カワイ・レナード

個人能力を生かすことに特化しすぎ、個人技依存が敗因に

昨年オフに大型補強を実施し、優勝候補の筆頭と見られていたクリッパーズですが、プレーオフではナゲッツに大逆転負けを喫し、チームとして未成熟であったことを露呈しました。迎えた今オフはヘッドコーチを交代させたものの、チームのベースには大きな変更をせず、新たなシーズンに臨みます。

『バブル』でのシーズン再開に間に合わず、プレーオフでも本領発揮とはいかなかったモントレズ・ハレルがライバルのレイカーズへ移籍したものの、センターにはサージ・イバカを獲得しました。総合的には大きな差がある変更ではないにしても、ハレルはニコラ・ヨキッチやアンソニー・デイビスといったセンターに押し込まれいただけに、ディフェンス力に優れたイバカはプレーオフを考えると必要な補強です。

加えてオフェンスでは、これまでクリッパーズのセンターにはいなかった3ポイントシュートを得意とするタイプだけに、イビツァ・ズバッツとは全く違う役割をこなせます。戦い方に幅をもたらす意味でもイバカの獲得は、攻守に足りなかった要素を補うものと言えるでしょう。

しかし、イバカ以外はシューター役がルーク・ケナードに変わったくらいで目立った補強はなく、基本的には昨シーズンからの継続性で勝負することになります。カワイ・レナード、ポール・ジョージ、ルー・ウィリアムスの3人が繰り出す個人技から始まるオフェンスは止めにくく、パトリック・べバリーを中心に好ディフェンダーを並べたディフェンスはすべてのマッチアップでアドバンテージを得られます。新シーズンも高い勝率を残すでしょう。

豪華戦力の強みを存分に発揮するクリッパーズの戦い方は、勝率以上に強さを感じさせましたが、それはあくまでもレギュラーシーズンの話。プレーオフになるとマブスやナゲッツが繰り出す連携に対応できず、またルカ・ドンチッチやヨキッチに個人のマッチアップで攻略されると、修正する手段に乏しく、チームディフェンスでカバーできませんでした。一つのマッチアップから次々に崩れていくのは、個人能力に依存したチームらしさに溢れていました。

そんなディフェンス以上に問題だったのは、ボールをもらって勝負する主力ばかりが起用されて連携を欠いたオフェンスで、『自滅』と表現したくなるほど機能しませんでした。

「ケミストリーが足りない」と言ってしまえばそれまでですが、最大の問題は「シーズンはシーズン」と割り切った過ごし方をしたことで、自分たちの都合で試合を回すことに慣れすぎ、厳しいプレーオフで求められる『対戦相手や試合状況に応じたアジャスト能力』が磨かれなかったことでした。シーズン中の戦い方とプレーオフの戦い方に隔たりが大きく、追い込まれれば追い込まれるほどチームオフェンスはボロボロになっていったのです。

レナードやジョージを特別扱いしたことがチーム内で不協和音を生みだしたとされていますが、それ以上にプレーオフになって2人のプレータイムが長くなり、オフェンスが単調になったことが問題でした。層の厚い戦力だったはずが、スター2人に依存する慣れない戦い方へと変化したことで、試合の後半に失速していったのです。

新ヘッドコーチのタロン・ルーは、キャブス時代にはエースの力を最大限に生かすオフェンスシステムを突き詰めていました。新シーズンはレナードの負荷をより大きくしながら、チームメートとの連携を深め、プレーオフでも通用する戦い方を模索していくのが最善策に思えます。昨シーズンのレナードは得点とアシストでキャリアハイを記録しましたが、チームに勝利をもたらすためには、よりアシストを増やしていく必要がありそうです。

クリッパーズはプレシーズン3試合中2試合がレイカーズとの対戦で、開幕戦もそのレイカーズとのLA対決となります。レブロン・ジェームスとアンソニー・デイビスのコンビで押し込んでくる相手に、レナードに頼る形を増やすのか、あるいは別の方法で対抗するのかは注目です。そして2戦目はクリスマスゲームでナゲッツと、3戦目はマブスとの対戦カードが組まれています。開幕早々にプレーオフを占う対戦相手が続くことになっています。

個人能力では優勝候補筆頭とされながら、チームとしての完成度で完敗したプレーオフの反省から、新シーズンにどんな方向性で進もうとしているのか、開幕3試合でクリッパーズが見せる戦い方は要注目です。