文=神高尚 写真=野口岳彦

オールラウンドな能力をいかに印象付けるかが勝負

渡邊雄太がネッツの一員としてサマーリーグに参加します。海外の有望選手を集めたNBAグローバルキャンプ、チームが個々に実施するワークアウトに参加した結果、ネッツに評価されたこととなります。このサマーリーグは各チームが若手選手を自分たちの戦術の中でプレーをさせる貴重な舞台で、個人の強みをチーム戦術に生かすことができるかが実践的に試されます。

本人のコメントでも示された渡邊の強みは大きく3つ。「ポイントガードからパワーフォワードまで守れるディフェンスでのユーティリティ性」、「ハンドリング、パス、シュートの総合的なスキル」、「バスケIQの高さ」となります。

サマーリーグではスモールフォワード登録されるサイズがありながら、大学では相手のエースガードを止める役割でA10カンファレンスの最優秀ディフェンダーに選ばれるなどディフェンス力が高く評価されています。そしてNBAグローバルキャンプではチームメンバーの関係でポイントガード役を務めました。攻守両面で複数のポジションに対応できるだけのサイズとスキルがあるのが最大の強みと言えます。

その多様性を試合の中で生かすだけのIQも備えているといえます。逆に言えば「自分の絶対的な武器はこれだ」というものはなく、全局面で活躍できるバスケット選手としてのオールラウンドな能力こそが強みです。

この強みを遺憾なく発揮し、短い期間でネッツのチーム戦術を理解し、フィットする能力の高さを示すのがサマーリーグの目標になります。

ディンウィディーに見るネッツのチーム編成

ネッツでは201cmのロンディ・ホリス・ジェファーソンがインサイドでオフェンスを引っ張り、同じく201cmのクインシー・エーシーがセンターを守っていました。逆にセンターでもコーナーから3ポイントシュートを打つなど、サイズにこだわらずにオールラウンドな能力を求めるチームです。

そしてこれまでに発表されたサマーリーグのメンバー8選手のうち、渡邊を含めて6人がスモールフォワード登録です。特定のポジションのスペシャリストではなく、オールラウンドな能力を重視しており、このサマーリーグでは新たにサイズのあるオールラウンダーの発掘を狙っている様子。チームの目指すバスケットの方向性として渡邊雄太の特長はフィットしていそうです。

ネッツは他にも特徴があり、この数年間はチームの立て直しを目指し、他のチームから解雇された若手からも隠れた才能を見つけ育てています。その筆頭はスペンサー・ディンウィディーで、2014年のドラフト2巡目で指名されたものの芽が出ず、ピストンズとブルズを解雇されて昨シーズンにネッツにやって来ました。

今シーズンは主力の欠場で回ってきたチャンスを生かし、MIPの最終候補にまで残るほど成長しました。シュート力に課題があるもののアシスト/ターンオーバー率4.09という高い数字を残しています。チーム戦術を理解し、堅実な選択のできるタイプのポイントガードです。

渡邊とポジションは異なるものの、ディンウィディーの成功は実績のない選手にもチャンスを与えてくれたこと、バスケIQの高さを評価されたという点でお手本になります。

また、今年のドラフトでネッツはボスニア・ヘルツェゴビナのジャナン・ムサとラトビアのロディオンス・クルッツを指名しました。台湾系アメリカ人のジェレミー・リンも在籍し、オーナーもロシア人と台湾系カナダ人と国際色豊かなチームです。国際スカウトにも力を入れており、世界中から優秀な才能を集めてこようとしています。その点でも、日本人だからといって区別することのないチームです。

戦術へのフィットが大前提、プラスアルファも必要

チームがサマーリーグでプレーさせる選手は大きく2パターンに別れます。「若手有望株に中心選手として経験を積ませる」か、「新たに戦力になる選手がいるかテストする」。渡邊雄太の場合は後者であり、ネッツの戦術を理解しチームにフィットすることが大前提で、その上で同じような特徴を持つ他の選手よりも優れていることをアピールしなければいけません。試合数も少なく、限られた時間の中で何ができるのか。ワンプレーワンプレーがネッツに残るサバイバルであり、他のチームに自分の存在をアピールするチャンスでもあります。

NBAは下部リーグを充実させ、2ウェイ契約という新しい契約形態を導入するなど、近年はドラフト外選手の活躍がより目立つようになりました。一方で世界中から多くの才能が集まり、競争は激化しています。

サマーリーグで結果を残し、シーズン前のキャンプに呼ばれても、そこからはベテラン選手も含めた競争が始まります。その競争を最後まで生き残り、日本人2人目のNBAプレーヤーになれるのかどうか。渡邊雄太の大いなる第一歩は現地7月6日のマジック戦から始まります。