比江島慎

取材=古後登志夫 構成=鈴木健一郎 写真=野口岳彦

昨シーズンのレギュラーシーズンMVPにして日本代表のエースである比江島慎が移籍を選択した。大学卒業から5シーズンを過ごしたシーホース三河を離れ、新天地に選んだのは栃木ブレックス。Bリーグのトップスター選手である現状、安定した環境に甘んじることのない比江島は何に向かってチャレンジしているのか。その胸中を聞いた。
栃木移籍を決めた比江島慎の決意(前編)「全部が新しいので、すべてが楽しみ」

母を亡くし「人間的にも成長しなきゃいけない」

──この春にお母さまを亡くしています。今回の決断に何らかの影響はありましたか?

そうですね。僕はお母さんに頼りっぱなしでここまでやってきたので、心機一転でバスケットボール選手としてだけでなく、人間的にもここで成長しなきゃいけないと。

やっぱり「放っといて」という気持ちもあるんですけど、お金の管理も税金も、マンションを借りるのも移籍のことも、なんだかんだ全部お母さんにやってもらっていたので。ちょっと照れ臭いですけど、これからはマネジメントを引き継いでくれた兄とやっていかなきゃいけないので。

──栃木からのリリースには「比江島選手の意思を尊重し、海外リーグへの挑戦を最大限サポートいたします」という一文がありました。もともと比江島選手はチャンスがあれば海外でプレーしたいと公言しています。

海外挑戦はプロになった時点からずっと考えていることなんです。日本代表でそれなりに自信が得られた部分もあって、行ってみたいとは思っているんですが、こういう性格なのでズルズルとなってしまって。試合はもちろん、毎日の練習すべてが今よりうまい選手とやる環境になれば、毎日が本当にチャレンジだし、そういうレベルの高い環境に身を置いてプレーするのが成長への近道だと思います。

比江島慎

「海外に行くことでその自信を持ちたい」

──日本代表で得た自信をもっと高めることができれば、日本代表にもまた間違いなくプラスになりますね。それは東京オリンピックの思いでもあるのでしょうか?

僕にとってはワールドカップやオリンピックでプレーするのがずっと昔からの夢です。それを考えると、フィジカルにも高さにも普段から戦うことで慣れたいという気持ちがあります。今は出場することに挑戦しているわけで、まだその先のことまでは考えられないので、出場できたとして何を目標にするかも分からないですけど。

──「成長したい」という気持ちはすごく分かりました。でも、成長した結果としての自分をどうイメージしていますか?

うーん……とりあえずアジアで一番の選手になりたい、日本代表もそこで戦えるチームにしたいという思いがあります。下の世代はすごいのが揃っています。でも、それだけじゃ勝てないというのも事実です。そのレベルに僕たちが合わせる、じゃないですけど、(八村)塁やニック(ファジーカス)、渡邊雄太の足を引っ張らないように。海外に行くことでその自信を持ちたいという感覚です。

アジアで通用するという自信はあります。そこで一番になって、それから世界です。