文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦

「やるべきことをやってきたから、勝って当たり前」

バスケットボール日本代表はオーストラリア相手に大金星を挙げたのに続き、チャイニーズ・タイペイを40点差で一蹴し、ワールドカップアジア1次予選を0勝4敗からの2連勝で逆転で突破した。その夜は疲労を考慮して祝勝会もなかったそうだが、馬場雄大は富樫勇樹と八村塁と食事した後、興奮のまま寝付けずにサッカーの日本代表の試合を観戦し、そのまま台北からの帰国便に乗り込んだそうだ。それでも「一睡もしていないんですよ」と話すその表情からは、大きな仕事をやり遂げた安堵と充実感がうかがえた。

ニック・ファジーカスと八村。この2人が新たに加わったことで日本代表は違うレベルのチームへと一気に進化した。2人の加入効果を馬場はこう語る。「2人がいることによって試合が始まる前から安心感がありました。この2試合は本当に勝つ気でいて、それで変な気負いが生じることもなかったです。2人とも強い意志を持った選手で、彼らが入って良い方向を向くことができたと思います」

「正直、ここまでは勝ちパターンが分かりませんでした。4戦全敗のチームは弱いと言うしかないし、やっている自分たちも力がないと思うしかないです。『自分たちはやれるんだ』という思いは勝つことでしか生まれません。これまでは『勝ちたい』と思っていたのですが、今は『勝って当然』ぐらいの雰囲気です。もちろん、言葉だけ発するのではなくて中身をしっかり固めた上で、『やるべきことをやってきたから、勝って当たり前』という雰囲気です」

馬場雄大

「この1年間で身に着いたことを自然と代表で出せた」

馬場も自分自身のパフォーマンスには合格点を与えている。「ニックと塁が入って新しいチームになったんですけど、自分としてアジャストできたと思っているので、そういう意味で評価は低くないです。ニックと塁にディフェンスが寄ったところでイージーシュートを決めきる、自分のディフェンスをハードにやったり、リバウンドに飛び込んだり。自分に与えられている役割と、ニックと塁が入ったことでの変化に対応する部分ではうまくやれたと思っています」

負ければ1次予選敗退となるチャイニーズ・タイペイ戦、2月のホームゲームでは接戦を落としているが、この時の馬場はケガで出場できず、ベンチから悔しい負けを見守った。ところが今回は完膚なきまでに相手を叩きのめす圧勝。軽視できない相手であることには変わりないが、日本が大きく成長し、結果とスコアにそれが表れた。

「前回の経験がない分、試合前は緊張していました。相手が弱かったわけではなく、力のある選手はいます。ただ、想定していた通りの実力でした。自分たちのスタンダードが上がったことで、上回ることができたと思います」と馬場は言う。

昨年11月のWindow1ではプロデビューしたてのルーキー、Window2はケガによる長期欠場中、そして今回のWindow3ではBリーグ王者アルバルク東京の一員として、田中大貴、竹内譲次とともにリーグ戦での好調を代表に持ち込んだ。「A東京と代表ではシステムは全然違いますけど、考え方は一緒なんです。プロになる前はギャンブルをしてたところもありましたが、そこは固くハードに守る。それはこの1年間ルカ(パヴィチェヴィッチ)に教わったことだし、自分としても意識していたところなので、身に着けたことを自然と代表で出せたと思います」

馬場雄大

「自分たちのやれることは精一杯やる」

ワールドカップの2次予選は9月中旬から始まる。8月のアジア競技大会へ向け日本代表が再始動するのは今月末。このアジア競技大会が2次予選に向けたチーム強化の場になりそうだが、馬場はあくまで勝ちに行く意思を示した。「2次予選に合わせつつも、目の前の試合で結果を残すことに意味があると思います。FIBAから見られていることも意識して、塁や(渡邊)雄太さんはいないかもしれないけど、そこで気を抜いたプレーをするのではなく、どう戦うか。自分たちのやれることは精一杯やる。そうすることで2次予選の準備につながると思っています」

プロとしてのルーキーシーズンを全力で駆け抜け、日本代表でも主力選手としての地位を確立する中で、一回りも二回りもスケールの大きな選手へと成長した馬場。ようやくオフがやって来たが、今月末にはまた代表合宿が始まる。当然、彼もまた招集されて日本代表に戻って来ることになるだろう。馬場雄大の全力疾走は、まだまだ続く。