昨シーズン、仙台89ERSは試合を重ねるごとにチーム力を高め、昇格に向けて順調な歩みを見せてきた。しかし、新型コロナウィルス感染拡大によりリーグはレギュラーシーズン終盤戦を残して打ち切りに。仙台はB2東地区の首位に立っていたが、リーグ全体での成績は3位。プレーオフがないままシーズン打ち切り時点の勝率上位2チームの昇格が認められることとなり、昇格を逃してしまった。消化不良のままで終えた昨シーズンの雪辱を果たし、B1の舞台に返り咲くための意気込みを桶谷大ヘッドコーチに聞いた。
「スタートダッシュを重視したチーム作り」
──今シーズンの陣容について、特にどんな部分を意識して編成を行いましたか。
昨シーズン、ディフェンスには手応えがありましたが、オフェンスでは起点となる選手が課題でした。そこでまず高さで優位に立てるポイントガードが必要と思っていて、笹倉(怜寿)をレンタル移籍でアルバルク東京から獲得しました。
もう一つのポイントとして、ペリメーターの外国籍選手が欲しかったです。そのためにはインサイドを任せられる帰化選手か日本人ビッグマンが必要で、ストレッチタイプの鎌田(裕也)と契約ができました。それによってペリメーターの外国籍選手としてジョシュ・ペッパーズが加入しました。鎌田が取れたからペッパーズが取れた。そこは間違いないです。鎌田の外国籍ビッグマンに対して前からハードにディフェンスできる、インサイドで身体を張れる部分は、さすがB1で戦ってきた選手です。
笹倉はボールハンドラーとして素晴らしいですし、ポストアップから起点にもなれます。また、ディフェンスもフィジカルが強くて読みも鋭い。自分がマークできないと思ったらすぐにスイッチする指示を出せます。ルーキーですが洗練されています。2人に影響されて周りもスタンダードを上げていかなければいけないとなっていて、チーム作りには手応えを感じています。
──30代の日本人選手が5人となりますが、ベテランを意図的に増やしたところはありますか。
年齢のバランスは大事です。若い選手が1人増えたら、その分ベテラン選手も必要だというのが僕の考えです。今シーズンは笹倉だけでなく特別指定の渡辺翔太もいるので、ベテラン選手も増えた方が良いと考えました。また、ベテランはポイントでしっかり仕事をしてくれます。基本的に若手がプレータイムを長めに取る中でも、ここ一番の勝負ところで一緒にコートに立ち若手がプレーしやすい状況を作ってくれる選手を多くしたいと考えたら、必然的にベテランが多くなりました。
最初は寒竹(隼人)抜きのメンバー構成だったのですが、3ポイントシュート、ベンチやコート外でのリーダーシップという部分での物足りなさは感じていました。そこにレンタル移籍の話が来て、彼なら足りないものを埋めてくれると判断しました。
──昨シーズン、打ち切りによってB1昇格の望みが絶たれました。今シーズンも新型コロナウィルスの感染状況によっては、どうなるのか不透明です。今シーズンはコロナ禍を踏まえて最初から全開で行かなければいけない、といった意識はありますか。
その意識はあります。レギュレーションの中に『最終順位はシーズンが終わった時の順位』とあり、プレーオフを確実に行うとは明記されていません。それだけにプレーオフに合わせてピークを持って行くのではなく、開幕当初から勝っていける完成度の高さが今まで以上に必要となってきます。メンバーが多い方が安定して戦えるので13名のメンバーで臨みます。例年に比べてもスタートダッシュを重視したチーム作りです。
「ベテランが多く、負けても慌てないから」強豪と連戦
──外国籍選手は昨シーズンにBリーグにいた選手ばかりですが、これはコロナ禍で入国が難しいと想定した結果ですか。
今シーズンのメンバー編成は早い段階から動いていました。その中で外国籍選手はコロナの影響が少なからずあると分かっていました。もともと就労ビザを持っていた選手以外の入国について時間がかかるという話は、噂ですが出ていたんです。そういう状況を受け、これまで日本でプレーしたことのない外国籍選手よりも、日本でのプレー経験がありチームにフィットする選手を取るべきと早めに方針を決めました。そのリスクマネジメントを考えた上での3人です。
