「良いところでもあって悪いところでもあるんですけど、一人でやってはいけないと思っている選手だと思うんです。俺だけじゃなく周りの選手も使いながらとか、何本も外して打ち続けるのはチームプレーじゃないっていう感覚がマコの中にあるのかなと思っています。あいつが外して負けるんだったらそれでいい。ウチにはそういう選手がいっぱいいますし、そこは迷わずに最後までやりきってほしいです。重荷になっている可能性もありますが、そこは僕が言い続けなければいけない」

そして、安齋ヘッドコーチは「昔の方が良かったと言われないように、マコが乗り越えていけるように僕らはしないといけない。コンディションがもっと上がってくれば、ウチのチームもそれでさらに良くなる部分も大きい」と、比江島の復調がもたらす相乗効果に確信を得ている。

これだけコミュニケーションを取っているからこそ、選手は迷わずにプレーし、チームとしての団結力が増すのだろう。天皇杯ファイナルは悔しい敗戦に終わったが、それでもなおブレックスの強さが垣間見えた気がした。