文=鈴木健一郎 写真=B.LEAGUE

ロシター「三河が勝ってしかるべき、という試合」

栃木ブレックスは敵地でシーホース三河に連敗を喫し、チャンピオンシップのクォーターファイナルで姿を消した。初戦は63-77、第2戦は75-80と連敗。第2戦では最大21点のビハインドから猛烈な追い上げを見せ、ラスト30秒で1点差まで迫ったが、最後はエースとして覚醒しきった比江島慎のクラッチシュートに屈した。

大量ビハインドを背負っても崩れるのではなく逆に結束し、それをチームの勢いに変えて一気に相手を飲み込んでしまう。昨シーズンのチャンピオンシップで猛威を振るった栃木の強さは健在だった。いや、昨シーズンに優勝を決めた後にチームは一度解体され、新チームが苦しみもがきながら、その力を取り戻すまで進化してきたと言うべきだろう。三河の司令塔、橋本竜馬は勝ってもなお「苦しかったです」と素直に栃木が驚異であったことを認めた。

『栃木ここにあり』という存在感は出せた。ただ、そこに満足していなかったのがライアン・ロシターだ。試合後の会見でのロシターは、口調こそ普段と変わらず落ち着いたものだったが、その言葉からは負けた悔しさがにじみ出ていた。「チャンピオンシップのようなゲームでは大きなリードを作ったチームがそのままキープするのは難しい。失うもののない我々はただ向かって行くだけだし、点差が縮まるとリードする側にプレッシャーがかかるもの。それで1点差まで詰めたが、最後は三河がビッグショットを決めた。三河が勝ってしかるべき、という試合だった」

喜多川「負けも共有したし、勝ちも分かち合った」

一方で、悔しさをシャワーとともに洗い流して会見場にやって来たのが、第2戦で16得点と気を吐き、三河を苦しめた喜多川修平だ。比江島に決定的なシュートを決められた後、最後のオフェンスを託されたのは喜多川だった。新加入の喜多川は、シーズン序盤のチーム低迷の影響をもろに受けた選手。そこから這い上がり、一つずつ信頼を積み重ねていく中で、本当の意味での『栃木のプレーヤー』になっていった。そして最後のシュートを託されるまでに至ったのだ。

ちなみに安齋竜三ヘッドコーチは、最後のオフェンスを喜多川に託すことに迷いはなかったと説明するとともに、「相手に読まれていたので、私のミスです」と自分のプレーの選択が悪かったと選手をかばった。喜多川はその場面について「しっかり打ち切ろうと思った」とだけ語るに留め、個人でなくチームの話をしたがった。

「最後は僕ですけど、それまではチームとして戦っていました。オフェンス一つにとってもチームで一つになってやれたので、それは良かったです。結果的に2連敗でシーズンは終わってしまったんですけど、苦しい時期も良い時期もチームで共有し、同じ方向を向いてやれていたのが一番印象深いです。負けも共有したし、勝ったのもチームで分かち合って喜ぶことができた。そこはチーム力を一番感じたところです」

田臥「終わってしまったので、ひとまずケアしたい」

ブレックスの象徴、田臥勇太はどう感じていたのだろうか。アップダウンの激しいシーズンとなったが、「つらいというのは全然なくて。もちろんコーチが交代したりケガ人があったんですけど、それを乗り越えて一つにまとまれる良いきっかけになって、だからこそみんなが前を向いてやり続けて、それでつかみとったチャンピオンシップなので価値があるというか、全員で挑みたいと思えました」と、シーズン総決算のチャンピオンシップを振り返る。

三河を追い詰めたが、届かなかった。ただ敗因について田臥は「僕はそこだけじゃないと思うので。そこまでの過程のほうが必要」と、ラスト1分の攻防ではなく全体を振り返った。「ホント、たらればになってしまいますけど、40分間の試合をどう組み立てられたか。そこに勝てなかった敗因があったと思います」

「自分たちはディフェンスのチームなので、『ここ』というよりは一つのギャンブルだったりとか、コミュニケーション不足だったりとか準備の部分とか、1本、2本を抑えていれば。勝ち切れていたんじゃないかと思います」

前日の試合後会見にはチームジャージ姿だった田臥は、私服で会見場に来ていた。それが『ゲームオーバー』を印象づける。予定より2週間早くオフに入ることになった。「まだ来週も試合をするつもりだったんで(笑)。これからですね。とりあえず終わってしまったので、ひとまずケアしたいと思います」

そして「シーズン、ありがとうございました」と集まったメディアに一礼。間違いなく今シーズンもBリーグの主役だった田臥は、一足先に舞台を降りた。1年前の三河が、比江島がそうであったように、今度は栃木の選手たちが悔しさを抱えて夏を過ごし、新たなシーズンを迎える。