マリヤノビッチとバークの『一芸』でクリッパーズに対抗
西カンファレンス2位のクリッパーズと7位のマーベリックスの戦いは、ハイスコアの打ち合いが続く中で、最後は地力に勝るクリッパーズが4勝2敗で次のラウンドに駒を進めました。第4戦の劇的なブザービーターを筆頭にルカ・ドンチッチの強烈な活躍が印象に残るシリーズでしたが、優勝候補であるクリッパーズにマブスが善戦できたのは、そのディフェンス力に対して、怯むことなくアタックしていったのが理由でした。
『ディフェンスが良い』と言ってもそのスタイルは様々です。クリッパーズの場合は優秀なディフェンダーを揃え、個々のマッチアップを制するのが基本。ドンチッチに対してはマーカス・モリスがハードに守り、それが行きすぎたラフプレーとなっての退場劇と後味の悪さも残りました。ただ、こうして個人のマッチアップで戦えるのが、潤沢な戦力を誇るクリッパーズの強みでもあります。
通常であればスクリーンを駆使してマッチアップを変更するなど、ディフェンスの体型を崩し、チームオフェンスで対処するのが戦力で劣るチームの戦略になりますが、マブスのリック・カーライルはクリッパーズの守り方を逆手に取るような個人の武器で対抗してきました。
今シーズン44試合で平均9.6分の出場に留まっていたボバン・マリヤノビッチの高さと、シーディングゲームからチームに加わったトレイ・バークのスピードという『一芸』を持つ選手を積極的に起用し、『局地戦』を選んだのです。
マリヤノビッチは223cmの高さという分かりやすい武器を持っていますが、リングから遠ざけられ、囲まれると意味を成しません。しかし、相手が基本的に1on1で勝負してくれるならゴール下で圧倒的な強さを発揮できます。こうしてマリヤノビッチはフィールドゴール成功率57%で押し込み続けてくれました。また、3ポイントシュート成功率48%のセス・カリーがコートにいる時間にマリヤノビッチは起用され、マリヤノビッチ以外の選手は3ポイントラインの外に広がっていました。
逆にバークに仕掛けさせる時はインサイドに選手を置かず、カワイ・レナードのディフェンスさえも振り切ってしまうスピードで切り裂かせました。3ポイントシュート成功率が47%と絶好調だったことも大きいですが、リムプロテクターさえいなければ無類の強さを発揮するバークの良さを局地戦に組み込んできました。ここでもカリーのシュート力はヘルプを減らす役割を果たしています。
マリヤノビッチとバークは明確な弱点も抱える選手で、特にディフェンスでデメリットが大きいのは明らかでした。ベンチには総合力で上回るデロン・ライトやディフェンスの良いマイケル・キッド ギルクリストがいますが、カーライルは『局地戦』で勝てるポイントを作ることでオフェンス勝負を挑みました。大量失点する試合もありましたが、ハイスコアで打ちあう戦略は2勝という結果に繋がりました。
本来は連動したディフェンスもできるマブスですが、リムプロテクターのクリスタプス・ポルジンギスを欠くことが多かったこともあって、オフェンスを優先したわけですが、そこには最終的に『ドンチッチというスーパースターで勝つ』筋書きがあったように思います。クリッパーズのディフェンス力をもってしてもドンチッチにはヘルプが用意されていましたが、『局地戦』を繰り返せばヘルプは簡単ではなくなります。
またレナードを止めてもポール・ジョージやルー・ウィリアムスが仕掛けてこれるクリッパーズを止めきるのは難しく、攻守の総合力で勝負するよりも個人のマッチアップを際立たせることで、『ドンチッチが個人の勝負を圧倒すれば勝てる』ところまで持っていきたかったのでしょう。今シーズンは勝てなかったものの、この経験を糧にさらに強くなるであろうドンチッチを信じた戦略でもありました。
今後、長きに渡ってマブスはドンチッチのチームとなるでしょう。エースの見事な活躍とともに、今後チームとしてどうやって勝っていくのか、その第一歩を示すことができたプレーオフの収穫は大きかったと言えるはずです。