3人のうち少なくとも1人は昨シーズンのチームから残したいと考えていて、その中で攻守に渡り僕たちの柱であるダニエル・ミラーを引き留めました。昨シーズン後半に加入したエリック・ジェイコブセンは人気選手で、再契約は難しいと躊躇していたのですが、エリックにもああいう形でシーズンが終わってしまった悔しさがあり、戻ってきてくれました。この2人と一緒に再びプレーできるのは僕らにとって大きいです。
そしてペリメーターのペッパーズは、昨シーズンの富山でプレーしていた姿がこれまで彼に抱いていた印象と違いました。以前はもっと我が強いイメージでしたが、富山ではより洗練されてスマートなプレーをしていました。チームのためにアドバンテージをしっかり作り、そこを的確に攻めていてチームに合うと思いました。彼には外国籍のリーダーの役回りも期待しています。
──プレシーズンや練習試合など、B1のチーム、しかも川崎、千葉、A東京、宇都宮、秋田と強豪と続けて試合を組んでいます。
B1のチームとやることを意識して、何とかお願いして試合を組んでもらいました(笑)。コロナの影響で移動が難しい中でも、僕たちはチームバスで関東圏内に行くことができます。どのチームも快くOKしてくれて、2度の関東遠征ができました。
──例えばプレシーズンで成功体験を重ね、良いイメージを持ってシーズンを迎える選択肢もあると思います。厳しい結果が予想される格上とばかり試合を組むのはリスクもあるのではないでしょうか。その狙いを教えてください。
ベテランが多く、負けても慌てないからです。自分たちのやるべきことをしっかりやろうと言ってくれる選手、スタッフが多くて、負けが続くことで自信をなくすようなチームではないという思いがあります。
代表クラスの選手とマッチアップすることで、細かいところまで徹底しないと点を取れない、また簡単に点を取られることを実感できます。今、自分たちのやっていることがどれだけ通用するのか。できないところはどのように変えていくべきか、それはB1の強豪と試合を重ねることでよりブラッシュアップしやすくなると思います。
「自分たちのスタンダードを上げないと戦えない」
──東地区ではオフシーズン、群馬クレインサンダースがB1での経験豊富な選手を多く獲得する大型補強で注目を集めました。
群馬さんに関しては、対戦した時に月野(雅人)や澤邉(圭太)がいなかったり、ジェイコブセンが加入する前といった要素もありますが、それでも同一チームに1回も勝てなかったのでその雪辱をしたい意地があります。補強とは関係なく、昨シーズンの借りを返したいという思いですね。また、他のチームも良い補強をしていて、昨シーズンよりもB1で実績のある選手が増えています。自分たちのスタンダードを上げないと、どこを相手にしても戦えない、その危機感は強いです。
──今シーズンは『NINERS HOOP』と題し、仙台だけでなく宮城県全域でホームゲームを行うことになりました。新型コロナウイルスの影響で社会が沈みがちな中、この取り組みでどういうメッセージを届けたいですか。
ナイナーズを支えてくれている人は宮城県のいろいろなところにたくさんいます。こういう時だからこそ仙台だけでなく、自分たちが県内各地に出向いてホームゲームを開催し、支えていただいていることへの感謝をプレーで伝えていきたい。そこがこの取り組みを行う一番の理由です。これまで仙台市での試合には行くことができず、ナイナーズの試合を見るのが初めての人もいらっしゃると思います。そういう方たちに「これがプロの試合なのか!」と感動してもらえる試合をしないといけないです。
──新シーズンでB1昇格を果たすための鍵として、特にどんな部分を重視していますか。
共通理解ですね。オフェンスもディフェンスも去年よりもチーム内のルールはかなり増えています。今まで選手に判断を任せていた部分でも、今シーズンはこちらである程度は決める。例えばそのやられ方だったら良いなど『捨てどころ』を作る一方で、絶対にやられてはいけないことを、ルールでしっかり決めました。そこの遂行力が今シーズンの勝敗を分ける一番の鍵で、そこでステップアップできれば確実にB2ではクオリティの高いバスケットボールをできると思います。
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