タイリース・ハリバートン

チームメートの得意なプレーを引き出すインテリジェンス

ドラフト前から「不作の年」と言われていた今シーズンのルーキーたちは、上位指名を受けた選手であってもチーム事情もありベンチスタートが多く、昨シーズンのジャ・モラントのように初めからチームのエースとして君臨し、戦術の中心として組み立てられる選手がいない状況です。ただ、『再建の中心』でなくとも戦術にマッチすることで、大きなインパクトを与えている選手もいます。ルーキー・オブ・ザ・マンスに選ばれたホーネッツのラメロ・ボールとキングスのタイリース・ハリバートンは、ともにベンチスタートながら見事なプレーでチーム戦術を輝かせる存在となっています。

ハリバートンはベンチから登場して、チーム戦術に変化をもたらす貴重なシックスマンとして結果を残しています。主役になれる選手が多いキングスは、選手間の距離を広く保ってスペースを作ることで、それぞれが個人で突破していくオフェンスになっていますが、それが単なる個人技の繰り返しになってしまう危険性を伴っています。

しかし、ハリバートンがボールを持つと、チームメートを絡めたコンビプレーの色合いが急激に強くなります。スクリーナーを活用したコンビプレーからラストパスを出すだけでなく、パスを出した後にギブ&ゴーのオフボールムーブでドライブコースを空けるなど、ディフェンスを自分に引き付けるのが上手く、それぞれの選手の得意なプレーを引き出すようなインテリジェンス溢れるプレーメークで攻撃にアクセントを加えます。

またボールを持っていなくても効果的にオフェンスに絡むのがハリバートンの良さでもあり、トップからコーナーまで広い範囲を動き回り、ディフェンスの死角にポジションを取って、高確率の3ポイントシュートでウイングとしてもプレーできます。同じポイントガードのディアロン・フォックスを中心に構成されているチームではハリバートンの役割は限定的になるかと思われましたが、複数のポジションをこなす戦術理解力を生かして、どんなラインナップでも起用されています。

全員がアグレッシブに攻めていくキングスですが、噛み合わなくなる時間帯も必ず訪れます。そんな時にハリバートンがコートに出てくると、歯車を一つひとつ噛み合わせていくようにチーム全体を調整してくれます。ベテランのような安心感をチームにもたらしてくれる稀有なルーキーです。

ここまでクラッチタイムではフィールドゴール成功率67%、ターンオーバーはゼロと完璧なプレーをみせる勝負強さも光っています。ディフェンスでも危険察知能力が高く、線の細さを感じさせないフットワークでスティールを量産しており、攻守両面でキングスのキープレイヤーになってきました。

昨シーズンの新人王、ジャ・モラントもチームメートを生かして攻守両面で活躍できる選手ですが、高い突破力でチーム戦術の中心としてプレーしているのに対し、ハリバートンは常に力をセーブして余裕のある状態を保ち、周囲の状況を見極めた判断力で勝負するタイプのため、チームメートとの関係性の中で活躍しています。圧倒的な身体能力やスキルではなく、戦術理解力が強みになっており、個人としての活躍以上にチーム全体をレベルアップさせてくれる面白い存在です。