NBAドラフトまで3週間、有望な若者をNBAへと送り込むエージェントの仕事ぶり

2018/06/04
NBA&海外
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写真=Getty Images

敏腕エージェントが明かすNBAドラフト前の舞台裏

いよいよNBAはファイナルに突入した。カンファレンスを制したウォリアーズとキャバリアーズが最後の戦いを迎えた一方で、残る28チームの選手はオフに入り、長いシーズンで酷使した身体を休めている。そんな中、ファイナルとは別の次元で勝負の時を迎えているのがNBA入りを狙うスター候補生だ。彼らのキャリアのターニングポイントとなるNBAドラフトまで3週間を切った。この時期、選手とクラブの間を取り持つエージェントは何をしているのだろうか。多くの大物選手のエージェントを務め、2015年当時NBA2巡目としては史上最高の契約額(4年総額5百万ドル)でボストン・セルティックスと契約したジョーダン・ミッキーの契約交渉を主導したマット・バブコック(昨年にエージェント業から引退)が、『Sports Illustrated』にその興味深い舞台裏を語った。

NBA契約への長い道のりはシカゴ・ドラフト・コンバインでその火蓋が切って落とされる。先月行われたコンバインに招待されたのはドラフト指名が注目される69名の選手のみ。上位指名が囁かれる選手を含むすべての候補選手たちは、各チームの関係者を前にアピールに努めた。指名が有力視される選手が招待されるコンバインでは、身長、体重、リーチ、体脂肪率などの測定、筋力、敏捷性、跳躍力などのテストに加えて、実戦形式での練習が行なわれる。

バブコックによれば、コンバインで行われる実戦形式のパフォーマンスは重要だが、実のところ、それで2巡目クラスの選手が1巡目指名確実な有力選手を実戦の数字で上回ったとしても、指名順が繰り上がることはまずないと言う。

また、NBAのスカウト網をもってすれば、コンバインを見ずとも有力選手はすべて念入りにチェックされているかと思いきや、この場で有力選手を初めてチェックすることも実は少なくないそうだ。特にヘッドコーチはシーズン中には日々の試合をこなすのに手一杯で、有力選手をその目で確認する初めての機会となる。ここで得た新たな情報を元に、各チームは指名候補を絞っていくが、ここに来るとエージェントの仕事も次のステップへと進む。言わば『ここからが勝負』だ。

自分のクライアントとなるスター候補生をどのクラブに売り込むか。契約を勝ち取るのはもちろん、できる限り良い条件でクラブに迎え入れさせるための交渉が必要となる。コンバインが終わったこの時期、エージェントは知識と経験、それぞれのコネクションから得た情報を総動員させ、次のような要素からベストの手法を探るそうだ。

「どのチームが何位の指名順を持っているのか」、「どの選手がチーム内で契約が保証されているのか」、「クライアントと同じポジションの選手で契約下にあるのは誰なのか」、「その選手の契約にはチームオプションが含まれているのか、それともプレーヤーオプションが含まれているのか」、「他のポジションを補強する必要性があるのか」、「何人分のロスター枠が空いているのか」、「キャップスペースに空きがあるのか、予想されるサラリーキャップよりチーム総年俸額が下回っているかどうか」、「どのサラリー例外条項を適用できる状態にあるのか」、「チームの力が安定しているのか」、「チームとしての来シーズンの目標は何か」、「クライアントがチーム固有のスタイルに適応できるか」、「加入後にクライアントが出場機会を得られるか」……。つまりは複雑怪奇、しかも状況は刻々と変化する。それでも、これこそが『腕の見せどころ』だ。

どの選手にとっても、理想は全30チームのワークアウトに参加してアピールすることだが、これは物理的に不可能。だからこそ、代理人がこれらの項目をチームのGM目線で考え、クライアントである選手を指名する可能性が高いチームを見定めることが重要だと、バブコックは言う。エージェントはチームに選手を売り込み、関心を持たせる。そのチームのワークアウトに招待されたら、あとはその選手が気に入られるのを待つのみだ。

田臥勇太以来、日本人史上2人目のNBA選手を目指しているジョージ・ワシントン大学出身の渡邊雄太は、ケガの影響でシカゴでのコンバインには参加していない。それでもネッツ、ウィザーズのワークアウトに招待され、6月2日から5日までイタリアでのNBAグローバルキャンプに参加している。ドラフト指名に掛かるかどうか際どい位置にいる渡邊にとっては格好のアピールの場だ。

ただ、仮にドラフトで指名されなかったとしても、NBA選手になる道は残されている。サマーリーグに招待されて結果を残せば秋のトレーニングキャンプに呼ばれ、契約が保証されていない若手やベテランたちとレギュラーシーズン開幕ロスターを争うこともあり得る。あるいはGリーグのチームと契約して実績を残した後にNBAチームと契約という流れも増加傾向にある。Gリーグのチームと『2足のわらじ』を履く2ウェイ契約という制度が導入されたのも、渡邊には追い風だ。もしドラフトで指名を受けられなくても立場はフリーエージェントになるため、ヨーロッパやアジアのリーグのチームと契約し、経験を積んでチャンスを待つという選択肢もある。

NBAドラフトは6月21日に行われる。選手はコートでの努力を続け、エージェントはクライアントに関心を持つチームを探し、契約まで漕ぎ着ける戦略を練る。各クラブのGMもまた、チームの方向性、未来を見据えてドラフトで指名する選手を選ばなければならない。かくも綿密な過程を経て、NBAドラフトで指名される選手が決まるのだ。

今年は渡邊が、そして来年以降はゴンザガ大学の八村塁がドラフトで指名される可能性を秘めている。今年の指名結果によりどんなストーリーが生まれるのか、ドラフト当日が待ち遠しい。